2012年03月27日

人は案外『エリートヤンキー三郎』に近い

 『心理学が描くリスクの世界』を読んだ。心理学におけるリスクと不確実性を紹介した本である。
 内容的には行動経済学と重なる点が多い。行動経済学を紹介した本には、『予想どおりに不合理』という傑作があり、たいていの非専門的な読者には先にこちらを読むことをお勧めする。
 さて本題。以下の問題に取り組んでいただきたい。制限時間は1分間。
 
 ある男が馬を$60で買い、$70で売った。それから彼は$80でそれを買い戻し、再び$90で売った。彼は馬の売り買いでいくら儲けたのか?(215ページより)
 
 1952年、アメリカかどこかの大学生にこの問題を解かせたときの正解率は、44〜46%だったという。
 読者諸氏はこの数字をどう思われただろうか。私にとっては衝撃的な値だった。この問題に半分も正解できないような集団など、現実はおろかフィクションの世界でさえ、『エリートヤンキー三郎』の舞台の底辺高校くらいしか思いつけない。
 衝撃はさらに続く。被験者にこの問題を(一人で)解かせてから、5〜6人の集団で8分間議論させたあとに集団が出した解答の正解率は、72〜84%だった。
 いったい彼らは8分間なにをしていたのか。これまた『エリートヤンキー三郎』の世界のほかに私はなにひとつ思い描けない。
 
 日本の学生とインドネシアの学生を比較した研究も、違った角度から衝撃的であり、『エリートヤンキー三郎』的だ。
 
 アメリカ合衆国において、飛行機の機体の一部の落下による死亡と、サメによる死亡とでは、どちらの方がより多いと思いますか。(236ページより)
 
 2001年の調査では、日本の学生はちょうど半々に分かれ、インドネシアの学生は228対72で「飛行機の機体の一部の落下による死亡」が多かった。(79ページ)
 この差自体は、インドネシアと日本の学生のあいだの「アメリカ」についての情報量の差によるものだろうが、その差が桁違いなものとは思えない。インドネシアの大学進学率を考えれば、バイタリティや頭の冴えではインドネシア学生のほうが優っている可能性が高い。
 だが、情報が多少乏しいだけで、これほど圧倒的な偏見が生じる。バイタリティと頭の冴えと学力と社会的ステータスをすべて備えたエリートが、『エリートヤンキー三郎』になってしまう。
 
 『予想どおりに不合理』は傑作だが、甘口だった。本書は辛口だ。本書を読むと、世の人々がみな『エリートヤンキー三郎』の登場人物に重なって見えるようになる。もちろん自分自身も含めて。

Posted by hajime at 2012年03月27日 21:04
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