「希望入りパン菓子」の製作過程では、無数の教訓を得た。そのほとんどが、私の個人的な問題に帰せられるものだが、一般的な教訓もわずかながらある。ノベルゲームのディレクターをやろうなどという無謀な人々のために、ここに教訓を書き残しておく。
人材はいつでも不足しているので、人材を確保・配置するときの優先順位は、かならず問題になる。とりあえずシナリオと作画はすでに確保したものと仮定して、以下の優先順位で確保・配置することをお勧めする。
1.サウンドディレクター
2.マーケッター
3.アートディレクター
サウンドディレクターについて。
音は、重要であるだけでなく、きわめて専門性の高い仕事でもある。たとえば、あなたは効果音について、どれくらいのことを知っているだろうか。雨の音、足音、衣擦れの音を調達しようとしたとき、どこにどんな注文を出せばいいか見当がつくだろうか。市販の効果音ライブラリーがどんなシロモノか知っているだろうか。サウンドディレクターなしで制作した場合、その作品はほぼ確実に、音の面で大いに改善の余地があるものになるだろう。
マーケッターについて。
ディレクターは作品を体現するのが仕事なので、作品を売り込むのには向かない。たとえば広告上で、作品の魅力の核心をずばっと言い切ってしまうのは、必ずしもよいことではない。作品を売り込む方法を考えるには、作品から距離を置いた第三者の目が必要になる。また、ディレクターは制作にかまけきりになるので、広報はどうしても疎かになる(疎かにならないようでは完成にこぎつけられない)。マーケッターなしで制作した場合、例外的な傑作は別として、売れ行きに少なからず影響するだろう。
アートディレクターについて。
考えてみれば当然のことだが、ノベルゲームに使われる視覚表現の種類と数と複雑さは、同人誌などの比ではない。これらに統一した雰囲気を与えるには、アートディレクターが必要だ。アートディレクターがいなければ、先に出てきた現物に後のものをあわせてゆくことになる。制作期間が十分に長ければこの方法もそれなりに機能するだろうが、「制作期間が十分に長い」という状況はありえないので、改善の余地のある出来栄えとなる。が、サウンドディレクターを欠くのに比べると、作画スタッフが多少はカバーできる分、ダメージは少ない。