ティッシュペーパーはどれでも同じ、なわけがない。
少なくとも10年ほど前までは、クリネックスが一歩リードしていた。臭い話になって恐縮だが、鼻をかんだあとしばらく置いておくと、差がわかった。クリネックス以外のティッシュは独特の悪臭を放つようになるのに、クリネックスだけは臭わなかった。
おそらく、パルプを精製するときの収率が絡んでいるのだろうと思う。収率を上げれば原料費は安くなるが、そのかわり不純物が増える。この不純物が悪臭の原因になっていたのだろう。
*
ティッシュの箱の中身には、ちょうどいい量、というのがある。
使い始めの満杯状態は、詰まっていて出しにくい。使い切る寸前は、引き出されたティッシュが箱の中に落ちてしまいやすく、これもよくない。
陛下のお部屋にあるティッシュの箱はいつでも、ちょどいい量になっている。魔法ではない。メイドが毎日チェックして、ちょうどいい量を保っている。使い始めと使い終わりの分は、捨てているのだろうか。今度、誰かに訊ねてみよう。
――と、陛下はお話しくださり、
「ひかるちゃんは、どう思う?」
「余ったティッシュは、ほかの箱に詰め替えていると思います。無駄遣いが好きな人は、あまりおりませんので」
あとで聞いた話によれば、高級なティッシュの箱は中身を詰め込んでいないので、最初から出しやすい。だから、使い始めのティッシュが余ることはない。使い終わりの分は、詰め替えたりはせずに箱ごと国王官房などに回される、という。
岩崎さんに電話して、お風呂を沸かしてもらう。離れにあるお風呂は、天井がガラス張りになっていて、空が見えるという。あいにく私は見たことがない。お側仕えの者は、職員用のシャワーが別にあるので、それを使う。
私が服を着ても、陛下はなにもお召しにならない。
「散歩のとき汗かいたから、もう着たくない」
とのこと。
岩崎さんが来て、お風呂の用意ができたことを告げる。岩崎さんに導かれて、陛下は一糸まとわぬお姿で、離れへとゆかれる。私はそのあとについてゆく。脱衣所の前には、美容副担当の宮田さんが待っていた。
「またあとでね」
私は職員用のシャワーを使う。
陛下のお部屋に戻って、お帰りを待つ。緋沙子のことを申し上げるために。
ほどなくして、
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
私の表情を見ただけで、陛下は何事かをお察しくださったようだった。緩んでいたお顔が、鋭くなる。
「公邸内のことで、お耳に入れたい件がございます」
美園が持っていた写真のことから申し上げていった。緋沙子とのつきあい、美園への弱腰、そして日曜日の一部始終。陛下は、脇息に両腕を置いて身を乗り出しながら、熱心にお耳を傾けてくださった。
話が終わると、陛下は二、三度、小首を傾げて、おっしゃった。
「詳しく聞きたいところがいっぱいあるけど、お楽しみはあとにとっておくとして。
橋本さんの処分は、どうするのがいいと思う?」
「公にする必要はないと思います。そのかわり、陛下から一言いただければと」
陛下はかすかに笑い声を漏らされ、
「ひかるちゃん、いんらーん。
――って、お楽しみはとっておかなきゃね。あとでたっぷり、とっちめてあげるからねー。
ひさちゃんは、どうする?」
「友達づきあいは続けますが、もう身体の関係にはなりません。平石さんは、私の一番大切な人ではありませんので」
「ふーん。ひさちゃん、首」
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