人間には先のことはわからないので、「もっと後の時代に生まれていれば」と思うことはあまりない。しかし、単位系に関してだけは、「もっと後の時代に生まれていれば」と思う。SI単位系に統一された世界は今よりだいぶ面白いはずだ。
単位系の統一は、ゆっくりとだが着実に進んでおり、きわめて稀にしか後退しない。もっとも手ごわい抵抗勢力はヤード・ポンド法だが、あと300年もすれば駆逐されているはずだ。
単位系が統一されると、どう面白いか。
たとえば、仕事率(電力)と仕事(熱量・エネルギー・電力量)には、以下のような単位が主に使われている。
・馬力(仕事率)
・ワット(仕事率・電力)
・ワット時(電力量)
・カロリー(熱量)
・ジュール(仕事・熱量・エネルギー・電力量)
・TNT火薬トン(エネルギー)
これがSI単位系では、ワットとジュールに統一される。そして1ワット秒が1ジュールだ。じつにわかりやすい。
スポーツジムなどに置いてあるエアロバイクには、現在の負荷(=人間の出力)をワットで表示するものがある。そして最近の乗用車のカタログは、最大エンジン出力をワットで表記する(単位系の統一は着実に進んでいる)。エアロバイクの負荷は全力でも数百ワット、乗用車の最大エンジン出力は数百キロワット。1000倍違うものだということが、意識に染み込む。「馬力」がはびこる世の中では、こうはいかない。
食品の熱量表記がジュールになれば、エアロバイクの負荷と食品の熱量を、簡単に比べられるようになる。茶碗一杯分の白米は約1メガジュール。エアロバイクを100ワットで回すと1万秒かかる熱量だ(もちろん人体が消費する熱量は、エアロバイクの負荷の数倍になるはずだが)。
乾電池の電力量を、食品の熱量と比較できるようになるのも面白い。高性能な単三乾電池に詰まっているエネルギーは約9キロジュール。充電式の人型ロボットを実現するには、かなり頑張る必要がありそうだ。
核兵器の威力表記ももちろんジュールだ。現在の戦略核の弾頭1個が約1ペタジュール。ご飯10億杯分のエネルギーだ。エアロバイクなら10兆秒(30万年)。中国人全員が3時間ばかりエアロバイクを回せば、戦略核弾頭1個相当のエネルギーになる。
あと300年もすれば、こういう比較が当たり前の世界がくるだろう。こればかりは後世の人々がうらやましい限りである。