2007年06月07日

少コミを読む(第25回・2007年第13号)

 前回の続き。なぜ少コミはつまらないのか。
 第一に、ファンタジーとしての恋愛を徹底できていない。
 ファンタジーは、自由に想像するための装置だ。ファンタジーにおいて読者は、読者自身に縛られることなく、自由に想像することができる。もし「強姦されてハッピーエンド」を、読者自身の身の上に起こることとして想像しようとすれば、ただひたすら気持ちが悪い。しかしBLなら、楽しく快いものとして想像することができる。BLなら、三次元には存在し得ないほど理想化された攻と、「強姦されてハッピーエンド」にふさわしく構築された主人公を想定することができる。BLにおいて読者は読者自身から自由だ。
 現在、少コミの恋愛はファンタジーを基調とする。なのに少コミには自由がない。たとえば、『先手必勝の法則』とでもいうべきものがある。最初に主人公に触れた男が彼氏役で、後手を引いた男はすべて当て馬――これが先手必勝の法則だ。
 もし自由に想像することができるのなら、先手を取った男に縛られない主人公を想像することもできる。しかし少コミにはそれがない。自由そのものを抜きにして、自由の果実――「強姦されてハッピーエンド」のような――だけを持ってこようとして、いびつで醜い構造を作り出している、それが今の少コミだ。
 取りうる対策については次回。また、つまらない別の理由についても次回以降に続く。

 
・くまがい杏子『お姉ちゃん泥棒』読み切り
 あらすじ:彼氏役(年下)のパシリをさせられる主人公。当て馬が登場して、彼氏役が主人公に告白。
 主人公の妹が彼氏役の友人として登場していて、これでタイトルの「お姉ちゃん」とつながっているが、話のうえでは妹にはほとんど意味がない。
 この作品に限らないが、恋愛の障害として「彼氏役の性格がダメ」を使う話は、
・主人公はDV夫と共依存夫婦になりました。めでたしめでたし
・彼氏役が立派になってしまったので、主人公は別のダメ男に乗り換えました
 というようなオチにつけてほしい。「身分違い」を障害に使う話が駆け落ちで終わってもすっきりしないのと同じで、すっきりしない。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第43回
 あらすじ:病院のベッドでが結ばれようとする寸前、逞の両親がやってきて未遂に終わる。死期の近いことを悟った逞は、迷わずに繭を愛することを決意する。
 の心臓を逞に移植、というコースが見えているときに、こんな感動の押し売りをされても困る。
 採点:★★☆☆☆
 
市川ショウ『おうちへ帰ろう。』新連載第1回
 あらすじ:主人公は弟(幼稚園児)の面倒をみる高校生。いけ好かない風紀委員の彼氏役も実は妹(幼稚園児)の面倒をみており、それがきっかけで接近する。
 素直だが奇想がない。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第20回
 あらすじ:彼氏役()を敵視する玲二が、主人公()の正体や司との関係を知る。
 正体をバラしにかかった。連載を終わらせるつもりかもしれない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・千葉コズエ『夜の学校へおいでよ!』連載第2回、次回最終回
 あらすじ:夜中の学校で逢引
 設定の肝である学校ハウス(学校の敷地内に民家があり、そこに主人公が住んでいる)の取り壊しが予告された。前回、「この設定からどんな手を繰り出すのかと考えてみると、難しい気もする」と書いたが、なるほど、続編の含みを残さず3回連載で終わらせるなら手には困らない。
 次回にちゃんと予告どおり取り壊したら、作者の3回連載のなかでは初めてまともな作品になるだろう。
 採点:★★★☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』 連載第4回
 あらすじ:彼氏役(蓮二)と気まずくなる主人公()。敵役(鉄汰)がさらに揺さぶりをかける。
 普通に盛り上げているが、やや単調か。このあたりは変化球が欲しい。
 採点:★★★☆☆
 
水波風南『狂想ヘヴン』連載第16回、次回最終回
 あらすじ:主人公(水結)は彼氏役(蒼似)と離れることを嫌がるが、蒼似の努力もあって、遠距離恋愛を決意する。
 前回の時点では全18回と見込んでいたので、あと3回どうひねるつもりかと考えてしまったが、全17回でひねりなく終わるらしい。
 採点:★★☆☆☆
 
・車谷晴子『極上男子と暮らしてます。』連載第10回
 あらすじ:学園祭でホストクラブごっこ。
 すべてが図式的で、しかもぎこちない。図式的であることのメリットは、物事が収まりよくすらすらと流れることだ(複雑微妙なものは収まりが悪い)。それができない作者の構成力はきわめて怪しい。
 採点:★☆☆☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第22回
 あらすじ:が主人公(彩華)を奪うための第一歩として、彼氏役()に勝負を挑むが、敗れる。
 前回に引き続き連載回数を「22th」と誤植している。
 いわゆる青春物の味わいを出そうとしているが、毛色の違うものを混ぜてしまった感がある。彩華が理知的なので、勝負にすっきりと理屈が通ってしまっている。あまり理屈が通らないのもついてゆけないが、「なぜそこで勝負?」という部分も必要だ。その微妙な(あくまで微妙な)理不尽さに青春物の味わいがある。
 採点:★★☆☆☆
 
・藤中千聖『二人あわせてプラマイゼロ』読み切り
 あらすじ:マイナス思考の主人公が、彼氏役に励まされて積極的になろうとする。
 盛り上げかたがうまくない。主人公の劇的な行動(要するに告白)が見せ場になるはずの話だが、「ここが見せ場だ」という画面構成ができていない。
 採点:★★☆☆☆
 
・麻見雅『燃え萌えダーリン』連載第3回
 あらすじ:主人公の許婚が登場。彼氏役(使い魔)に魔力を供給する必要をネタに主人公に迫るが、彼氏役が登場して退ける。しかし妖怪退治屋と使い魔の恋は禁じられている。
 もし絵(特に服装)がまともなら、それなりに形になっている話のような気がする。
 採点:★☆☆☆☆
 
・悠妃りゅう『バタフライ・キス』最終回
 あらすじ:よくわからない。
 なにか適当にいろいろ片付けて終わった。
 採点:★★☆☆☆
 
第26回につづく

Posted by hajime at 2007年06月07日 22:36
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