前回にひきづつき妄想キャスティングである。
特定のキャストに慣れてしまうと、その作品とキャストが強く結びつく。『うる星やつら』や『聖闘士星矢』のキャストが総入れ替えになったら、それは別の作品だ。(後者は現実の商品でやらかしたのだからすごい話だ)
逆にいえば、キャストを総入れ替えするだけで、別の作品が聞ける。テキストと声優の組み合わせを妄想するだけで、いくらでも新しい作品が妄想できる。少しは声優のことを知らないとできないが、それさえクリアすれば愉快なお遊びだ。
現実にキャスト総入れ替えをやった実例を聞くのも楽しい。たとえば『ローゼンメイデン』はドラマCDとアニメで総入れ替えになっている。ドラマCDでは、堀江由衣の真紅に、能登麻美子の水銀燈である。機会があればぜひ聞き比べていただきたい。
というわけで今回は、レズ声優スレ常連でない外国人選手を2人投入してみる。
平石緋沙子:沢城みゆき
設楽ひかる:田村ゆかり
波多野陸子:斎藤千和
斎藤―田村―沢城。ひかるに田村をあてる、というアイディアを生かしてみた。
釘宮とこやまは役に近すぎ、田村が浮いてしまうので、上のように替える。斉藤の陸子は衝撃力を高める狙いもある。ボクシングにたとえるなら、テクニシャン田村がハードパンチャー斎藤の大振りを誘いつつ紙一重でかわす、というイメージだ。二人が両極端だから面白い。逆に、こやま―能登は五分に打ちあうから面白い。斎藤―能登やこやま―田村では面白さを引き出しきれないだろう。
同じ3人をベタに配置すると、田村―沢城―斎藤になりそうだが、これはよくない。田村の衝撃力は弱いので、陸子にあてるのは間違いだ。ここのところをわからずに田村が配置されているのを見ると悲しくなる。
こやま―能登―釘宮、斎藤―田村―沢城、それぞれどんな演技になるかを、脳内でシミュレーションしてみてほしい。
前者はたぶんかなり高い精度でシミュレートできる。が、後者は大まかな方向性しか見えない。そこがいい。聞く前から結果が見えているものよりは、出たとこ勝負のものを聞きたい。
次回は、選に漏れた声優の選考理由について。
*
視界がぶれるほどの衝撃を感じながら、私は陶酔していた。
皮膚の下よりも血管の奥よりも、さらに深いところ、陛下のお心の奥底に、じかに触れている。つながっている。
ずっとこうなりたかった。
首をつかまれて後ろに突き倒された。陛下はまた私の上に馬乗りになられた。昂ぶった手つきで私の耳たぶを握ると、私の頭を横に向かせて、畳に押しつける。
「それって、ケンカ売ってるんだよね。それとも、ぼこぼこにされたいだけ? 感じてるんでしょ?――この変態。さっさとおしっこもらしていっちゃいなさいよ」
陶酔しているのと同じくらい、私は覚めていた。緋沙子を誤解させるようなことを言わないでほしい、と覚めた意識で思う。私には、失禁するような癖も趣味もない。
「いままで誰もこんなことを陸子さまに申し上げなかったのですね。寂しくはございませんでしたか?」
「そういうひかるちゃんは、おまんこが寂しそうだよ? そんなに私の母親が気になるんなら、ひかるちゃんがなってみる? 手首までくらいしか入らないけどね」
「それで私をそのように思っていただけるなら、どうぞなさってください」
こんなときでも私は、口にする言葉を選んだ。陛下のようにありのままに言うのにはあこがれるけれど、そう急には自分は変えられない。
「なーに、もしかしていつも自分で入れてるの? 勢いだけじゃ入らないよ?」
「ですが、もし私がそのようになれたとしても、陸子さまご自身は、幼い子供にはなれないものと存じます」
*
私は横目で陛下のお顔を見ている。
表情は凍りついたように変わらない。厳しいまなざしで私を見下ろしておられる。
そのかわり、私の耳たぶをつかんでいる御手が、お心をのぞかせる。御手の温度が下がってゆく。
急に、私の目に涙があふれた。嫌だと思ったけれど、止まらなかった。なにも悲しくないのに――
ちがう。私は悲しんでいる。
陛下を傷つけてしまった。
悲しいから、身体が涙を欲しがっている。昨日の緋沙子を思い出す。ひとしきり泣いてから、安らかに息をしていた緋沙子を。私もああなるのだ。
あれはウソ泣きだと言い張った緋沙子の気持ちが、いまはわかる。涙を止めようと思えば、止められるような気がする。泣くのを自分に許しているような気がする。涙に誘惑されているような気がする。泣けば楽になるよ、と。それに、泣けば伝わるよ、と。
「……ひかるちゃん、どうして泣いてるの?」
「陸子さまを――ちゃんと――守ってあげられなくて――」
頭が回らない。言葉づかいが敬語にできない。
「ずるいよ」
涙声になりかけていた。続けて陛下は、
「ひさちゃん、外で待ってて。しばらく誰も通さないで」
「かしこまりました」
襖がすべり、閉じる音がする。
「私ね、本当に悲しくて泣いたことなんて、ないの。だって泣いたら、本当に悲しいみたいじゃない。
私は幸せになるって決めてるの。
ひかるちゃんは、私のことだけ見てくれて、ずっとそばにいてくれるって、決めてるの。
だったら、悲しいことなんて、なんにもないよ?」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの? 変でしょ?
ひかるちゃんに、いっぱいありがとうって言いたいの。いつも言ってるけど、ぜんぜん足りないよ。
だからね、ひかるちゃんが心配することなんて、なんにもないんだよ? 昔のことなんて――」
声が涙で途切れる。
陛下は私の上からどいて、ティッシュをとり、鼻をかんで目をぬぐわれた。
「――昔のことなんて関係ない。ひかるちゃんがいるんだから」
「だったら、ひさちゃんをそばにいさせてあげて」
私はその答を知っていた。
「絶対に嫌。だって――」
あとは言葉にならなかった。私は陛下を抱きしめた。
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