2004年11月06日

 G.K.チェスタトンの『新ナポレオン奇譚』を読んだ。
 無類に美しい。
 これほど美しいものに、あらすじなどを言っても始まらない。ミケランジェロの「ピエタ」の特徴を述べ立てても始まらないのと同じだ。ぜひ読者諸氏もこの美に触れることをお勧めする。
 ……と言っただけでは雲をつかむような話なので、ひとつだけ示唆しておこう。この美しさは、PS2用ゲームの『天使のプレゼント』に近いものだ。
 チェスタトンは宗教思想・社会思想の観点から論じられることが多いが、不幸なことである。先入観なしにこの作品を読んで、「政治的著作」と言ってのけるほどの低脳が世にさほど多いとは思えない。そのような評価があるのは、「チェスタトンの作品だから」という先入観のせいだろう。
 思えば、美しいものに向かって「政治的」と言いたがるのは、20世紀の流行だったような気がする。今世紀は、美しいものにただ溜息をつく時代であってほしい。
 余談だが、私が読んだ邦訳の表紙は、売ろう売ろうと力んでいる(そして空回りしている)編集者の顔が見えてきそうで切ない。イラストが宮崎駿なのは、よく頑張ったと褒めたいところだが、タイトルより大きな文字で「チェスタトンの1984年」と書いてあるのはいただけない(本書は1984年刊)。時事にからめて売るなら、『ノッティングヒルの恋人』という映画がかかったときに合わせて、原題の『ノッティングヒルのナポレオン』で売る、くらいのことをやってほしい。映画のほうはすぐにみな忘れてくれるが、オーウェルのほうは誰も忘れない。

Posted by hajime at 2004年11月06日 03:02
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