2014年05月25日

全世界の売れないEtsyセラーよ、団結せよ!

 APLキーボード(を作るためのキーキャップ)をEtsyで売りはじめた。

 そしてまだ1個も売れない。

 
 "Etsy 売れない"でぐぐると、「こうすれば売れる」「こういうのが売れる」的な話ばかりがヒットして、心が荒む。全世界の売れないEtsyセラーよ、団結せよ! というわけで私は、おそらく未来永劫売れないEtsyセラーとして、今ここに同志諸君に呼びかける。
 
 スティーブ・ジョブズは、少なくとも日本では、「物を作った人」ということになっているらしい。これが私にはまったく理解できない。ジョブズはセールスマンだ。ジョブズは魔法使いだったが、使えた魔法はただ一種類、セールスの魔法だけだった。
 『「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ』というのはジョブズの有名なセリフだが、この戦術は、セールスの魔法使いがいなければ成り立たない。たとえば、MicrosoftはiPadよりも先にタブレットPCを売っていた。もちろん、ジョブズの魔法は万能ではない。NeXTはジョブズの魔法をもってしても売れなかった。
 そして同志諸君! 我々には断じてセールスの魔法はない! もしそんなものがあれば、Etsyにたむろして、売れない我が身をかこつ羽目にはなっていない。ジョブズがアップルストアを作ったように、魔法にふさわしい場所、おそらくはネット上ではなく物理的な場所を得ているはずだ。
 
 言い換えると、
・我々には自分の商品が、タブレットPCなのか、ピピンアットマークなのか、わからない
・Etsyはセールスの魔法にふさわしい場所ではない
・そもそも我々がEtsyにたむろしているのは、我々にセールスの魔法がないからだ
 
 これはハンドメイド商品に限らない一般論だが、ネットモールの性格を決める上でもっとも重要なパラメータは、「セラーからどれだけ金を取るか」だ。セラーから取る金が少ない(=安い)ネットモールは必然的に、バイヤーの頭数を集めることに重点を置く。そのためにバイヤーをあらゆる不愉快から守る。
 バイヤーを不愉快にしたいセラーなどいない? 事態はそう単純ではない。
 ネットモールには、「楽天メソッド」なる手法がある。商品ページが縦に果てしなく長く、スクロールするのが面倒なあれだ。「どうすれば売れるのか」を求め続けて20年、日本のネットモールがたどりついた結論である。楽天メソッドが美的・ユーザビリティ的・外部不経済的にどうであろうと、多くのセラーにとっては、あれが現在知られている最高のものだ。ジョブズではない凡庸なセラーが、アップルストアではないネットモールで最善を尽くすと、ああなるのだ。
 楽天メソッドは、少なくともウィンドウショッピング的な状態のバイヤーにとっては、あまり快適なものではない。バイヤーの頭数を集めることに重点を置くなら、楽天メソッドは排除すべきだ。セラーに楽天メソッドをさせる楽天はもちろん、Etsyに比べて圧倒的に、セラーから取る金が多い。
 
 ハンドメイドやビンテージを求めるバイヤーは、ウィンドウショッピング的な状態でネットモールを訪れることが多い。Etsyがセラーにとって安いこと、ハンドメイドとビンテージを扱うこと、ウィンドウショッピング的な状態のバイヤーを集めることは、一直線につながっている。そしてこの直線は、楽天メソッドの完全な排除を意味する。
 Etsyの商品説明欄には画像を配置できない。文字のサイズも変えられない。商品の売り込みのために使える材料がいくらあっても、プレーンテキストではほとんど表現できないし読まれない。長々と文章(おそらく読むのは世界中で3人くらい)を書く私のようなアホは千人に一人くらいだろう。私にしても、画像が配置できないと最初から知っていたら、書かなかった。
 Etsyでは、商品ページでセールスの魔法をかける手段は、商品名と商品画像リスト(最大5個)しかない。売り込みのために使える材料がこれほど少ない・少なくていい商品は、金の延べ棒くらいのものだろう。セールスポイントは完全に見た目だけという商品でも、写真では質感がろくに伝わらない。
 この制約が、バイヤーにとってはメリットになることはすでに述べた。問題は、Etsyを選んだセラーの側にある。我々は、セールスの魔法をかけることをまるで考えていなかったがゆえに、Etsyを選んでしまったのだ。なぜ考えなかったのか? 我々にはその能力がないからだ。だから、「そうか楽天だ! 楽天メソッドだ!」と河岸を変えたところで、まったくの付け焼き刃にしかならない。
 
 何度も繰り返すが、
・そもそも我々がEtsyにたむろしているのは、我々にセールスの魔法がないからだ
 したがって我々には、売れる日は来ない。少しでも売れるとすれば、「顧客が望むモノを提供」した場合、つまり、売れているセラーの真似をした場合だけだ。真似する相手がEtsyセラーであれば、その相手にもおそらくセールスの魔法がないので、もしかするとEtsy内では相対的に売れている部類に入れるかもしれない。だがそれは我々のしたいことなのか? 金儲けとしては、あまりにもしょっぱい話ではないか。
 
 さて、同志諸君はどうする? 自分の商品がタブレットPCだと信じて、セールスの魔法を得るために修行の旅に出るか? よろしい、さらばだ。あるいはEtsyをやめて、物理的な店頭に集中するか? よろしい、さらばだ。私は、まだどうするか決めかねている。
 同志諸君! 私と同じようにぐだぐだと考えあぐねて、積極的な行動をなにひとつ示唆しない記事を書き、"Etsy 売れない"でぐぐると「こうすれば売れる」「こういうのが売れる」的な話ばかりがヒットするこの荒んだ世界に石を投げようではないか! 愚痴万歳! 無能万歳!

Posted by hajime at 2014年05月25日 14:18