2010年03月26日

ドストエフスキー『悪霊』

 ドストエフスキー『悪霊』を読んだ。
 尻切れトンボがひどい。連載時に編集部の要求で削除された部分があり、それが尾を引いたものらしい。というわけで、完全版の展開を妄想してみる。

 文学カドリールの日、ピョートルがリザヴェータをニコライのもとへ運んだ後から、ニコライ関係の展開がおかしくなる。リザヴェータとニコライの破局が腑に落ちないし、その後のニコライの失踪と自殺もよくわからない。ピョートルとニコライの対立もすっきりと決着しない。さらにはフェージカの結末もいまひとつ盛り上がらない。
 まず、ピョートルとニコライが対決して決着をつける必要がある。ピョートルがニコライを殺す、それも激情のあまり後先考えずにやって、あっさりと官憲に追い詰められた挙句、フェージカに裏切られて殺される。フェージカはピョートルを殺す間際に例の説教をかます――というのが私の思いつくかぎりのベストエンディングだ。
 このエンディングに持っていくにはどうするか。
 ピョートルを激情に駆り立てるのは、削除部分にある告白文のばらまきだ。これによりピョートルのニコライ偶像化計画が不可能になる、それもピョートル自身のニコライ観が破壊されることによって不可能になるからだ。
 リザヴェータとニコライの破局も、告白文のばらまきによって説明がつく。ニコライは事前にばらまきの準備を整えておき(手段は郵便かなにか)、文学カドリールの翌日に出回る。リザヴェータはニコライから告白文を見せられ、さらにはばらまき計画の進行状況を聞かされて絶望する、という段取りだ。
 大詰めにニコライ vs ピョートルというビッグイベントが控えているので、シャートフとキリーロフの始末は手早く行われる。一日前倒しして、文学カドリールの翌日の夜だ。その同じ夜のうちにピョートルがニコライを殺す。こうやってピョートルを忙しくすることで、昨日は事態を思うままに操っていたピョートルが、今日は狂ったように事態に追い回されて破滅する、という構図ができあがる。
 ニコライの死からピョートルの死までのあいだに、五人組がさらなる内ゲバを繰り広げると面白い。互いに密告を恐れて疑心暗鬼になり集団連続殺人だ。最後まで生き残るのはリプーチンがいい(とはいえ逮捕されて死刑確実)。
 もっといい案もありうるだろうが、ともあれ原作の尻切れトンボはひどい。終盤をオリジナル展開にしたコミカライズなどがあればぜひ読んでみたい。

Posted by hajime at 2010年03月26日 01:49
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