ミシェル・シオン『映画の音楽』を読んだ。
映画音楽について300ページ以上も論じているわりには、音楽制作の具体的なプロセスへの言及が少ない。ただ、「一時的な音楽」の使用がしばしば不幸な結果を招いていることだけは、印象に残った。
「一時的な音楽」とは、作曲家が作業にとりかかる前に、フィルムに「一時的」なものとして既存の音楽をつけてシーケンスを構成することである。
黒澤明は「一時的な音楽」を使い、作曲家に「この曲と同じものを」と注文した。このため、多くの作曲家が著しく気分を害し、二度と黒澤明の依頼を受けなくなったという(この話の情報源は本書ではない)。キューブリックも似たようなパターンに陥っている。『2001年宇宙の旅』は最初、作曲家に音楽を依頼していたが、キューブリックは途中で気が変わり、「一時的な音楽」をそのまま使うことにしたという。
映画の監督には、すべきことは驚くほど多く、できることは驚くほど少ない。「一時的な音楽」をめぐる問題は、それを象徴しているかもしれない。