2004年10月19日

グラフの読み方

 『情報デザイン 分かりやすさの設計』という本を流し読みした。
 ここまで中身のない本にはそうそうお目にかかれるものではないので、奇書としてご覧になるのも面白いかもしれない。また、中身がないだけでなく、頭も悪い。
 30ページ、著者のひとりである渡辺保史はMinardの図を紹介して、「進攻時には膨大な兵力を誇ったナポレオン軍は、進攻の過程で過酷な「冬将軍」に敗れ、次第にその兵力を失っていったことが明解に描かれている」と書いている。頭が悪いと、これほど短い文章中で2度も間違うことができる。
 まずはMinardの図をご覧いただきたい。図中で気温と引き比べているのは、進攻中ではなく撤退中のフランス軍だ。つまり、Minardの図は、「進攻の過程」ではなく「撤退の過程」における冬将軍を描いたものだ。
 第二に、図が示しているのは、冬将軍の猛威ではなくむしろ冬将軍が(人為から離れた単独の要因としては)無関係だということだ。モスクワを出発したときに10万だった兵力が、Dorogobougeを出発したときに3万7千になっている。損耗率63%という壊滅的打撃は、撤退の初期に、気温がマイナス9℃に達する前に生じたのだ。マイナス9℃で損耗率63%なら、マイナス30℃では誰一人生きてはいないだろう。しかし図中にあるとおり、その後フランス軍はマイナス30℃をも生き延びている(Molodeczno - Vilna間、損耗率33%)。
 幸い、文中には図が引用されており、数字までは読めないが、撤退中のフランス軍を問題にしたものだということはわかる。著者が図を理解していないことがわかれば、この本は読む価値がないことがわかる。非常にひねくれた情報デザインだが、ここまで見抜けなければ、情報を扱う資格がないというわけだろう。

Posted by hajime at 2004年10月19日 07:45
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