まず、ふろくの読み切りについて。あらすじは省略。
・美桜せりな『とはずがたり』
有名な王朝文学のドリームのなさは描かずに(どうやらドリームだと評価が低く有名にならないらしい)、えげつないところだけ描こうとする態度に疑問を覚える。2つセットで面白くなるようにできている。無名作品からドリームを発掘するほうがいい気がするが、おそらくやらないだろう。
採点:★★☆☆☆
・市川ショウ『数学的恋愛確率』
変でいい。
採点:★★★☆☆
・天音祐湖『世界の終わりに抱きしめて』
普通に面白い。
採点:★★★☆☆
では第18号のレビューにいこう。
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』新連載第1回
あらすじ:女装美少年モデル(彼氏役)を弟に持つ主人公。しかし実は弟とは血縁がなく、しかも弟は主人公に惚れている。
画面が単調だ。顔の角度や描き方にバリエーションがないうえに、顔ばかり描いてあるからだろう。
少コミの読者年齢層では、女装の彼氏役は難しい気がする。第二次性徴期の最中で、女性性(身体的・社会的な)に対して余裕がなく、女形的な超女性を楽しめない。そのへんの事情を反映してか、この彼氏役も、女形的な超女性を演じない。
採点:★☆☆☆☆
・くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第2回
あらすじ:陸上部を辞めた先輩(不良)に戻ってきてもらおうと努力する彼氏役(翼)。
身体の動作の描き方にげっそりする。池山田の最悪なところを真似たのだろうか。身体自体の描き方は池山田よりマシなので、妙ちきりんな動線を描いてごまかそうとする(逆効果になっているが)のをやめれば、ずっとよくなるだろう。
話もよくわからない。翼がなぜ先輩に執着するのか、動機が描かれていない。先輩の才能に執着しているのなら、その才能を描くべきだ。
採点:★☆☆☆☆
・咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第9回
あらすじ:ライバルが主人公(歩)の能力を認める。
今回もぐだぐだと話が進まない。
採点:★★☆☆☆
・白石ユキ『お嬢様のヒミツ・』新連載第1回
あらすじ:外見は完璧なお嬢様の主人公(晴)。晴は転校したばかり。言葉のなまりがひどいのを気にして、学校でまだ一言もしゃべっていない。しかし偶然、彼氏役に言葉を聞かれたのがきっかけで、少しだけ話せるようになる。
画面構成がいい。工夫が多く、伸びやかな印象を与える。彼氏役の押し出しが弱いのが、少コミ的には気になる。
採点:★★★★☆
・池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第25回
あらすじ:彼氏役(司)が無気力プレーで敗れた件を、主人公(翠)が追及。
願わくば、このまんがを支持している読者(つまり単行本を買っている読者)の、これからの人生を追跡調査してみたい。男関係で悲惨な目にあう人の割合がどれくらいになるか。
「性描写で子供に悪影響が」という説は願望思考のトンデモだが、「さげまん女をロールモデルにする子供に悪影響が」という説はあなどれない。「悪者が暴れまわるテレビゲームより、かっこいいヒーローが敵を倒すゲームの方が、むしろ子どもの攻撃性を高める可能性がある」というのと同じ理屈だ。この作品の翠は、かっこいいヒロインとして描かれている。
話は引き伸ばしにかかっている。
採点:★☆☆☆☆
・しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』連載第5回
あらすじ:兄たちの干渉を思い、心が折れそうになる主人公(京華)。しかし彼氏役(大輔)は動じない。
作者は、見えているものが多い人だと思う。見えているものが多いからといって本人は必ずしも幸福ではないが、読者にはよいものを与えていると思う。
次回は兄たちのアピールタイムか。前の連載では、保護者役をうまく使えずに腰砕けになったが、今度はどうか。
採点:★★★☆☆
・織田綺『LOVEY DOVEY』連載第27回
あらすじ:彼氏役(芯)の策により、理事長の陰謀は挫折した。理事長は主人公(彩華)の直接排除を決める。
緊張感を切らさないまま大詰めへと向かっている。純はここでお役御免かと思ったが、もう一暴れしそうだ。実にいい。
採点:★★★★☆
・青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第48回
あらすじ:逞と繭が修学旅行に復帰。周囲の好奇心と祝福を受ける。
男女平等の観点から、女性の婚姻最低年齢を男性と同じ18歳以上に引き上げるべし、という議論が昔からあり、そろそろ実現しそうな雰囲気だ。そうなると今回のような楽しい展開もできなくなってしまう。少し寂しい。
採点:★★★☆☆
・夜神里奈『ラブ・ハプ』読み切り
あらすじ:占い師に「今月中に黒髪の彼氏ができる」と言われて真に受けた主人公。それを聞いた腐れ縁の幼馴染(彼氏役、茶髪)が、「彼氏ができるかどうか見張ってやる」と言い出す。最後は彼氏役が主人公のために髪を黒く染めてくる。
話の作りこみが足りない。たとえば、主人公が柔道の実力者と設定されているが、ほとんど生かされていない。
採点:★★☆☆☆
・千葉コズエ『ぎゅっとしてチュウ』読み切り
あらすじ:受験勉強に熱心な彼氏役とつきあう主人公。自分が最初の女ではないかもしれないと気づいて動揺する。
「受験勉強に熱心」というのは彼氏役の特徴として役に立つのだろうか、と疑問に思う。受験を描いても、少女まんがとして面白くなるのかどうか。
少コミには珍しくラブホテルが登場する。少コミ読者の多くにとっては、男子トイレと同じくらい謎の空間だろうと思うが、そのあたりのわくわく感があまり反映されていないのが惜しい。
採点:★★★☆☆
・蜜樹みこ『恋色旋律☆ダブル王子』最終回
あらすじ:海里と大地を対立させた責任を感じた主人公は、母の暮らす沖縄へと逃げる。海里は追いかけるが大地はそれを押しとどめ、コンサートツアーを成功させて主人公を安心させるべきだと説く。コンサートツアーの成功を見て主人公は海里と大地のもとに戻る。
釈然としない終わり方だった。海里と大地のどちらを選ぶかが読者の関心になっているのに、それを十分に使わないままで「二人が仲良くなることが優先」という結論を持ってこられても困る。
採点:★★☆☆☆
・藍川さき『シークレット・キス』最終回
あらすじ:主人公は正式に彼氏役と彼氏彼女になる。行楽の帰りにラブホテルに寄るが、主人公の緊張がひどく、未遂に終わる。
オチのつけかたがおかしい。流れからいえば、「正式に彼氏彼女になりたい」でも「変化が怖いからまだお試し期間でいたい」というダブルバインドを提起して最後にケリをつけるのが普通のオチだがそうはならず、ぎこちない構成になってしまっている。
採点:★★☆☆☆
第31回につづく
やっぱり中里さんも男性ですね。
そこまで考えておきながら、「女を不幸にする男をかっこいいヒーロー像とするのは子どもに悪影響が」とは考えてみもしないあたり、願望的バイアスかかりまくりで面白いです。
親や兄弟のようにしがらみのある相手ならともかく、彼氏ごときの他人をつかまえて、「お前が私を不幸にした」と責任をなすりつける態度は、さげまん女の最たるものだと思います。
Posted by: 中里一 at 2007年08月30日 19:36