アンナ・ラーリナ『夫ブハーリンの想い出』を読んだ。
時間はあまりにも過ぎ去ってしまったが、今でも色あせることなく感動的な事実がひとつ、残っている――ブハーリンはいい男だ。
著者はブハーリンの最後の妻である。若くして権力に輝いていたころの彼ではなく、スターリンに失脚させられたあとの40代後半のブハーリンと結婚した。わずか3年の結婚生活のあと、ブハーリンはスターリンに粛清された。男が魅力的に見えるシチュエーションでは到底ない。少女まんがやハーレクインに出てきそうな場面はまったくない。だが、ここに描かれているブハーリンの、なんといい男であることか。
著者はブハーリンよりもはるかに長生きした。この回想録も、生前のブハーリンが小僧に見えるような年になってから書かれたものだ。それが秘訣なのかもしれない。
全人類に本書を勧める。