少コミレビューを始めようと思ったときから、ずっと考えている――
読むことは無力なのか?
よい読者とは、よい作品が集まるところに生じる影にすぎないのか?
批評とは、屑に対しては、「だって屑じゃん」という循環論法しかできないものなのか?
「ガベージ・イン・ガベージ・アウト」という言葉がある。コンピュータに屑データを入力したら、出てくる結果も屑、という意味だ。しかし人間の知性にはもっと高度なことができるのではないか?
現在のところまだ、読むことの力は、発見できていない。
第19号のレビューにいこう。
・水波風南『今日、恋をはじめます』新連載第1回
あらすじ:高校の入学式。主人公(つばき)は成績優秀だが第一志望に落ち、第二志望でもトップ合格できず、意気が上がらない。トップ合格だった彼氏役(京汰)に絡まれて怒り、勢いで相手の髪を切ってしまう。
主人公の感情の動きが、話のノリと整合していない。「怒って髪を切る」→「怒った彼氏役に連れ出される」まではいいとして、「体で払え」→「髪をもっと切って整える」は、なにが起きているのか一読ではわからなかった。この作者は、設定の多い話をすっきりと語る構成力があるわりに、人物の心理が破綻しやすい気がする。
最近は学力の高い主人公が流行りなのだろうか。僕キミの繭、『LOVEY DOVEY』、そしてこの話と、現在の長期連載7本のうち3本までが学年トップクラスの学力になっている。
採点:★★★☆☆
・池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第26回
あらすじ:彼氏役(司)は事実を明かさず嘘をつく。そのまま主人公と二人でいちゃつく。
日常恋愛シーンはまともに見られる。
採点:★★☆☆☆
・悠妃りゅう『こい・すた』新連載第1回
あらすじ:主人公(雫)が好きな男は、主人公の姉の男。しかしある日、彼氏役(空)にそれを気づかれたのが影響して、思いをふっきる。雫は空に惹かれるが、空は「女とはつきあわない」と言う。
過去のいきさつと因果関係がごちゃごちゃしている。コマ割りの流れもよくない。第1回では旋回軸が見えない(おそらく「過去の恋」だと予想する)構成なのが諸悪の根源か。
採点:★★☆☆☆
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第2回
あらすじ:敵役(臣吾)は彼氏役(千尋)の恋心を知った。これを面白いと思った臣吾は主人公(亜美)に迫る。それを心配した千尋は、モデルの仕事をうっちゃって、臣吾とデート中の亜美をかっさらう。
千尋の「女装」という特性がまったく活用されていない。臣吾の動機も弱い。なにか重要で興味深いことが起きている、という感じがしない。
採点:☆☆☆☆☆
・くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第3回
あらすじ:陸上部を辞めた先輩が復帰して部活動。彼氏役(翼)が主人公を意識。
少コミで多少なりともまともにスポーツしているのが新鮮で驚く。
採点:★★★☆☆
・白石ユキ『お嬢様のヒミツ・』連載第2回
あらすじ:クラスに友達を作ろうと、変な方向に努力する主人公(晴)。晴は彼氏役のことを友達として有難がるが、彼氏役は複雑な反応をする。
ネタの出し方・使い方がぎこちない。主人公と周囲のズレを面白く演出すべきところで、整理が足りずごちゃごちゃとして、印象が薄くなっている。とはいえ、主人公の魅力で持たせている。
採点:★★★☆☆
・咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第10回
あらすじ:主人公(歩)がライバル(樹里)とコンテストで対決し、力及ばずに敗れる。しかし彼氏役は樹里になびかず、歩のもとに戻る。
読んで我が目を疑った。まったく話になっていない。「一生懸命やりました」「結局負けました」「でも彼氏は相変わらずこっちのもの」――これが話といえるのか。「真剣勝負を経験したおかげで、彼氏のことが少し理解できました」など、ちゃんと話にする手はいくらでもある。
採点:★☆☆☆☆
・しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』連載第6回
あらすじ:家がヤクザの組長であることを彼氏役(大輔)に告白した主人公(京華)。それにもめげずに大輔は、京華といっしょに京華の家に行く。するとそこには思いもかけず同級生(男)がいて、「京華は自分のもの」と宣言する。
変化に出た。ちまちまとした話では前回と似たような展開になる、と踏んだか。マンネリなのは彼氏役の行動パターンなので根本的な解決にはならないが、変化に出ること自体は悪くない。
採点:★★★☆☆
・青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第49回
あらすじ:いちゃいちゃする逞と繭。逞の病状が悪化し、主治医(繭の父親でもある)にセックス禁止と言われるが、死を感じることでさらに逞は繭を求める。
今回が49回なので、全10巻とすれば(少コミではめったに10巻を越えない)、残すところあと10回弱。逞の闘病、照を使う(夢に出てきたのがきっかけで、病床で回想と妄想が繰り広げられる、というくらいか)、昂が倒れる、などなど、やりたい手がたくさんある。なのに、まだ元気なうちのいちゃいちゃごときで引っ張るということは、10巻を越えて続くのか。あまりいい選択ではないと思う。終盤は攻め倒して終わるほうがいい。
採点:★★★☆☆
・織田綺『LOVEY DOVEY』連載第28回
あらすじ:理事長が主人公(彩華)を排除にかかり、彩華と彼氏役(芯)は抵抗する。事は一部生徒と理事長の全面対決へと発展するが、芯の姉がやってきて、理事長の交代を告げる。
どうケリをつけるのかと楽しみにしていたが、デウス・エクス・マキーナの発動が早すぎた。完全に絶望、というくだりを延々とやった後、それこそ最後の3ページで取ってつけたように発動する(ホメロス『オデュッセイア』)のでなければやらないほうがいい。
ここまでうまく運んできたのに、着地失敗とは残念だ。着地失敗と思わせて最終回で大逆転、という展開になるよう祈る(ありそうもないが)。
採点:★★☆☆☆
・藤中千聖『愛こそすべて!!』読み切り
あらすじ:「在学中は恋人を作ること」という校則のある学校に転校してきた主人公。生徒はほぼ全員すでに恋人がいるが、校則の適用されない生徒会長(彼氏役)は唯一の例外。彼氏役は彼氏作りを手伝ってくれるが、主人公はなかなか告白できない。
脇役が面白い。根本的に苦しい話(校則の設定があまり活用できていない)でよく頑張っているとは思うが、やはり苦しい。
採点:★★★☆☆
・浅野美奈子『誘惑・恋ゴコロ』読み切り
あらすじ:男子校の教師である姉になりすまして、教壇に立つ主人公。目的は、姉を悩ませる不良である彼氏役を更正させること。しかし主人公は彼氏役に惚れてしまう。彼氏役も主人公に惚れ、主人公を喜ばせるために不良をやめる。
どうしてこの作者がデビューできたのか、あれこれと考えてしまう。必ずデビューを出すという条件で募集をかけたものの、「少コミ作家になるのは損」と知れわたっているので、少コミ的でまともな応募者はひとりもおらず、これでも一番ましな選択肢だった、というあたりか。
(なぜ少コミ作家になるのは損なのか:
・読者層の購買力が乏しく、多少のヒットでは金も知名度も得られない
たとえば少コミ作品はアニメ化から縁遠い。DVDが売れないからだ。もっと低学年なら、親の財布から直接DVDを買わせられるが、少コミの年齢層ではそういうことは期待できない。
・よい読者がいないので、「売れなくても評価される」ようなことがありえない
緊密な構成やアクロバティックな展開から快楽をくみとれる読者が少コミを読むとは、どうしても思えない。
つまり少コミ作家には、大ヒット以外の達成や満足がない。かといって少コミが大ヒットを出すのに有利な舞台というわけでもない。これは損だ。この理由からも、少コミの原稿料の最低額は3倍にすべきだ)
採点:☆☆☆☆☆(本当はもっと低い)