マリア様がみてる

小説 今野緒雪

作品紹介

 現代日本とは思えない異世界、私立リリアン女学園。そこには、清楚で優雅な「お嬢さま」という生き物が棲息しています。
 福沢祐巳は、お嬢さまのわりに、そそっかしくてボケ役で庶民的です。なのにある日、お嬢さまのなかのお嬢さま、小笠原祥子から、「私の妹(プテイ・スール)になりなさい」と迫られるはめに。妹とは要するに念弟、この異世界にある『姉妹(スール)』という制度で、姉が妹を導くように先輩が後輩を指導する、というもの。

作品の周辺

 過去十年にわたって、コバルトと百合とボーイズラブは、暗闘を繰り広げてきました。
 九十年代初頭、マイナーレーベルがボーイズラブに傾斜してゆくのを尻目に、コバルトはボーイズラブに距離を置き、ファンタジー路線に固執しました。やおいの元ネタは提供するが、ボーイズラブは提供しない、という方針です。
 1998年、この方針が変わりました。秋月こおやあさぎり夕を呼んだのに始まり、現在では南原兼のようなボーイズラブ専門作家までも呼ぶようになりました。
 方針変更がなされるまでのあいだ、コバルト・ノベル大賞には、純然たるボーイズラブは入選しませんでした。いっぽう、百合は2作品が入選を果たしています。三浦真奈美「行かないで―If You Go Away」(『コバルト・ノベル大賞入選作品集7』(集英社)所収)と、香山暁子『りんご畑の樹の下で』(集英社)です。しかし、入選作以外の百合がコバルトに登場することはありませんでした。
 『マリア様がみてる』が現れたのは、1998年です。ボーイズラブに関する方針転換との関連を示す証拠はありませんが、因果関係を疑うに足りる状況です。

百合的な見どころ

 百合といえばお嬢さま学校とソロリティ、そんな期待に応えてくれるシリーズです。
 百合とはいっても、メインカップル(祥子と祐巳)はキスひとつするわけではありません。絡みまである作品をバーリ・トゥードとすれば、『マリア様がみてる』は相撲です。が、「最強の格闘技は相撲である」というあの通説の正しさを、あなたは思い知るでしょう。
 百合のお手本としてみた場合、現代における「お嬢さま学校とソロリティ」の限界をも読み取るべきです。百合には、新しい世界観と「お約束」が必要です。

 祐巳がおろおろしている間に祥子がなにをしていたかというと、早くも胸もとのポケットからロザリオを取り出していた。
(正気?)
 それを下級生の首に掛けたらもう、「今のなし」とは言えなくなっちゃう。大げさかもしれないけど、ロザリオの授受は婚姻届と同じで。

『マリア様がみてる』73ページより

集英社 1998年5月10日発行

『マリア様がみてる 黄薔薇革命』
『マリア様がみてる いばらの森』
『マリア様がみてる ロサ・カニーナ』
『マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(前・後編)』
『マリア様がみてる いとしき歳月(前・後編)』
『マリア様がみてる チェリーブロッサム』
『マリア様がみてる レイニーブルー』
『マリア様がみてる パラソルをさして』
『マリア様がみてる 子羊たちの休暇』
『マリア様がみてる 真夏の一ページ』
(以下続刊)

(2003年6月29日修正)

 

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