2006年10月09日

1492:71

 11/12のコミティアに向けて、原稿を校閲している。
 巣鴨こばと会のメンバーになって電波文書を書きまくりたい、と書いた私だが、校閲していると、今すでにかなりいい線をいっているのではないかと思えてくる。

 
                       *
 
 家のドアが閉まるのを待たずに、緋沙子にくちづけた。そのまま夜明けまで離さなかった。どれだけ愛しているか伝えたかった。陛下のお側に帰る前に。
 こんなときも緋沙子は自分のリズムを崩さなかった。ベッドでうとうとする私を横目に、机に向かい、ガス入りのミネラルウォーターを飲みながら、筆で日記をつけている。
 緋沙子が机から離れたのを、気配で感じて、目を覚ます。けれど今日は、私とおやすみのキスをしにくるかわりに、本棚に向かった。
 本棚から日記帳を取り出して開き、机のランプの下でめくって、
 「6月14日。今日もひかるはおかしかった」
 ゆっくりと緋沙子は読み上げた。
 「ストッキングが伝線したことを何度もぐちった。私の絵を、後ろ向きの姿ばかり、5枚も描いた」
 私はよく緋沙子の絵を――といっても紙に鉛筆で――描いた。私はなにも見ずに人体を正確に描ける。
 ストッキングの伝線をぐちったことは覚えていないけれど、後ろ向きの姿ばかり描いたことは覚えている。あのころ私は、ほとんど片時も緋沙子から心を離すことができず、おかしくなっていた。
 描いた絵といっしょに、そのときの気持ちまでが心に甦ってきて、めまいがする。
 「中略。もっとおかしくなってほしい」
 言い終えると、緋沙子は日記帳を閉じた。
 「どうして中略?」
 「自分のセックスを人に採点してほしい?」
 たぶんそうだろうと思ってはいたけれど、やはりあの日記には、そういうことも書いてあるらしい。
 ひとりごとのように緋沙子は、
 「ああいうの、嬉しかった。ずっとあのままじゃいけないって、わかってたけど」
 「……また明日、考えよう」
 なにも考えることなどないのに、ごまかした。眠たかった。
 緋沙子とおやすみのキスを交わす。あと何回こうするだろう、と思いながら。
Continue

Posted by hajime at 2006年10月09日 00:49
Comments