ネタがないので設定厨行為をする。
護衛官は国王の個人財産を管理する。これにより、国王がその立場を個人財産運用のために不正に利用することを防いでいる。
日本の皇室メンバーは経済活動をしないが、これはいかにもお公家さんという趣で、世界標準ではない。たとえばイギリスのチャールズ皇太子はダッチー・オリジナルズという企業を創業し、現在も経営している。
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護衛官は後任への引き継ぎをしない。
陛下から管理を委託された個人財産は、陛下の委任を受けた管財人に引き渡す。書類は大統領府と国王官房に。警護の事務や慣習は、もともと財団の警護部が知っている。
月曜日、私はいつもより少し早く公邸に行き、執務室の整理に手をつけた。午前9時、さっそく国王官房の職員がきて、書類のことを話した。ついでに今日の官報も見せてくれた。朝のニュースでは私の退職が報じられているとのこと。
今日の陛下のスケジュールは、教えられなかったし、訊ねなかった。護衛官としての経験から推測すると、おそらく今日は月曜演説のあと演説地で記者会見を開く。その記者会見に備えて、時間ぎりぎりまで公邸内でリハーサルがあるだろう。
午前10時、大統領府と内務省の役人が、4人もぞろぞろとやってきた。国王にかかわる仕事はいくつもの課に散らばっているので、全員が集まらないと、いつまでたっても片がつかない。
ダークスーツの男女6人が、四畳半の部屋で暑苦しく話し合っているところへ、障子がすべり、風が吹き込んだ。
「ひかるちゃん?」
陛下だった。私は座布団から降りて一礼した。やや遅れて役人たちが私に倣う。
私は朝の挨拶を申し上げた。
「おはようございます。
もう朝顔の季節ではありませんが、すると今朝の陛下は、いったいどんな花を恥じらわせなさったのでしょう」
長年の習慣で、なにも考えなくても、すらすらと出てくる。
「おはよー。恥じらわせる花は、ひかるちゃん、だよ。
お仕事にいってくるよー」
「道中のご無事とお仕事の上首尾をお祈りしております」
「ありがとうね。
――あ、えーと、みなさん、おはようございます、アーンド、いってきます」
あっけにとられている一同の返事を待たず、障子が閉まった。
役人のひとりが訊ねた、
「……人間関係の問題とうかがっていましたが」
「国王の絡むことですので」
これは万能の言い訳だ。突っ込まれたくないときは、これを持ち出すと黙ってくれる。今度も、何事もなかったかのように話し合いに戻った。
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