セルバンテス『ドン・キホーテ』を読んだ。
読んで驚いたこと――ドン・キホーテは案外強い。
ドン・キホーテの戦いのうち世に知られているのは、風車突撃(前編第8章)だけだ。しかしドン・キホーテの戦いは、人間相手のものにかぎっても、全部で17回に及ぶ。その内訳は、7勝8敗2引き分け。でたらめな戦いが大半なので、この数字からただちにドン・キホーテの強さを測るわけにはいかないが、少なくとも『神聖モテモテ王国』のファーザーとは比較にならないほど強い、とはいえそうだ。
以下にドン・キホーテの戦いの概略を記す。
前編:
第3章 騎士叙任式ごっこ:引き分け
ドン・キホーテは騎士叙任式のつもりで、旅籠の中庭に陣取り、井戸に甲冑を載せて、不寝番をしていた。そこへ馬方がやってきて、井戸と甲冑に触れようとしたので、これを奇襲的に殴り倒した。事態に気がついた馬方連中が、槍の届かない距離から投石で反撃を開始、形勢はドン・キホーテに不利となる。そこで旅籠の主人が「これは狂人だから」と仲裁に入り、決着なしで終結する。
第4章 商人の一団と喧嘩:敗北
街道をゆく商人の一団と出くわして、これを騎士の一団と思い込んだドン・キホーテは、喧嘩をふっかける。しかし、つっかかっていこうとしたときにロシナンテがつまづき落馬、敗北を喫する。
第8章 風車突撃:人間相手ではないので省略
第8章 姫君救出:勝利
街道をゆく2人の修道僧を、姫君をさらってゆく悪者と思い込んで、威嚇のあと襲撃。丸腰で聖職者の2人は、泡を食って逃げ出した。
第8章 無礼なビスカヤ人:勝利
上の姫君救出のとき、さらわれてゆく姫君に見立てられた貴婦人と会話するドン・キホーテ。しかしわけがわからないので、付き人のビスカヤ人が腹を立て、ドン・キホーテを侮辱する。このビスカヤ人を懲らしめるべくドン・キホーテは剣を抜き、ビスカヤ人も応戦する。
問題のビスカヤ人は喧嘩っ早く、おそらくは壮健で、経験と身体では優位にある。しかし甲冑がなく、馬は賃貸しのひどい騾馬で、装備では劣位にある。ドン・キホーテはこのビスカヤ人と真っ向から斬り合いを演じて、きわどく勝利をものにする。
第15章 ロシナンテのよろめき:敗北
ロシナンテが不始末をして、馬方連中に叩きのめされた。それを見たドン・キホーテ主従は、20人以上の馬方連中を相手に襲い掛かる。しかしあえなく逆襲にあい、敗北する。
第16章 夜這い先:敗北
ドン・キホーテ主従は旅籠で、馬方と相部屋になる。夜、寝静まったあと、旅籠の娘がその部屋に忍び込み、情夫である馬方のところへゆこうとする。しかし娘はベッドを取り違えてドン・キホーテのところに来てしまう。それを見つけた馬方が、ドン・キホーテを殴り倒す。
第19章 真夜中の葬列:勝利
夜中、貴人の遺体を運ぶ葬列に出くわしたドン・キホーテは、誰何のあと、これを悪者と思い込んで襲う。葬列は多人数だったが丸腰で、戦意なく逃走した。
第21章 金だらいの兜:勝利
床屋がロバに乗り、金だらいを持って、街道を進んでいた。この金だらいを見て、伝説の兜と思い込んだドン・キホーテが、床屋を襲う。床屋は戦意なく逃走した。
第22章 囚人解放:勝利
ドン・キホーテは街道で、囚人の護送に出くわした。囚人は十数人、警護部隊の兵士は8人。ドン・キホーテはしばらく囚人と話したあと、部隊の長に向かって、囚人を解放するよう要請、断られたのでこれを襲った。
囚人はただちにドン・キホーテに加勢、兵士たちは形勢不利とみて、任務を捨てて逃走した。
第22章 囚人の忘恩:敗北
上で解放した囚人たちに向かって、無茶な要求をするドン・キホーテ。囚人たちはドン・キホーテを投石で叩きのめす。
第24章 狂気のカルデニオ:敗北
ドン・キホーテは山の中で、カルデニオと名乗る風変わりな男と出会う。ドン・キホーテ主従がこの男と会話していたら、突然カルデニオが狂気の発作を起こし、ドン・キホーテを殴り倒した。
第52章 食卓の喧嘩:敗北
山羊飼いがドン・キホーテを侮辱し、喧嘩になる。周囲からの介入が多数あったものの、つまるところドン・キホーテが叩きのめされた。
第52章 宗教行事の行列:敗北
農民たちが聖母像を運んでゆくのを見たドン・キホーテは、これを悪者と思い込んで襲う。しかしあっけなく殴り倒される。
後編:
第12章 《鏡の騎士》:勝利
学士サンソン・カラスコは、ドン・キホーテの地元の人間であり、ドン・キホーテの狂乱を止めるための策を練った。その策とは、自分が騎士に化けて、ドン・キホーテに決闘を挑んで勝利し、ドン・キホーテに言うことをきかせる、というものだった。
カラスコは若いが、喧嘩慣れはしていない。甲冑はよいものを揃えたが、馬はロシナンテと大差ない。
決闘は正々堂々と行われた。カラスコの油断と、戦技上のミスを突き、ドン・キホーテが勝利を得る。
第17章 ライオンの冒険:人間相手ではないので省略
第21章 カマーチョの婚礼:勝利
カマーチョという男が、財力にものをいわせて恋敵を破り、名高い美女と結婚式を挙げる。その結婚式に居合わせたドン・キホーテ主従。そこへ恋敵がやってきて、カマーチョを欺き、新婦になるはずだった美女と結婚してしまう。カマーチョの一党は怒り、恋敵の一党を襲おうとするが、武装し騎乗したドン・キホーテに威嚇され、思いとどまる。
第26章 人形劇襲撃:人間相手ではないので省略
第27章 ロバの鳴きまね戦争:引き分け
多人数の農民が武装して、隣村を襲うために行軍していた。そこに行き合わせたドン・キホーテ主従は、襲撃をやめさせようと説得にかかるが、サンチョ・パンサが不用意な発言をして殴り倒される。ドン・キホーテは報復を試みるが、敵が手ごわいとみて退却した。
第64章 《銀月の騎士》:敗北
学士サンソン・カラスコは、以前と同じ策でふたたびドン・キホーテに挑む。今度は馬もよいものを揃え、油断もミスもなく、ドン・キホーテを倒す。
いかがだろうか。