2006年10月06日

笙野頼子『説教師カニバットと百人の危ない美女』(河出書房新社)

 少コミを読んだあとの笙野頼子は格別だ。たとえるならプールのあとのサウナである。プールで悪戦苦闘したあとに、サウナでガツンとやる。実にいい。
 さて本書がどんな話かというと、世界一いけてるテロ組織・巣鴨こばと会残党の物語である。
 まずメンバー100人が全員ゾンビだ。ゾンビ軍団だからといってロンドンに飛行船で襲い掛かるわけではない。純文作家の八百木千本に、呪いとFAXで襲い掛かる。ある日から、八百木千本のところに、毎日大量のFAXが届くようになる。そのすべてを読まないと、呪いでとんでもないことになってしまうのだ。
 どんな呪いか。本書182ページから。

一通目の写真を見る。ごわごわした真っ黒の髪、盛り上がった頬骨、威張りくさった眉にしんねりした口。ヘテロの男が、「彼は男前だから」という奴の殆どがこんなタイプ。「ほら容貌だけしか見ない」。いや。違うこの男なんだか鳥肌が立つ。吐き気がこみ上げる。幼児の、というより、欲望だけの目、アスコットタイに手編みらしきチョッキ、というのも物凄いが、プリンストン大学卒、四十八歳、身長百八十、体重七十、筋肉質、色黒、自分の好きなところ「少年ぽいところ」、うへえ……結婚相手の希望、母と同居、自分をリラックスさせてくれる人と。自分と話題を合わせられる母親的な女性で、ノーパンしゃぶしゃぶごっこをしてくれる人と。それもブルマ穿いてベッドに入って来て、寝小便を毎日してくれる二十三歳までの、健康な処女。おんな、とにかくおんな、ゴミとか傷のついてない、香水臭くも煙草臭くもない、汗や垢や大小便等の匂いしかしない女、排泄物まで利用出来る即入居可の女。知能は日常生活が出来る程度で十分。母と親友になってくれてボクのセックスや料理の好みをきちんと仕込んで貰う。ちなみに年収は三千万、プラモに凝っていて貧乏ですので、奥さんには自分の食費と生活費出産費用を負担して貰います。但しセックスをする毎に一晩に二百五十円消費税込みの接客手当てを支払い、当家での朝食券も交付します。避妊は面倒ですので二人以後は自費で中絶していただきます。ところで朝食の内容はゆうべのお刺し身にお湯をかけた物や、練りゴマ入りケチャップを塗りたくって湿った、みみなしのトーストですっ。――うっわーっ、それが一番やだっ。
湿ったトーストの練りゴマケチャップ付き、だってさ、げーっ。

 兄さんなかなか私と趣味が合うねえ、でも食い物の趣味はいただけねえなあ、あと馬鹿でもOKってのは考え直したほうがいいんじゃないかなあ、要求の優先順位もはっきりさせようや――などと妙な連帯感を覚えてしまうこの男と、強制的に結婚させられてしまうという呪いである。読まされるFAXの内容も、上の引用文に劣らぬ電波文書だ。
 (しかし思うに、この世の人間の半分は、この男に比べて桁違いにマシというわけではないような気がする。少なくとも私の場合、この男より桁違いにマシな人間とは、友達になれそうな気がしない)
 この恐るべきテロ組織・巣鴨こばと会残党が掲げる大義、それは、アナクロな良妻賢母主義である。良妻賢母主義が約束したはずの幸せ(結婚)に恵まれなかった女性が先鋭化した果てにゾンビ化し、巣鴨こばと会残党の100人になったのだ。
 なんと素敵なテロ組織だろう。ぜひ私もそのメンバーに加わり、強力な呪いに支えられた電波文書を書きまくるゾンビになりたい。こんなブログを書いているよりもよほど楽しそうだ。
巣鴨こばと会万歳!
純文学万歳!
7andy

Posted by hajime at 2006年10月06日 08:22
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