少コミ第13号を読んだ。前回からほとんど日が空いていないが、そういうタイミングで決心したのだから仕方ない。
「少コミ」がなんのことかわからない読者がいるかもしれないと気づいたので、解説しておく。小学館が発行する月2回刊まんが誌「少女コミック」のことだ。
・車谷晴子「美少年のおへや。」新連載第1回、ただし短期連載(?)の続編
主人公が家政婦になって金持ちの家に入り込む、というタイプの逆ハーレムである。謎解き要素のない『フルハウスキス』か。ただしこちらは少コミなので、家政婦ではなくメイドとなっている。短期連載かなにかの続編で、最初から主人公(小雪)と彼氏役(斎)がくっついている。
メイド服のデザインが辛い。ヘッドドレスのデザイン上の役割がわかっていない。ワンピースが前開きなのはどういう了見だろう(おそらく背中や肩が描けないからだと思うが)。資料もろくに検討せず、ほとんどなにも理解せずに描いたことが明白だ。
(ヘッドドレスのデザイン上の役割:
原理はわからないが、頭から斜めにでっぱっているものをつけると、萌えパーツとして機能する。同様のものに、看護婦のナースキャップ、To Heartのマルチの耳カバーなどがある。斜めでないと『神聖モテモテ王国』のファーザーのツノになるので要注意)
話のほうは、初エッチまでの努力と葛藤である。手筋手筋で進んでいる。オチは未遂なので、当分このまま引っ張るつもりだろう。
新連載第1回なのに、ネームがあまり感心しない。これは編集部で蹴ってほしかった。
採点:☆☆☆☆☆ 本当はもっと低い点数にしたい。
・池山田剛「萌えカレ!!」第33回、次号で最終回。
顔がそっくりな腹違いの兄弟(宝と新)の二者択一である。少コミでは、女を選ぶ二択だと、最初から結果が見える。逆に男の二択は、限界を超えて先を見せない。これも引っ張りすぎて明日を捨てている。『単行本ノ読者ニ尽クス者ガ、掲載誌シカ認メナイ私ニカナウワケガナイ』。少コミはジャック・ハンマーの世界なのだ。
「女の帰属先を試合で争う」という、古い懐かしい手筋が出てくる。登場人物の心理が精密になるとともに扱いづらくなって廃れたが、まだ完全に滅びたわけではないらしい。
宝と新の二択でどちらに行くか、私の予想(というより願望)を書いておこう。新だ。理由は、「別れた二人はまた元の鞘に収まる」というあの鋼鉄の法則を破るからだ。「元の鞘に収まるのが幸せ」というイデオロギーがどれほど有害なものか、筆舌に尽くしがたい。
採点:★★★☆☆
・青木琴美「僕の初恋をキミに捧ぐ」連載第20回
実は私は、青木琴美には先入観があった。
何年か前、たまたま少コミのある号を手にしたとき、『僕は妹に恋をする』の連載を(その回だけ)読んだ。ひどいものだと思った。絵はたいしたことがないし、話もネームも眠たい。これも『本はタイトルが9割』のたぐいか、と。
が、今回、その認識を改めた。
これが構成というものだ。実に自然な手で、うまい含みを作る。含みを生かすのもうまい。『僕は妹に恋をする』を読んでみたいという気にさせられた。思えば、少コミで男主人公の連載を持つからには、かなりの手練のはずなのだ。
話のほうだが、真の彼女役が動いた。主人公をライバルに占有されたので、他に男を作ろうか、という流れである。
採点:★★★★☆
・咲坂芽亜「ラブリー・マニュアル」新連載第1回
「モテ」という概念の煽動力はすさまじい。
「祖国」や「復讐」の煽動力は、歴史の授業で教えてくれる。それでもハマる奴はいくらでもいるが、馬鹿は放っておこう。しかし、さらに強力な「モテ」のほうは、誰もその煽動力を教えようとしない。
煽動は、口先で唱える目的を達成することができない。「祖国」を唱えて祖国を滅ぼし、「復讐」を唱えて踏みにじられる、そういう例は歴史上に事欠かない。「モテ」も同じだ。
この作品はまさに煽動だ。それも出来が悪い。「モテ」を「社会主義」に、「おしゃれ」を「労働」に置き換えれば、まるっきりソ連の体制文学になる。
煽動も、なんらかの真実を含んでいれば、価値がある。たとえば、おしゃれをする動機は、言葉にならない真実の潜む領域だ。『刑務所の中でさえ、女囚たちは郵便袋の染料で、自分たちの唇を赤くしているそうだ』(ジョージ・オーウェル『気の向くままに』180ページ)。
連載なので、第1回は煽りで、ここからいい話にもっていく、という可能性はある。「結局なに着てたっていいんじゃん→でもおしゃれしたいよね」という結論になればすべてよしだ。ただ、そこまで批判精神のある作品を少コミで読んだ記憶はないが。
ネームの流れはいい。が、やはり電波が足りない。
採点:★☆☆☆☆
・悠妃りゅう「すぺしゃる・ダーリン」第2回
話にトリックがある。なにを書いてもネタバレになるので、話については書けない。あしからず。
ネームはよどみなく流れ、笑いの使い方も的確だ。これなら彼氏役の造形が眠たくても問題にならない。
採点:★★★☆☆
・藤原なお「おねえちゃんの秘密」読み切り
どこかの遊園地でカップル用のイベント期間があり、それとのタイアップ作品らしい。
年下の男に遊園地に誘われて行き、カップル用のイベントに参加して、という話だ。年下の男とくっつく話をひさしぶりに見た気がする。花ゆめあたりなら連載でも(さらに男が小学生でも)見かけるが、少コミでは珍しい。
ネームの構成が弱い。もっといろいろな手で揺さぶりをかけるべきだ。タイアップ作品にどこまで望めるのかわからないが、広告としては読ませるほうだろう。
採点:★☆☆☆☆
・水波風南「蜜×蜜ドロップス」連載第43(?)回、次々号で最終回。
前号は第41回と扉絵にあったのに、今号では第43回と書いてある。どちらかに2話収録かと思って目次を見ても、また話のつながりからも、どうもそんなことはない。どちらかの誤植だろう。
絡みの合間に話が進む、といった趣だ。それでちゃんと納得のいくように話が進むのだから面白い。その話はというと、柚留が婚約者として可威の両親と対面する。そして当然、婚約にノーと言われる。
ところで、可威の父親は、食事中にも帽子をかぶったままだ。なんの意味があるのだろう。
採点:★★☆☆☆
・麻見雅「欲しがりなジュエル」読み切り、ただしシリーズ物。
ネームも話も面白いほど図式的で、『のらくろ』の時代のまんがを連想させる。『のらくろ』が小気味よく読めるように、この作品もなかなかいい。ただ、いくら図式的でも、宝飾品を衝動買いする主人公はどうかと思うが。
話は、ファンタジー要素の混じった怪盗物だ(このへんもまた『のらくろ』時代を思わせる)。衝動買いした宝飾品が、催淫の呪いのかかったもので、主人公を淫夢などで苦しめる。例によってのピンチのあと、問題の怪盗が現れ、主人公を満足させて宝飾品を盗んでゆく。
あらすじを書くとなにかねっとりした話のようだが、実物はやけにからっとしている。不思議な個性だ。
採点:★★★☆☆
・天音佑湖「恋敵は子猫ちゃん・」読み切り
生徒がみなペットを連れて登校するという謎ドリームな学校――をどう思うかが問題だが、ここで否を唱えるのは少コミ精神に反する。力強く共感するのだ。
学校の獣医が、主人公の猫を気に入り、それをきっかけに二人は接近、それは嬉しいけれど自分に関心を持ってほしい、という話である。
謎ドリームには共感しよう。共感する。共感した。
が、動物の絵が、あまりにも辛い。画面の構成も辛いので、どうも画力に根本的な問題があるらしい。
採点:☆☆☆☆☆
・新條まゆ「愛を歌うより俺に溺れろ!」連載第9回
私をむかつかせるのは簡単だ。「男なんかより うんと気持ちいいこと してあげるよ」といったセリフを書けばいい。前回、「共に この芸術品を 愛でようじゃないか…」とぬかして全読者を驚き呆れさせた奴の言うことではあるが、それでも私は律儀にむかつく。まったく簡単だ。
今回は、水樹のピンチ脱出と、ブラック秋羅のアピールが主眼らしい。蘭が水樹に申し出た「姫」の意味はまだわからない。永遠にわからずじまいになるかもしれない。過ぎたことは忘れる、男らしい作風なのだ。たぶん望月三起也『ワイルド7』から作劇術を学んだのだろう(嘘)。
設定の複雑さも含めて、この展開に読者がついてきているのかどうか、かなり疑問だ。
採点:★★★☆☆
・市川ショウ「恋愛@ホーム」読み切り
目指しているものはなんとなく伝わってくるが、絵、ネーム、画面構成、あらゆる技術面で辛い。
採点:☆☆☆☆☆
・織田綺「小悪魔カフェ」最終回
前回はぐだぐだなだけだったが、最後はぐだぐだなりに気持ちよく終わった。ここに出てくる「走る」という手は、なかなか汎用性がありそうだ。
採点:★☆☆☆☆
第3回に続く