即売会参加のお知らせ:
西在家香織派は来る11月12日(日曜日)のコミティア78にサークル参加します。スペースは「お15a」、新刊は『1492』です。
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予想してはいたことだった。『護衛官も千葉国王に見切りをつけた』という報道が、かつて緋沙子のことを初めて報じたのと同じ経路から出てきていた。私は念を押した。
「週刊××の木村記者は、いまでも財団の?」
「それは守秘義務。
でも、ちゃんと届くもんだね。特定個人を狙うのって、あんまりアテにしてなかったけど」
「あれは私宛てに?」
美園はうなずいて、
「ひかるをおびきよせるためにね。……実はね、今このお店、ひかる以外はみんな保安局員」
私は振り向いて店内を見回した。とたんに、美園は大笑いした。からかわれたのだ。
「こんな手間かけるわけないでしょう。ひかるに用があるなら官舎の前で押さえてるって」
思わず子供のようにむきになって私は、
「取調べでは私が口を開かないかもしれません」
「ふーん? ひかるは今日なにかしゃべったっけ? ひさちゃんと別れたことくらいか。そんな大切なことなんだ、ふーん。そりゃそうだよね?」
「……本題に戻りましょう。私をおびきよせたのは、どうしてですか?」
「ひかるは、誰に会いにきたの?」
それはもちろん陛下に――そう言いかけて。
美園が嘘つきだということを思い出す。
正面きって本心を言うことが、めったにない人間だということを、思い出す。
陛下のおっしゃることが、たとえ嘘であっても本心からなのとちょうど正反対に、美園の言うことは事実でも嘘ばかりだ。言葉のはしばしから気持ちを読み取っていくしかない。
私が誰に会いにきたのか。
わかりきった質問だった。こんなわかりきったことを、こんな顔をして、訊ねるだろうか。
私が帰国して一番最初に美園に連絡したことを、嬉しかった、と言っていた。
本のページに挟まれた残り香のように密かに、昼間の星の光のように淡く、美園は期待している。
できるだけ平気そうな顔を作って、私は答えた。
「陛下です」
「会って、それから?」
「またお側に置いていただければと」
「そういうこと。ひかるをおびきよせたのは、私の求人活動。こんなときに未経験者にやらせるわけにはいかないでしょう。いまは公募はいらないから、すぐに代わってもらえるしね」
千葉の憲法は公務員の採用について募集と選考の一般公開を定めていた。
「どうして辞めるんです?」
「退職金が欲しい。判決の後だと出ないかもしれない、って脅されててさ。貯金がぜんぜんないから、これ辛いんだわ」
美園は力説してから、ちょっと早口で、
「あと、愛と正義のため」
と付け加えた。
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