コクドの堤会長、西武鉄道グループの全役職辞任
ナベツネが、「たかが選手」をスカウトするための不祥事で、読売巨人軍のオーナーを辞任したのは記憶に新しい。どう見ても辞める必要はないところで辞めたのだから、裏になにかあると考えたくなる。
(ナベツネのようなタイプが本心で辞めるのは、馬鹿馬鹿しい騒動が起きたときだと思う。騒動は馬鹿馬鹿しいほどよい。騒動の内容を忘れてしまうからだ。ドゴールが大統領を辞めたときの事情を、今いったい誰が覚えているだろう。が、今回ナベツネは、騒動になる前に辞めた)
そこへもって今度は堤が、たかが株所有比率の虚偽報告ごときで引退である。ナベツネが辞めたのは巨人軍だけだが、こちらは(所有権は握っているとはいえ)経営上のポストすべての辞任だ。これまた裏になにかあると勘繰りたくなる。
そしてまた、ダイエーの産業再生機構送り。
この数ヶ月で、プロ野球12球団の四分の一が、運命を急変させたわけだ。それも、1球団が潰れてプロ野球の将来が問われたこの2004年に。ナベツネの辞任がこの動きと関連しているとみなしても、あまり異論は出ないだろう。ダイエーと堤の件は異論もあるだろうが、もし、関連しているとしたら――?
こう考えて、財界の大物を思うがままに操れる「影の大物」なるものを思い描きたくなったのは、私だけではないはずだ。
その「影の大物」はまず、プロ野球ファンのはずだ。財界の神に等しい力があるのに、プロ野球のために腰を上げるのは、趣味のため以外ではありえない。
また、日本の政治家によくあるような寝技をかけるタイプではなく、トップの首を切ることで働きかけるスターリン型のやりかたを好むらしい。「影の大物」が寝技では面白くない。働きかける方法が首切りだけ――誰の首でも好きに切れるが、ほかに意思を伝える方法を持たない――という可能性もあり、これもまたこれで素敵な「影の大物」になるが、とりあえずこの可能性は考えないことにしよう。
介入を、日常的にマメにではなく、騒動が起きているときにグサッとやるのが「影の大物」の性格らしい。「無事これ名馬」という諺に学んでほしいが、なにしろ趣味でやっているのだから無理だろう。
「影の大物」のプロ野球運営ビジョンは明白だ。新規参入を積極的に受け入れ、12球団制を維持すること。10球団1リーグを唱えていたナベツネが真っ先に切られ、次はやはり10球団化の鍵を握っていた堤が切られた。7月には西武とダイエーの合併は避けられないと思えたが、ダイエーの産業再生機構送りとライブドア参入騒動により、売却のほうが有力になってきた。
これらの情報から、「影の大物」がどんな人物か、想像してみよう。
まず、目立ちたがりではないかと思われる。目立たない方法はいくらもありそうなのに、わざわざ派手な事件を起こしている。
次に、気ままな性格ではないかと思われる。いままでプロ野球には目をかけてこなかったようなのに、腰を上げるなりただちにこれだけのことをやってしまったのだから。
けっして馬鹿ではなく、目標を達成することができる。現にいま、12球団制維持が確実になりつつある。
こうして並べてみると、コメディに登場する正義の味方のようなイメージがわいてくる。脅威を芽のうちに摘むわけでもなく、危機が目の前に迫っているわけでもない、いい加減な正義の味方である。
「あーナベツネって悪そうじゃん、切ろう。堤もいけないなー、ペケ。球団合併なんてしようとしてたからダイエーも悪。潰して、産業再生機構にホークスを売却させる、と。ほかに悪役いないかなー、阪神の奴は途中で逃げちゃったしなー」――こんなイメージがわいてこないだろうか。
気ままな目立ちたがりが絶大な権力を振るうとしたら、それは可愛らしい小娘であるべきだ。『撲殺天使ドクロちゃん』も『総理大臣のえる』も、力を振るうのが小娘でなければ成り立たない話だ。目立ちたがりなのに正体を隠したまま行動する、というところも女性にふさわしい。『けっこう仮面』が男だったら、「それは私のおいなりさんだ」になってしまう。
というわけで、プロ野球を救った「影の大物」は、可愛らしい小娘だと推測される。日本の財界もなかなか捨てたものではない。