『洒落本大成』27巻「花街鑑」が面白い。
かつての吉原の年中行事「玉菊灯篭」のもととなった名妓・玉菊の伝記という体裁をとった本である。書いてあることはもちろん嘘の皮にきまっているが、嘘であるぶん、当時の感覚をそのまま反映していると考えられる。
洒落本としてはかなり長い作品で、玉菊が廓に入るまでの話だけで短編に匹敵する長さである。
お玉(のちの玉菊)は5歳のとき、貧しい実の父親から、子のない茶屋の夫婦へと引き取られる。そのときのお玉の描写が興味深い。「なりは木綿の賎しけれども、卵を剥きたるごとき幼な子にて、どことなく嬌態(けだかく)、げに栴檀は双葉よりかんばしきと」。現代、5歳のガキのありさまを「嬌態」と書き、しかも「けだかく」とふりがなをつけるのは、真性のロリ小説だけだろう。
お玉は15歳まで何事もなく、茶屋の娘として育つ。彼女に言い寄る男のなかでナンバーワンは、ブルジョアの一人息子の滝三郎である。いきな美男で、本好きなお玉のために新刊を買ってきたりしている(ただし自分では読んでないらしい)。彼はあるとき流行り病に倒れて、数ヶ月ほど伏せった。ようやく回復してお玉のところを訪れると、彼女の両親は流行り病で亡くなっており、彼女自身は行方が知れないという。滝三郎はお玉を探し、吉原で傾城(廓のコア・コンピタンスを構成する女郎)になっていることを探り当てる。
探り当てたときの滝三郎の反応が興味深い。「そいつァどふぞ行つて、買いてえもんだ」。なにしろ、「女郎は醜業」という発想がまったくないので、こういう反応が当然のものとして出てくる――と、話には聞いていたが、本当だった。