ロシアに「パーミャチ」という団体がある。もともとは、歴史的価値のある建築物などを保存する団体として始まった。しかし、すぐに民族主義団体へと変質し、反ユダヤ主義を唱えるようになった。
この「パーミャチ」というのは、ロシア語で「記憶」という意味だ。
「歴史」や「記念」ではなく、「記憶」を選んだところが興味深いと思う。歴史は史料によって検証することができるが、記憶は検証できない。記念とは広め伝えることだが、記憶は身体の一部であり、他人には伝えられない。
記憶は独善的なものだ。
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この反応は予想していた。
「恐れながら申し上げます。平石さんは思いを抱いていただけです。具体的な行動に誘ったのは私です。どうか私をお叱りください」
「ひさちゃんが悪いなんて言ってないよ? あ、もしかして、わかってないんだ? いまから、お楽しみ、しちゃおうかなー。
でも、もうすぐひさちゃんが来ちゃうのか」
時計は4時近くを指している。
「しょうがないなー。ひかるちゃんがわかるまでは、首にしないよ」
「恐れながら――」
と私が言いかけると、
「ひかるちゃんて、3人でするのとか好き? 私は嫌いだからパスね」
お言葉の真意をはかりかねていると、
「橋本さんて、きっとそういうの好きでしょう。あの人、根性ないからねー。私と一対一になるのが嫌なの。ま、かわいいけどね。なんか言ってきても、泣かせといて。
そういえば橋本さんって脱いだら――って、お楽しみはあとあと」
私はだんだんわかってきた。
「……いなくなる人のことを気にしても仕方ない、橋本さんのことを考えなさい、と?」
「まーね」
そのとき稲妻のようにひとつの考えが降りてきた。
「恐れながら申し上げます。
陸子さまは捨て子にあらせられるので、平石さんを捨てることに執着しておられるのではないでしょうか。ご自分を捨てた生みのお母様の立場に、ご自分を置かれることで――」
終わりまで言わせず、陛下は私の頬を平手打ちなさった。
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