「忘れさせるって、 どうやって?」
悪女である。
周の幽王の寵姫・褒姒は、幽王がどれほど躍起になって手を尽くしても、けっして笑わなかったという。幽王はなぜ、そんな女に入れ揚げたのか。
褒姒は、笑いを拒むことで、「この世界は退屈な場所である」と主張した。この主張は、幽王の不安そのものだった。褒姒を笑わせようと躍起になった幽王は、実は、自分自身の不安を打ち消そうとしていたのだ。
幽王のこの努力は、空回りを運命づけられている。たとえ努力が実り褒姒が笑っても、幽王の不安は消えない。
酒々井乃里子は、褒姒のように、空回りの軸、不安を映す鏡を、差し出す。
悪それ自体はなにもしない。悪を行うのは人である。この意味において、酒々井乃里子は悪女である。
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