2007年05月04日

少コミを読む(第23回・2007年第11号)

 最近20年間における性と恋愛の観念の変化について。
 
・結婚や暮らしとの関連性の低下
 ここ20年間というもの、恋愛結婚イデオロギーは弱体化の一途をたどっている。嘘だと思ったら、一条ゆかりの初期作品をご覧になるといい。今でも結婚は恋愛物のオチに使われるが、それはオチとして使いやすいからだ。結婚が作品全体に落とす影は、ますます弱くなっている。
 
・性行為のファンタジー化
 すぎ恵美子は、実生活の延長上にあるものを、実生活の誇張として描いた。たとえば、かの有名な「頭がフットーしそうだよぉっっ」もそうだ。性行為の滑稽さを描いた名場面である。(ご存知でない読者諸氏のために補足しておくと、これはセックス中に膣痙攣を起こして外れなくなり、病院に駆け込むというシーンだ)
 ファンタジーの性行為には、そんな滑稽さはない。たとえばBLでは、肛門ではなくやおい穴が使われる。滑稽さがなければ、悲惨さもない。たとえばBL的な強姦はファンタジーであり、悲惨さがない。
 
・恋愛で得られるものに対する期待の変化
 恋愛結婚イデオロギーにおいて恋愛は、彼氏役から新しい自己を与えてもらい、生まれ変わるための魔法として期待されていた。乙女ちっくにもこの魔法の名残が感じられる。現在では、「自己」への関心は影を潜めて、関心の中心は「行為」へと移った。
 
 まだいくらでも考えられそうだが、今日はこのくらいにしておく。
 では第11号のレビューにいこう。

 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第18回
 あらすじ:インターハイの地区予選で、主人公()が活躍する。そのさまに魅了される彼氏役()。
 サッカーが描けていないので、当て馬(カズマ)の使いどころがなく、存在意義がない。
 採点:★★☆☆☆
 
・悠妃りゅう『バタフライ・キス』連載第3回
 あらすじ:彼氏役が嫉妬。
 いったい作者は、この話が面白いと思って描いているのだろうか。
 「ユーザーを見下ろすことは、たとえ慈悲心があったとしても、いずれはデザイナーをだめにする」「あなたがまぬけのために何かをデザインしているんだとしたら、まぬけにとっても役に立たないものをデザインすることになるのが落ちだろう」
 採点:★☆☆☆☆
 
・車谷晴子『極上男子と暮らしてます。』連載第8回
 あらすじ:当て馬が主人公をかどわかして罠にかけるが失敗。
 平凡で手堅い。
 採点:★★☆☆☆
 
・麻見雅『燃え萌えダーリン』新連載第1回
 あらすじ:主人公は妖怪退治の家の跡継ぎで、使い魔を授かる。その使い魔は、人間の男の形をしており、主人公との性的接触で力を得る(つまり彼氏役)。
 陰陽師だの式神だのという設定だが、一般的なイメージとは異なるので、あらすじの言葉は上記のとおりにした。
 話は定型で普通だ。これといったマイナスはないが、魅力もない。
 採点:★☆☆☆☆
 
水波風南『狂想ヘヴン』連載第14回
 あらすじ:主人公(水結)と彼氏役(蒼似)が海辺でいちゃつく。その裏で、作戦行動を準備する乃亜
 画面がところどころ妙に白い。
 普通にいちゃいちゃしている。次回ようやく波乱万丈が再開か。
 採点:★★☆☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第20回
 あらすじ:林間学校でいちゃつく主人公と彼氏役。を使ってなにやら陰謀を仕掛ける。
 話を詰め込みすぎた印象がある。いちゃいちゃと陰謀のどちらかを簡単にすませるべきだったか。
 採点:★★☆☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』 連載第2回
 あらすじ:彼氏役(蓮二)のライバルのデザイナー(鉄汰)が登場。
 まんが的な迫力で押している。
 採点:★★★★☆
 
・水瀬藍『月明かりの秘密』読み切り
 あらすじ:片思いの相手(彼氏役)を遠くから観察・記録する主人公。観察記録を彼氏役に見られたが、向こうも実は主人公のことが好きだった。
 彼氏役の印象が薄い。話もすっきりしない。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第41回
 あらすじ:の身体に異変。とケンカ中。
 最後のページに、「僕の心臓を 取り替えてください」と逞のモノローグ。昂の心臓を移植という展開か。
 作者には、「移植したけれど寿命はたいして伸びない」などという残酷な展開をやる根性はなさそうだ。「逞は長生きして繭と幸せになりました、めでたしめでたし」で終わらせるつもりか。いまさら繭を理不尽に死なせるのも難しいので、ほかに手はなさそうだ。
 採点:★☆☆☆☆
 
・天音佑湖『カントリー・ハウスへようこそ!』読み切り
 あらすじ:主人公はホテルのメイド。小学生の女の子がホテルにきて、盛大な誕生日パーティーを準備させるが、女の子の両親さえ来ない。女の子に犯罪の疑いがかかったものの、彼氏役の努力があって、両親が忘れていただけと判明する。あらためて誕生日パーティーを開く。
 絵も話もしっかりしていて、あらゆる面で好感度が高い。が、好感度だけでは、なにかが足りない。少コミ作家たるもの、読者を傷つけることを恐れず、悪意を抱くべきだと信じる。笙野頼子のような悪意とまではいかなくても、せめてJ. K. ローリングスのような悪意を。
 採点:★★★☆☆
 
新條まゆ『愛を歌うより俺に溺れろ!』最終回
 あらすじ:いったんはブラウエローゼンから離れた秋羅だが、バンドコンテストの舞台上で、ネコ耳をつけて復活する。
 普通に盛り上げて終わった。
 採点:★★★☆☆
 
・みつき海湖『とろけるようなキスを奏でて』最終回
 あらすじ:彼氏役の仕打ちはすべて、主人公を歌手にするための陰謀だった。
 「ひどい仕打ちが実は相手のためを思っての陰謀」を、後から謎解きとして説明されて、「ああよかった」と納得するような読者がこの世にいるのだろうか。
 謎解きではなく最初から読者にわかるように描いた話なら、ちゃんと成り立つし、実例も豊富にある。泣かせるシーンの定跡だ。だがこれは、後から謎解きとして説明しては成り立たない。
 採点:☆☆☆☆☆
 
第24回につづく

Posted by hajime at 2007年05月04日 01:57
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