2008年01月22日

少コミを読む(第38回・2008年第2号)

 まとめて追いついてみる。2008年第2号のレビュー。

 
くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第10回
 あらすじ:バッティングセンターで当て馬(滉士)が彼氏役()を挑発、主人公(夏美)のキスを賭けて勝負を始める。
 旋回軸がさっぱり見えない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・織田綺『箱庭エンジェル』連載第2回
 あらすじ:彼氏役()との距離を縮める主人公(羽里)。そこに立ちはだかる敵役(飛鳥)。飛鳥は羽里に、「自分の彼女になるなら生徒会役員にしてやる、そうすれば桃と一緒にいられる」と持ちかける。
 桃が普通に面白い。話のほうはスロースタートか。
 採点:★★★☆☆
 
・藍川さき『オレ様王子』新連載第1回
 あらすじ:柔道部の部長(彼氏役、)に目をつけられ強引にマネージャーにさせられた主人公(砂羽)。「早くオレのことを思い出せ」と蒼はいう。
 人間が粘着を捨てたら、人間でないもの――行政や企業や市場などのシステム――に逆らうすべがなくなる。どんな個人よりも、行政や企業や市場のほうがはるかに粘着なのだ。少コミも例外ではない。だから私は何度でも粘着して言う。少コミにおける暴力描写について。
 少コミの暴力描写には、暴力の暗さ重さへの認識が欠けることが多すぎる。スラップスティックなら軽いのは当然だが(そこではすべてが等しく軽い)、この作品の世界観はそういうものではない。しかも格闘技の選手にとって暴力は最後の手段だ。
 作者自身が暴力から隔離され安全な身であるからといって暴力を軽く描くのでは、想像力の怠慢というほかない。この世の板子一枚下は暴力でできている。
 想像力を軽んじるこのような態度は、読むものに鋭く伝わる。特に、想像力の豊かな人間、つまりよい作品を描ける人間には必ず伝わる。現在の少コミがよい新人を欠く理由の一端は、想像力の軽視にあるのではないか。
 採点:★☆☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第33回
 あらすじ:彼氏役()の父親の訃報を聞いて、司が行方をくらます。
 サッカーをしていない回なので画面は見られる。
 それにしても、当て馬(カズマ)が毎回のように忠犬っぷりをアピールするのはなぜだろう。
 採点:★☆☆☆☆
 
・白石ユキ『アクマでコイビト。』連載第2回
 あらすじ:彼氏役()の誕生日にデートするはずが、ばったり出くわした彼氏役の友人(女)を同情と優柔不断のために仲間に加えてしまい、主人公(凛子)は後悔する。
 今回は話になっていた。
 採点:★★☆☆☆
 
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第9回
 あらすじ:彼氏役(千尋)とのあいだに血のつながりがないと聞かされて思い惑う主人公(亜美)。千尋にその件を尋ねてキスシーン。
 順当にまとめに入ったが、敵役(臣吾)のほうは捌ける気配がない。ダシに使っただけか。
 採点:★★☆☆☆
 
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第8回
 あらすじ:主人公(つばき)の妹(さくら)が彼氏役(京汰)に接近を図る。かつて京汰がつばきにくれたワンピースがきっかけで、つばきの思いが京汰にばれる。
 おそらくは作者の狙い通りの進行。
 採点:★★★☆☆
 
咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第17回
 あらすじ:彼氏役(蓮二)が主人公()を連れ出し、記憶が戻るようにと自分の店などを見せて回る。
 面白く演出できる展開のはずだが、ややアイディアを欠く。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第56回
 あらすじ:に「心臓移植を断ってもいい」と言い出す。
 繭の動機の辻褄があわない。の家族が移植を拒否しないかぎり、たとえ逞が断っても心臓は別の待機者に回されるだけで、逞の選択と移植実行のあいだには因果関係がない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・紫海早希『恋心・カイドク中』読み切り
 あらすじ:主人公は幼馴染の男(彼氏役)とかつて付き合っていたけれど別れ、今では友人。しかし主人公に恋愛感情が起こり、彼氏役の思いを気にする。
 旧校舎がどうのこうのが取ってつけたようで、ぎこちない。ほかの流れは滑らかで説得力があるので惜しい。
 採点:★★★☆☆
 
・浅野美奈子『先輩と同棲宣言』読み切り
 あらすじ:彼氏役に告白した主人公。彼氏役は「今すぐうちにこい」「同棲しろ」と言い、主人公は言いなりになる。それからも主人公は自発的に、あるいは彼氏役に命令されて、愚行を重ねる。やがて主人公は両親に連れ戻されるが、そのあと彼氏役が家にきて両親に会ってくれる。
 最近、「思想的にヤバい小説はどんなものがあるか」という話を友人としたとき、これといって例が挙がらなかった。思想的にヤバいまんがならここにある。「嫌われ松子なみに判断力のない主人公が愚行を重ねるが、嫌われ松子のような末路をたどるどころか、経験からなにひとつ学ばないまま世間的な幸せをゲットする」という思想は、まったくもって突き抜けている。
 チャンピオンREDは秋田書店の核実験場と名高いが、おそらく思想的な逸脱度では少コミのほうが上だ。願望充足まんがの到達点がここにある。
 採点:☆☆☆☆☆ 採点不可能と言いたい
 
・蜜樹みこ『ラブナイフ』最終回
 あらすじ:主人公(明希姫)と彼氏役(天宮)が結ばれる。明希姫は友人や、好きでもないのに付き合っていた男と対決する。
 明希姫の敵となる友人たちに、正義面やおためごかしや陰湿さが欠けており、問題がひどく矮小化されている。
 この作品で最初に提起された問題はこうだ――「自分の属している集団が悪であり、自分にとって有害なものだと悟ったとき、どうすべきか」。
 主人公は集団から抜けるなりして秩序を乱すことになるが、「秩序を乱す」という一点においては主人公は悪であり、敵に正義がある。敵は当然、このわずかな正義を最大限に振りかざす。面倒を嫌う傍観者(中学や高校のような閉鎖空間では恐るべき存在)は、秩序を乱す主人公の肩を持とうとはしない。そしてなにより、敵の掲げる「既存の秩序に従え」という正義は、主人公自身にも内面化されている。主人公はたくさんの戦線で戦う羽目になる。主人公がこのように孤立無援であるがゆえに、主人公を助ける運命のスーパーヒーローとして彼氏役を際立たせることができる。だからこれは、少コミ的においしい条件が揃った、非常にいい問題なのだ。
 しかし作者は、この問題からおいしさを引き出すかわりに、問題を矮小化してしまった。大失敗である。
 採点:★☆☆☆☆
 
第39回につづく

Posted by hajime at 2008年01月22日 20:44
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