2chのレズ声優スレが過熱する今日このごろ、読者諸氏はいかがお過ごしだろうか。
私はもちろん脳内キャスティングで楽しんでいる――と言いたいところだが、私の声オタ能力はあまりに低く、声優の名前と声が結びつかない。
*
お部屋の障子の外に座り、
「陛下に申し上げます。設楽ひかるが参りました」
「どうぞー」
障子を滑らせると――陛下のご様子に、緊張した。
脇息の上に突っ伏しておられ、お顔が見えない。お身体に障りがあるのだろうか。すると、私の心配をまるで察してくださったかのように、
「ちょっと待って、いま悩んでるの」
と元気なお声で、陛下はおっしゃった。
「私でよろしければ、お力になりたいと存じます」
「どんな顔して始めればいいかなー、って。
これから、ひかるちゃんのこと、泣かせるからね。私がにこにこしてたら、ひかるちゃんは泣きにくいでしょ?」
私はお側に寄った。脇息をあいだに挟まないように横に、膝が触れるくらい近くに。
「ご高配に痛み入ります。泣いていいとのお許しがあれば、なんの不都合もございません」
陛下は初めてお顔を上げて、私を上目づかいにご覧になった。いつもの信頼のこもったお顔とは様子の違う、警戒を解かないお顔だった。
陛下は低いお声でおっしゃった。
「私は許さないけど、ひかるちゃんは泣いちゃうの」
どう返事したものかわからずにいると、陛下は脇息を脇にやって、お膝を指で示された。
「膝枕させて」
それで私はジャケットを脱いだ。その途中に、
「あ、そうだ、防弾チョッキも脱いで」
ワイシャツも脱ぎ、防刃防弾チョッキを外す。チョッキの下は専用の下着になっている。
私がワイシャツのボタンを外してゆくのを、陛下はしげしげと見つめておられた。まぶたの重そうな、あのまなざしで。恥ずかしくなって私は、
「服を脱ぐのがそんなに珍しいでしょうか」
「うん。ひさちゃんは脱がさなかったし」
なんのためらいもなく緋沙子の名前が出たことに驚く。陛下にとって緋沙子はその程度の存在だったのだろうか。そうかもしれない。
「スラックスも脱ぎましょうか」
下半身はスラックスで上半身は下着というのは変な感じだ。
「逆。ワイシャツ着て」
私の仕事着は、ソックスとネクタイ以外はすべてテーラーメイドだ。ワイシャツは、防刃防弾チョッキを下に着た状態に合わせてできている。下着の上に着ると、胸回りが余って気持ちが悪い。胸の線が無防備に出てしまうのも気になる。心なしか陛下の視線も、胸のあたりに向いているような気がする。
「お膝を拝借します」
横になり、陛下のお膝に頭を乗せる。
「さーて、ひかるちゃんに質問。これは、なんでしょう?」
目の前に、竹の耳掻きが差し出された。
「耳掻きのように見えます」
「それじゃ見たまんまでしょ? 空想して。お話して」
「昔むかしあるところに、でしょうか?」
「そんなんじゃなくて。
これを、ひかるちゃんの傷つきやすいところに、ふかーく差し込んで、かきまわすんだよ?」
そのお言葉に、さまざまな感情が同時にあふれてきて、胸がいっぱいになった。
羞恥――他愛ないと頭ではわかっていても、気持ちは止められない。反発――男性器の隠喩が私を苛立たせた。それは安易に強力で、微妙なニュアンスを吹き飛ばしてしまう。期待――私の身体を、短いあいだのほんの一部とはいえ、陛下の御手にすっかり委ねてしまう、その快楽に。
そして、違和感。
私は陛下にこんなことを求めているのだろうか。というより、私が陛下に捧げるべきことは、こんなことなのだろうか。
もう決心を固めたから、そう感じるのかもしれない――いや、と思い直す。私は確かに、ずっと悔やんでいた。自分のいるべき場所、果たすべき役割を踏み越えてしまった、あの瞬間から、ずっと。
悔やんでいる。けれど知っている。それは避けられなかった。
「では、これは、小さな孫の手でございます。私はおばあちゃんで、陸子さまは私の孫」
「なにそれ、おばあちゃんと孫娘なんて、マニアックすぎ。ついてけなーい。
あーもうなんでもいいから、しちゃえ」
陛下は私の耳を押さえて、耳掻きを差し込んでくださった。身体が小さく震えるのをこらえる。
「ひかるちゃん、えっちな顔してる」
横を向いている私は、陛下のお顔をうかがうことができない。見るかわりに、思い浮かべる。陛下の、少し嗜虐的な、まぶたの重そうなお顔を。
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