2005年09月18日

改心について

 『プリンセスコンチェルト』のメインヒロイン、フローラをクリアした。
 この手のゲームはたいていシナリオが納得いかないものだが、この作品は総じて悪くない。どう悪くないか。
・途中で自己犠牲する仲間がいない。ゲームにかぎらなくても、この筋の成功例は『機動戦艦ナデシコ』以外に見たことがない。
・役立たずの仲間はいるが、無駄な仕事を作る仲間がいない。少なくとも『サクラ大戦』に比べれば全員まともだ。
・「デウス・エクス・マキーナぶちかますのでよろしく」と言わんばかりのオープニングが期待をかきたてる。
 どうせこの日記を読むほどの諸賢なら、オープニングを見ただけでほとんど展開が読めてしまうだろうから、多少ネタバレしてしまおう。
 『プリンセスコンチェルト』の世界では、魔王の元締めは、地上に落とされた元天使である。自分(天使)よりも人間のほうが神に愛されていると思って、人間に嫉妬したから、というパターンだ。頭にきた元天使は人間の絶滅を誓う。オープニングでこの説明をするとき、元天使の髪型が、金髪ストレートロング左右分けである。なんのひねりもなく、そのままフローラだ。
 さてここからはっきりとネタバレになる。
 フローラは元天使の化身だが、まだ目覚めていない。表のボスを倒したあとで目覚めてラスボスになる。
 フローラ以外のエンドでは、ラスボスもろともフローラが死ぬ。ではフローラエンドではどうなるのか。まさか、フローラと元天使を分離して元天使だけ片付ける、という展開にはできない。それでは、フローラ以外のエンドでフローラが死んだのが無駄になってしまう。どうするか?
 また、元天使の化身は、人間が絶滅しないうちは何度でも地上に現れてくる。神がそのような運命を彼女に与えたからだ。これを断ち切らないことにはすっきりと終わらない(実際、フローラ以外のエンドは、あまりすっきりしない)。どうするか?
 私の読みを披露しよう。神とバトルだ。

元天使がフローラの愛に影響される
→元天使の力で、主人公たちが神に対面
→元天使を運命から解放してやってくれと頼む
→拒否の回答
→ではフローラは?
→死ぬとの回答
→戦うしかない

 この神はかなり全能なので当然負けるが、負けてからいよいよデウス・エクス・マキーナのはじまりだ。この先の展開は読めていると思うし重要でもないので書かない。
 重要なのは、元天使の罪が私怨の逆恨みである以上、その改心もまた私情によるほかない、という点だ。逆恨みしている人間を、「そのりくつはおかしい」で改心させられるはずがない。逆恨みを覆すだけの私情を、絶望的な戦いによって表現する、というパターンはもっと使われていい。ただ残念ながらこのパターンは、改心によって戦いの帰趨がひっくりかえるという展開にされてしまうことが多い。デウス・エクス・マキーナを正しく使いこなせる人が少ないせいだろう。これもアリストテレス『詩論』のせいである。
 さて、現実の『プリンセスコンチェルト』はどうだったか。
 改心の話そのものがなかった。
 なかった。元天使を倒すと、これといった前置きも山場もなく、改心してしまった。どうやら元天使は自分で「そのりくつはおかしい」と気づいて改心したらしい。
 どういう内部事情があってのことかわからないが、これは実にまずかった。キャラがいろいろツボを押さえていたので期待したのだが。

Posted by hajime at 2005年09月18日 23:52
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