2007年06月23日

少コミを読む(第26回・2007年第14号)

 前回の続き。
 少コミがつまらない理由の第一は、ファンタジーとしての恋愛を徹底できていないことだ。取りうる対策は以下の3通り。
1. ファンタジーとしての恋愛をやめ、誇張・風刺・メロドラマにする
2. BL中心にする
3. 馬鹿な読者をきっぱり無視して、ファンタジーを徹底する
 1は、昔ながらの路線に立ち戻ることを意味する。たとえば『♂(あだむ)と♀(いぶ)の方程式』の主人公は、読者の誇張であり風刺だ。現在でも『僕の初恋をキミに捧ぐ』はメロドラマだ(出来は悪いが)。
 2は私見ではもっとも現実的な選択だ。1や3は作品の内容を考える必要があるが、2ならその必要がない。
 3は一番面白いものがでてくるはずだが、まったく現実的ではない。アンケート等に頼らない場合でも、少数の読み巧者は必要であり、今の少コミにはそれがない。
 (参考:馬鹿な読者について
 この話題は次回に続く。

 
・しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』新連載第1回
 あらすじ:過保護の兄2人を持つ主人公。彼氏役は軽薄そうに近づいてきたが、障害(兄)にめげずに口説きつづける。
 相変わらず彼氏役が同じパターンなのが辛い。彼氏役として許容される範囲があまりにも狭いのか、それとも作者にやる気がないのか。
 採点:★★☆☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』 連載第5回
 あらすじ:敵役(鉄汰)と彼氏役(蓮二)が衝突。
 話は典型的なのに、展開が微妙にぎこちない。たとえば、店を紹介するところで切って、次回につなぐほうがよさそうだ。
 採点:★★★☆☆
 
・市川ショウ『おうちへ帰ろう。』連載第2回
 あらすじ:主人公と彼氏役がそれぞれ弟妹を連れて海辺でデート。彼氏役がいいところを見せるが、恋は進展せず。
 魅力について。
 「魅力がない」と言ったところで、何も言ったことにならない。私が技術的な問題ばかり書くのは、つまるところそのせいだ。技術的な問題なら、読者はその当否や問題設定について考えることができる。しかし「魅力がない」では、なんのきっかけにもならない。
 だが時には、そう言わざるをえない場合もある。技術的には欠陥が見当たらず、減点法では高い点数が出るのに、「面白いか?」と聞かれれば否と言わざるをえない、そんな作品がある。これだ。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第21回
 あらすじ:主人公()をきっかけに、彼氏役()のサッカーがレベルアップ。
 最後のページに「次号、衝撃の急展開」とある。たしか番外編が1本あるので、全23回で完結か?
 何度同じようなことを書いたかわからないが、サッカーの腕のすごさを、美形演出やネームで表現されても困る。
 採点:★★☆☆☆
 
・車谷晴子『極上男子と暮らしてます。』連載第11回、次回最終回
 あらすじ:主人公の母親が帰宅し、娘(主人公)と共にイタリアに移住すると宣言。
 無難に最終回ネタを振っている。
 採点:★★☆☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第23回
 あらすじ:彼氏役()を引き戻すべく、付属科から生徒会長(女)がやってきた。生徒会長は、付属科のパーティーの様子を主人公(彩華)に見せる。それは生徒会長の罠だったが、芯の活躍で窮地を逃れる。しかしそのとき、「恋愛禁止」の校則違反の証拠をつかまれていた。
 ようやく連載回数が「23rd」に直った。
 話の密度が高い。それでいて忙しいわけではなく、きっちりと噛み合っている。絵的にも見どころ(盛装)があって楽しい。堪能した。
 採点:★★★★☆
 
・麻見雅『燃え萌えダーリン』連載第4回
 あらすじ:主人公と彼氏役(使い魔)が結ばれる。
 絡みだけで1回全部を費やすとは、話を引き伸ばしにかかっている人気連載のつもりか。
 採点:☆☆☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第44回
 あらすじ:が弓道部に入部してと青春する。
 次回いよいよが倒れるか。
 採点:★★★☆☆
 
・白石ユキ『極秘彼氏にヤキモキ彼女』読み切り
 あらすじ:彼氏役にほかの女が? と思ったら母親だった。
 ごちゃごちゃしていて、話が頭に入らない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・蜜樹みこ『白雪王子に林檎姫』読み切り
 あらすじ:幼い日の彼氏役の発言がトラウマになり、赤面するのを恐れて厚化粧をする主人公。彼氏役に告白されてトラウマが治って終わり。
 私はトラウマ物が嫌いなので、反感を持って読んだ。トラウマ物の胡散臭さは、なにか倫理的に問題のあるものだ。
 まずトラウマについて。
 「一人の人間と世界との関係を修復不可能なまでに破壊し、永遠にunheimlichな場所に変えるような体験がある、ということをウィルソンは理解できない――或いはあえて理解しようとはしない(こちらの方が正確でしょう)」(佐藤亜紀『小説のストラテジー』(青土社)235ページ)。なおunheimlichとは「不気味」。
 この破壊は、まったく物語的でない不条理な、まさにカフカ的なものだ。トラウマ物は、カフカ的な体験を暗黙のうちに排除したところに成り立っている。
 トラウマを克服してめでたしめでたし、という話はなにも悪くない。難病の克服と同じことだ。ガンで死ぬ人が多いからといって、ガンから生還する話はなにも悪くない。しかし、「ガンは必ず克服できる」「トラウマは必ず克服できる」というのは、カルトの宣伝だ。
 問題はここからだ――ガンが治ったかどうか(つまり死ぬかどうか)は客観的に検証できる。そしてカルトの宣伝は嘘だとバレる。だが、トラウマが治ったかどうか客観的には検証できず、カルトの宣伝が嘘だと証明されることもない。反証可能性がない、という奴だ。ここには重要な倫理的問題が横たわっている。
 トラウマ物にありがちな問題は、もうひとつある。トラウマの克服が他人まかせだという点だ。
 ガン生還話とトラウマ物を比較すれば、よくわかる。ガン治療の実際の過程は、大部分が医者まかせなのに、主役はあくまで患者だ。患者がガンを克服しようとする意志を中心に描く。しかしトラウマ物で、主人公がトラウマを克服しようとする意思を中心に描くものは、めったにお目にかかれない。克服しようとする意志さえろくに持たないまま他人に治してもらうのが、トラウマ物の定型だ。ここにも倫理的問題がある。
 以前の連載のオチをみても、作者には、倫理的なセンスが欠けているように思える。
 採点:★☆☆☆☆
 
水波風南『狂想ヘヴン』最終回
 あらすじ:遠距離恋愛の期間はたった2ヶ月だった。大きな大会で主人公(水結)が優勝して終わり。
 普通に盛り上げて終わった。
 採点:★★☆☆☆
 
・千葉コズエ『夜の学校へおいでよ!』最終回
 あらすじ:学校ハウスを守って終わり。
 「次回にちゃんと予告どおり取り壊したら、作者の3回連載のなかでは初めてまともな作品になるだろう」と前回書いたとき、もちろん私は予想していた――続編に未練のある作者(と編集者)は絶対に取り壊さないだろう、と。
 学校ハウスは取り壊されないし、僕キミの逞も死なない、そういう結構(反語)な世界なのだ少コミは。
 採点:★☆☆☆☆
 
第27回につづく

Posted by hajime at 2007年06月23日 03:22
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