この手の本あるいは文章は、男性向けには時々よいものがあるが(『モテる技術』など)、女性向けとなると、真面目なものは皆無である。本書も例外ではない。
本書は、ある実在の女性についてのケーススタディという形式で書かれてる。その実在の女性というのは、100人にひとりしかいないくらい覇気に満ちた人物である。どれくらい覇気に満ちているかというと、大手企業に就職・ニューヨークの大学院に留学・金融関係に転職、という具合だ。男遍歴も華麗である。ギャグとしか思えない。
もし真面目にケーススタディをやるつもりなら、就職先がひどくて派遣社員・パソコンスクールに通学中・年収300万に届かない、というケースを取り上げるべきだろう。『モテる技術』はケーススタディ中心ではないが、同じくらい条件の悪いケースを念頭に置いている。著者(マーケター)も仕事では、同じくらい条件の悪い商品を扱っているはずだ。
ギャグならギャグでいいが、見る価値のある芸を見せてほしい。「『いい男をつかまえたい』だなんて本気で思っている読者はいない。役に立たない理想のケースを見せて、いい気分にさせるのが正しい」――いつもこれだ。編集者は、自分ではスマートで格好いいつもりなのだろうが、読者は退屈だ。(この手の本には編集者の意向が強く働くので、著者を責めるのはお門違いであることが多い)
『モテる技術』のもっとも素晴らしい点は、実践と情熱を前提としていることだ。読者と編集者の頭のなかの「理想のケース」に引きこもるのではなく、残酷で予想のつかない現実の戦場に向き合っている。
そのような本を作るのは、引きこもり的な本を作るより、はるかに難しい。おそらくこれからも、この手の本はギャグばかりだろう。しかしいつの日か、「派遣社員・パソコンスクールに通学中・年収300万未満」の戦場に向き合った、情熱あふれる500ページの本が出るはずだと私は確信している。
なお、「派遣社員・パソコンスクールに通学中・年収300万未満」とは、私のことではない。Amazon(なぜか7andyにはない)