まんが 有吉京子
ベルギーの全寮制ミッションスクールで、沙羅とシュナックは出会います。
人との距離をいつも慎重にはかり、近づけすぎることを極度に嫌うシュナック、開けっぴろげで屈託を知らない野生児の沙羅、二人を結びつけたのは、復活祭の寸劇でした。シスターたちへの反逆として『マノン・レスコー』の上演を強行したときから、二人の運命は変わります。
復活祭の直後、シュナックは沙羅に心を開くのをやめ、結婚のために学園を去ります。
そののち、沙羅はニューヨークで演劇に携わるうちに舞台に上がり、舞台女優としての道を歩みはじめます。そのとき、婚約者の後押しを受けて女優になったシュナックは、新進気鋭の舞台女優として名を知られるようになっていました。二人は再び出会い、惹かれあいながらも、近づくことができません。
二人はブロードウェイで名を高めてゆき、ついに同じ舞台で共演することになります。二人は素晴らしい舞台を作り上げ、そして――
長らく未完の傑作として知られてきた作品です。連載が何度も中断し、掲載誌を変え、完結したときには十年以上が過ぎていました。
『ブルージュ』は『アプローズ』の番外編です。発行が古いので、『アプローズ』より入手が難しいかもしれません。
連載開始が古いだけあって、思想的には完全にセラムン以前に属します。が、「愛ゆえに孤立」のような悪しき伝統を反映してはいません。古き良き百合の、最良のものを体現している作品です。
「愛することの困難」というテーマは、かつて少女まんがの一大デーマでした。現在でも一部のボーイズラブに脈々と受け継がれていますが、やはり下火です。たまに見られる作品も、テーマを追求しているというより、古いイデオロギーをやみくもに信奉しているだけ、との印象を受けることがしばしばです。
しかしこの作品は、時代錯誤といって片付けることのできない迫力を持っています。今後、「愛することの困難」というテーマを扱った百合作品で、『アプローズ』以上のものが現れることはないでしょう。
お手本としてみる場合、真似する部分を探すというより、偉大な先達への敬意を新たにするほうが実り多いものになるでしょう。作品ばかりでなく、作者の持続する意志に対しても、頭を垂れずにはいられません。
秋田書店から文庫版が発行されています。2003年2月から順次続刊が登場しています。
秋田書店 全6巻 1997年10月10日発行(第1巻)
『ブルージュ ―アプローズ―』
秋田書店 1992年6月10日発行
(2003年6月29日修正)