2012年07月30日

才能がない人のためのロードバイクトレーニング 詳細編

 あまり重要でないいくつかの問題について。

 
・ベンチマークの結果を、直前のメゾサイクルにのみ帰するのは短絡的ではないか? 短期的にしか効かないワークアウトや、長期的に効くワークアウトもあるのではないか?
 第一に、比較対象はPBである。
 短期的にしか効かないワークアウトを重ねれば、いずれPBを更新できなくなり、全体的な見直しを迫られる。短期的にしか効かないワークアウトなるものが、仮に現実に罠として存在するとしても、罠にはまったことに気づいて抜け出せる。
 第二に、トレーニングレベルの問題がある。
 トレーニングレベルが低ければ、どんなワークアウトをやってもただちに大きく向上する。この段階では、短期的にしか効かないワークアウトなるものを気にする必要はない。そしてほとんどの人は、プロ選手の競技レベルはもちろんのこと、トレーニングレベルに到達することもできない。
 第三に、「才能のある人には効いても、自分には効かないかもしれない」。
 自分に効くトレーニングを探し出して、そこに重点を置くべきだ。
 第四に、モチベーションの問題がある。
 ベンチマークでPBを出すことよりも優れた刺激はおそらくない。「長期的に効く」という憶測は、PBの与える刺激とは比べ物にならない。
 
・5分間の平均出力(5MP)はよいベンチマークか?
 「VO2maxには遺伝的な上限があり、数カ月のトレーニングで上限に達して、それ以上は向上しない」という説がある。5MPはVO2maxを強く反映するので、よいベンチマークとは言えないのではないか?
 この疑問に対しては、2つの反論がある。
 第一に、「数カ月のトレーニングでVO2maxの遺伝的上限に達する」との説に疑問がある。私は2010年10月に276Wに達して、いったん飽和したかに見えたが、2012年6月には296Wに達した。この間、筋量はほとんど増えていない。
 第二に、5MPはいつでもトライできる。私の環境では、夏には60MPにトライできない。室内気温を十分に下げられないからだ。トライしづらいベンチマークは、たとえ理論的には優れていても、よいベンチマークではない。
 
・60分間の平均出力(60MP)は必要なベンチマークか?
 私は主に5MP、サブとして60MPをベンチマークに設定している。2種類のベンチマークを設定するのは「シンプル」の原則に反する。この場合には原則をまげることは妥当か?
 利点としては、ヒルクライムイベント等でのペースを決めるうえで役に立つ。1時間前後のペースを決めるのに、使える数字が5MPでは心もとない。
 欠点としては、5MPよりもコンディショニングが難しいので時間を取られる。私の場合、2週間はかかる。また、60MPと5MPの相関は大きいため、得られる情報量はあまり増えない。5MPが向上しているのに60MPは停滞した、というケースは今まで一度もない。
 結論としては、60MPと5MPの2種類を設定する必要性は疑わしい。読者諸氏は1種類に絞ったほうがいいかもしれない。
 
 以上、通説に反する点も多いが、通説はベンチマークの代わりにはならない。
 研究報告に出てくるwell-trained cyclistはしばしば、moderately-talented cyclistでもある。well-trainedかつpoor-talentedな被験者のグループを見つけるのは難しい。そもそも研究の対象にならないだろう。
 スポーツ科学の関心はほとんど2方向しかない。チャンピオンを作ることと、健康を高めること。チャンピオンの卵や、健康を望む人々にとっては、スポーツ科学はそのままで十分役に立つ。だが、生まれつき表彰台とは無縁なのに表彰台を目指す人々は、スポーツ科学との付き合い方をよく考えなければならない。
 とりあえず、「数カ月のトレーニングでVO2maxの遺伝的上限に達する」という説を疑うことから始めよう。ほとんどの読者諸氏の現在の5MPは、たとえそれが60MPだったとしても、さらには体脂肪率を5%まで絞り込んだとしても、乗鞍で60分を切れない値のはずだ。それでも乗鞍60分切りを目指すのなら、疑わなければならない。

Posted by hajime at 2012年07月30日 20:37
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