2006年06月05日

人体実験:少コミを読む(第1回)

 私は少コミを読んで育った。が、あまりにも昔のことだ。すぎ恵美子が『Cherryのまんま』や『子供じゃないモン!』を連載していた頃なのだ。現在の少コミとの距離は、マーガレットとの距離とほとんど変わらない。
 現在の少コミにも、少しは触れている。新條まゆを読んでは驚き呆れ(褒め言葉)、刑部真芯にしばらく注目し(百合的なセンスを感じる)、いまは、しがの夷織に少し注目している(これも百合的なセンスを感じる――と書いて自分で思ったが、……共通点はゴスロリ?)。が、雑誌自体を続けて読む機会はほとんどなかった。
 なかなか面白いことになっている、いつかまた続けて読もう――と思いつつ幾歳月が過ぎた。
 今日こそがその日だ。私は少コミの第12号を買った。

 
 ただ読むだけでは面白くないので、載っている作品の感想を書いていくことにする。
 まったくの異文化の目で書くほうが面白いのだろうが、ここは無理せず、元少コミ読者的にいく。
 本題に入る前に、表記について。ハートマーク等は入力が面倒なのですべて中黒(・)で書く。モノローグを引用するときは“”で囲む。
 
・悠妃りゅう「すぺしゃる・ダーリン」新連載第1回
 現在の少コミでは、主人公の彼氏役は、なんらかの権力者であることが多い(私は、榊ゆうかの描くようなイマイチで愛嬌のある男のほうが好きなので、この傾向は気に食わない)。ラノベのヒロインがなんらかの権力者であるのと同じ理屈だ(こちらには文句はないが、そもそもめったに読まない)。
 ただし、その権力のつけかたには違いがある。
 少コミでは、どんなに無理やりにでも、現世的な権力をつける。ラノベでは、ファンタジー色の強い権力をつける。たとえば、新條まゆ『快感フレーズ』の咲也は人気歌手、おかゆまさき『撲殺天使ドクロちゃん』のドクロちゃんは天使、という具合だ。
 (もちろん例外も多い。たとえば新條まゆ『悪魔なエロス』がそうだ。新條まゆは、少コミを体現しているかのように思われているが、こういう法則を積極的に破りにゆく。この積極性が彼女を第一人者たらしめているのだろう)
 さて、本作品の場合、主人公(すみれ)の彼氏役(春日)の権力は、「カリスマ美容アドバイザー」だ。また、有名な美容整形外科医の息子でもある。
 最近の少女まんがでは、つきあい始めるまでのシーケンスは適当にすっとばすことが多い。本作品では回想2ページだ。前半の大部分は、春日の権力と、すみれと春日の関係を描くことに費やされる。
 折り返し点で問題が提起される。「すみれと春日の関係はあまり彼氏彼女らしくない」という例のパターンだ。そこですみれは春日をベッドに誘う。微妙な行き違いのあと、すみれが気絶してオチとなる。
 考え抜いたネームだと思う。連載第1回なら当たり前のこととはいえ、よく考えてある。だが、それが見えてしまうこと自体の辛さはある。
 春日の造形が無難で眠たい。権力者・魅力的・無難、これらのうち2つまでは同時に成り立つが、3つ同時はほとんどありえない。
 採点:★★★☆☆
 
水波風南「蜜×蜜ドロップス」連載第41回
 主人公の彼氏役が権力者というにとどまらず、階級のある学園世界を舞台にしている。特権階級のメンバーがそれぞれ平民をひとり指名して、卒業までのあいだこき使う、というもの。特権階級側は「ご主人様」、指名された平民側は「HONEY」と称される。
 上で述べた法則に従い、主人公(柚留)は平民で、その彼氏役(可威)は特権階級、両者はHONEYとご主人様だ。
 前回まで学校側は、「HONEY」のことをまじめに考えてほしいという目論見で、大掛かりな茶番を仕掛け、今回それを終わらせた。生徒側は(特権階級も平民も)その目論見にはまり、「HONEYいいねえ」「ご主人様いいねえ」「この制度いいねえ」というムードになる。
 茶番終了のほかにも、かつての敵(男)と和解し、安堵の流れで最終ページ、柚留と可威がいい雰囲気になっているところでカメラが引き、二人を見つめる第三者(女)が登場。女は柚留のよい影響力を認めつつ、「可威の生涯のパートナーでいるためには まだまだ不十分だわ」で締める。
 ここまでの書き方でおわかりだろうが、むかつく。「人間的な触れ合いで階級意識を克服する」式の話は、「貧乏人は金持ちよりも道徳的に高いので愛される」式の話と同じくらい有害だ。
 採点:☆☆☆☆☆
 
青木琴美「僕の初恋をキミに捧ぐ」連載第19回
 珍しくも男が主人公である。余命いくばくもない(にしては普通の学校に通学などもする)主人公が、『君が望む永遠』流に優柔不断している。とはいえ、真の彼女役はきっちり決まっており、現ライバルがどんな意味でも勝利を収める見込みがないことは、ネームから一目瞭然だ。
 完全勝利が一目瞭然なのが辛い。ライバル側に感情移入したがる読者は一定の割合で存在する(私もそうだ)。なんらかの分がライバル側にないと辛い。だが、このノリからいって、最後まで分がなくて終わるとも思えない。次回かその次あたりで、ライバル側の分を出してきて、出し遅れの証文にするのではないかと危惧している。
 あと、男主人公でまじめに恋愛物しているとエロゲー臭を感じるのは、私のエロゲー脳が作り出す幻覚なのだろうか。
 採点:★★☆☆☆
 
・サトリタエ「初コイ×ホームラン」読み切り。ただし、お題が「ハニカミ」と定められている。
 主人公の彼氏役が、珍しくも野球少年である。話は、初デートを淡々と描き、取ってつけたように問題提起&オチをつけて終わる。
 アウトドアのスポーツマンには肌にトーンを貼るべきだと思うが、貼っていない。面構えも男っぽくない。思えば少コミでは昔から、スポーツマン的な男っぽい顔をほとんど見ない。脇役・チョイ役でもだ。描けないのか、描かせてもらえないのか。
 導入部のネームが猛烈にぎこちない。手筋を知らないのだろう。ネームの流れのいい少女まんがを徹底的に分析してからやりなおせ、と言いたい。
 採点:★☆☆☆☆
 
・咲坂芽亜「ラブリー・レッスン ~夏服編~」読み切り。ただし、すでに完結した連載の続編らしい。
 主人公がカリスマ店員に、制服のコーディネートやヘアメイクを教えてもらう。そのおしゃれパワーでもって、(未来の)彼氏役と張り合う。当然最後はくっついて終わる。
 ネームの流れがいい。だが、作品の性質上、それ以上のものはあまりない。変な匂い、変な電波が出ている作家は、こういうものは描かせてもらえないのかもしれない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・千葉コズエ「君のキャンバス」読み切り
 絵も話も、少コミ的なところがまるでない。「ちょっといいと思っていた男の、知られざる一面(絵を描くこと)を発見→それをきっかけに接近→気合負けしないようにおしゃれに頑張る→それをからかわれる→泣く→ごめん」。
 今号で一番ネームがいい。話自体もネームも、手筋手筋で進むので、特になにも言うことがなくて困るが、ぴったり噛み合って機能している。ただこれも電波が足りない。
 採点:★★★★☆
 
織田綺「小悪魔カフェ」連載第17回
 次号で最終回とのこと。
 前回までは、主人公を二人の男で取り合っていたらしいが、今回でぐだぐだな終わらせ方をしている。どうでもいい。
 採点:☆☆☆☆☆
 
新條まゆ「愛を歌うより俺に溺れろ!」連載第8回
 現在の少コミの第一人者、新條まゆである。
 かなり複雑な設定だ。私自身まだよく理解していないが、とにかくわかったことを書く。
 男海山高校という男子校と、聖野薔薇女子学院という女子校がある。どちらもドリームなハイソ学校らしい。聖野薔薇には「王子様」がいる。主人公(水樹)だ。男海山にも「姫」がいる。主人公の彼氏役(秋羅)だ。水樹は校内でバンド活動をやっており、このバンドは名前を「ブラウエローゼン」という。秋羅は、聖野薔薇の校内に女装して潜入し、聖野薔薇の生徒のふりをして、ブラウエローゼンのメンバーとして活動している。しかもボーカルだ。
 秋羅は、『フィガロの結婚』のケルビーノのような奴らしい。女が声をあて女装もするショタなのに、女を口説くのが大好きだ。ターゲットは水樹である。今回は、いよいよお楽しみを、というところでスケジュールに押されてストップがかかる。
 聖野薔薇のイベントに、ブラウエローゼンが揃って出席する。このイベントで、水樹は上級生の美咲に会う。美咲はかねてから水樹に手を出す機会をうかがっていたらしい。このシーンが面白いので引用する。
 
 「水樹… 会えるのを楽しみにしていたよ 僕は堂島美咲 よろしくね」
 水樹:“この人が3年の王子様か… ムチャクチャ キレイじゃんか!!”
 「初めまして お目にかかれて光栄です」
 「水樹… 今夜 僕の部屋においで… 一緒に すてきな夜を過ごそう…」
 「あ… でも あたし今夜は…」
 “秋羅と一緒に…”
 「いいね…」
 美咲は一輪の百合の花を渡した。すると背景のモブがこれに反応して、
 モブ:「美咲様が ゆりの花を!?」
 モブ:「やっぱり今年のお相手は あの子なのね」
 モブ:「なんか… うらやましい――っ」
 “え…!? 何!? この ゆりの花… なんか意味でもあるのか!?”
 
 この直後、秋羅が割り込んできて美咲を口説きにかかる。事を理解していない水樹をかばおうとしてのことなのだが、水樹には通じず、美咲の部屋を訪れることになる。
 この百合の花はどうやら、「私の部屋に来なさい。来たら襲うのでよろしく」というメッセージらしい。秋羅が別のところで窮地に陥っているあいだ、水樹は美咲に襲われる。そこに現れたのが――突然だがここで設定の説明に戻る。
 男海山高校には二人の権力者がいる。累依だ。累依は秋羅に執心しているらしい。蘭はミステリアスという役どころらしい。この二人には、秋羅のバンド活動のことはバレている。二人は聖野薔薇のイベント会場に現れ、さらに蘭は――突然だがここであらすじに戻る。
 そこに現れたのが蘭である。蘭は水樹に、「助けてやるかわりに俺の姫になれ」と申し出る。この「姫」がどんな意味かは説明されていない。おそらくは、男装して男海山高校に潜入するという意味だと思うが。
 よくまあこんな複雑な設定を、と驚いた。平均的な少コミ読者の頭でついていけるのだろうか。ちなみに私は、登場人物が6人を越えると、とたんに理解度が下がる。
 理解するまでが大変だったが、わかってみると面白い。ケルビーノ(秋羅)が活躍すると楽しそうだ。
 採点:★★★★☆
 
・天野まろん「かわいいオレ様」読み切り、デビュー作
 少コミ的でないどころか、少女まんが的でもない。はっきりした性的嗜好を持っている主人公を、久しぶりに見た気がする。絵も、少女まんがよりは、男オタクの流れのほうが強い。
 ショタ好きの主人公が、ツンデレのオレ様攻めに口説かれる話である。話もネームもよくできている。内容的には文句はない。が、電波的に、匂いのレベルで、「こいつと私の道は重ならない」と感じる。
 採点:★★★☆☆
 
池山田剛「萌えカレ!!」第32回
 つきあっていた男()を、事故で他の女(亜美)に取られて、その男の腹違いの弟(。顔が宝にそっくり)とつきあいはじめた主人公(ひかる)。が、宝はやっぱりひかるがいいと思い直し、口説きにかかる。もともと宝が好きだったひかるとしては、ここが考えどころ。ひかるを取られたくない新としては、ここが踏ん張りどころ――で次号に続く。
 理屈の通し方が、手筋といえば手筋だが、あまり好きになれない系統のものだ。ネームは微妙に能がない。
 採点:★☆☆☆☆
 
しがの夷織「キスだけじゃかえさない」最終回
 彼氏役がアイドル、というのはよくある話だ。さらに主人公の弟もアイドルで、しかも主人公のことを好き、というところがいかにもこの人らしい。最終回なので、彼氏役の「アイドルやめる宣言」で盛り上げている。
 「百合を描く人は近親相姦も描く」という相関関係があるような気がしている。この作者もその例に入ってくれるよう祈る。
 理屈の通し方が、私の好きな系統のものだ。いい電波が出ている。単行本で読んでみたくなった。
 採点:★★★★☆
 
・高田りえ「ガバ・カワ」最終回
 悪魔が人間に惚れて力をなくして消滅し、人間に生まれ変わって終わりである。
 話もネームもいいが、電波が足りない。
 採点:★★★☆☆
 
 第1回とあって、説明が長くなった。次号からはもっと短く書く。
第2回に続く

Posted by hajime at 2006年06月05日 19:52
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