サイコンの距離計が3万キロに達したので、記念にとりとめもないことを書きとめておく。
環境編:
・外は走らない
事故に遭ううえに時間の無駄。室内で固定ローラーが一番。
・外を走りたければ、いいところに住む
東京なら荒川の近く。
・とはいえやっぱり外を走る
そして事故に遭う。私は荒川に出現したというアザラシを見物しに行った(でも結局見られなかった)帰りに事故に遭った。
設備編:
・固定ローラーは可能なかぎり大きく重いものを選ぶ
私はKurt KineticのRoad Machineを使っている。ちなみにこれは水平が出ていないので、脚の下に板を挟んで水平を出す必要がある。
・固定ローラーに使う工場扇は可能なかぎり大きなものを選ぶ
工場扇の巨大さには怯む。私も最初はへぼいサーキュレーターを買った。しかし工場扇は絶対に必要であるばかりか、標準的な45cmサイズでは夏には足りない。60cmのものを強くお勧めする。
・固定ローラーに使うイヤホンはEtymotic Research製がいい
固定ローラーでは遮音性の高いカナル型イヤホンが必須となる。遮音性でEtymotic Research製に勝るものは見当たらない。使用環境が過酷なためか1年ほどで壊れるので、安いものを選ぶ。
・自転車は床に置かない
床に置くと邪魔だし蹴飛ばす。私はミノウラのバイクタワーを使っている。
機材編:
・初物には手を出さない
79デュラの右レバーには、一操作で2段シフトする機能がある。しかし私が発売間もない頃に79デュラを買ったら、6→8や7→9は問題なく動作するのに、8→10はまともに動作しなかった。レバーを押しているあいだは10にとどまるのだが、そこからさらにレバーを非常に強く押し込まないと、9に戻ってしまう。シマノにクレームをつけて送り返して交換しても、やはり同じだった。
ところが先日、事故の修理で右レバーを交換したところ、8→10が動作するようになっていた。
・パワーメーターは必要
テレビのない固定ローラーは考えられるが、パワーメーターのない固定ローラーは考えられない。
・Sidiのシューズはダメ
重い。ソールが狭く分厚く、妙な形状をしている。この妙な形状が合う人にとっては最高のシューズなのだろうとは想像がつくが、おそらく大部分の人はそうではない。
・タイヤを新しくしたときには、表面の離型剤を落とす
消しゴムでこすると落ちる。ショップではウレタンスポンジを勧められた。表面の離型剤は猛烈に滑る。私はこれで一回こけた。
・複数の自転車を使う場合、部品の規格を揃える
たとえばハンドルの直径。私は26mmに統一した。オーバーサイズも1年ほど使ったが、なんのメリットもなかった。
・サングラスはフレームレスがいい
最近のメガネは細長いのが流行りで、スポーツサングラスもその影響を受けてか細長いものばかりになっている。だからフレームのあるサングラスだと、自転車の前傾姿勢では視界をフレームに遮られる。自転車用として売り込まれているサングラスでも、だ。
AssosのZeghoは、フレームレスのうえに細長の流行に逆らったデザインで、非常に注目しているが、なにしろ高すぎて手が出せない。
ちなみにフレームレスに限らず逆ナイロールでもいいとは思うが、逆ナイロールのスポーツサングラスはまだ見たことがない。
・一番重要な部品はブレーキシュー
ブレーキシューは制動力を決める最大の要因であり、しかも製品による差が大きい。ブレーキキャリパーの差はシューの差には遠く及ばない。
以前、雨の中を走っていたら、「ブレーキシューがもう全然ない」と悲鳴を上げている集団を見かけた。カーボンホイールで長距離を走るのなら、ブレーキシューの予備をサドルバッグに入れておきたい。
整備編:
・チェーンを外して洗うのは空しい
私はKMCのミッシングリンクを使っていることもあり、昔はよくチェーンを外して徹底的に洗っていた。しかし、WAKO'Sのフィルタークリーナーを塗ってブラシでこすって水で流すと、わざわざ外さなくても見た目は十分きれいになる。このことを知ってからは、これだけで済ませている。
ちなみに私はなぜミッシングリンクを使うのかというと、コネクティングピン方式が信用できないからだ。
・説明書はよく読む
ショップは部品の説明書をくれないことが多いので、その場合はメーカーの公式サイトに頼る。
何気ない部品でも、説明書には意外なことが書いてある。たとえばKalloy ASA-105(ステム)の説明書は、ボルトを締める順番を指定している。
・カップアンドコーンのベアリングはいじらない
よく「玉当たり調整」や「グリースアップ」の記事を見かけるが、やらないほうがいい。特にペダル。いじる前よりよくなることは珍しく、かえって悪くするリスクが大きすぎる。
だからカップアンドコーンはカートリッジベアリングよりも実質的な寿命が短い、というのが私の意見である。「メンテナンスできるから長寿命」というのは、いじれることがもたらす幻想にすぎない。人は自分の関与を過大評価する生き物である。
ちなみにベアリングについてはずいぶん調べた。たとえばグリースのチャーニングとチャネリングについてはご存じだろうか。「グリースが硬すぎて抵抗が大きいから柔らかいものに変えたらよく回るようになった」という体験談をネット上でよく見るが、これは人がいかにオカルトに騙されやすいかの例証といえる。こういう人がカップアンドコーンを「メンテナンスできるから長寿命」と主張するわけだ。
情報編:
・ネットにある日本語の情報はオカルトばかり
たとえばホイールについての情報はひどいの一語に尽きる。体験ばかりで測定がない。以下にまともな情報源を挙げておく。
Wheel Stiffness Test
このページでの実験結果も示すとおり、スポークテンションは一定の下限を下回らないかぎりホイールの剛性とは無関係。
A note on spoke count
A note on spoke shape
ちなみに現在気になっているが情報がないのは、スポークのentanglement(綾)と剛性の関係。
ポジション編:
・ハンドルは高く遠いのが苦しく、低く近いのが楽
近いほうが楽なのは直感どおりだが、低いほうが楽なのは直感に反する。しかし事実である。
プロ選手のハンドルは総じて低く遠い。ママチャリ姿勢(極端に高く近い)を見慣れた目には非常に苦しそうに見えるが、実はそうでもない。遠いぶん低いからだ。
商品開発の謎編:
・なぜライトやベルはタイラップ(インシュロック)を使わないのか
ライトやベルには、大きく重く醜い留め具(バンド等)が必ずついている。必ずだ。タイラップで留めるライトやベルをずいぶん探したが、いまだに見たことがない。大型のライトをタイラップで留めるのは無理としても、ベルや小型のライトならタイラップがふさわしい。
・なぜステムの角度は6度付近に集中しているのか
ハンドルの高さは、主にステムの角度で調整し、コラムスペーサーで微調整するのがいい。これで重量と空気抵抗は最小になり、見た目もすっきりする。しかし現実には、ステムの角度を変えるという発想はないらしい。コラムスペーサーを山盛りにした自転車が巷に溢れている。ステムはまるでパソコンのキーボードのようにメーカーと種類ばかり多く、角度は画一的だ。
買い物編:
・自転車業界の人間は全員イタリア人と思え
ショップの店員はアジア風の容貌で日本語をしゃべるが、騙されてはいけない。中身はイタリア人だ。
だから「イタリア製」にこだわる人の気持ちが私にはわからない。なにを買ってもイタリア製ではないか。もちろん、マニアックな商品ほどイタリア濃度は高まる。納期が2年遅れてしかも3日で壊れた、という目にあっても「さすがイタリア製」と感心するくらいでいたい。しかし私には無理なので、変なものは買わないことにしている。
・工具の優先順位は高い
残念ながら、映画『OVERCOMING』の冒頭のモノローグにもあるとおり、壊さないと整備は学べない。だが自分で整備しなければ、自転車を知ることはできない。それでも、まともな工具はそう簡単には壊れないので、工具への投資は比較的手堅い。
・高級品を買うのは、安物を十分壊してから
もちろん壊さずに整備できれば、それに越したことはない。しかし、そうなるはずだと最初から決め込むのは無理がある。私はかなり機械をいじるほうだが、ペダルを壊した。
・ステムに高級品は無駄
どうせすぐにポジションが変わる。ただし粗悪なものだと、フォークコラムの入る穴の精度が悪くて取り付けられないことがある。
『心理学が描くリスクの世界』を読んだ。心理学におけるリスクと不確実性を紹介した本である。
内容的には行動経済学と重なる点が多い。行動経済学を紹介した本には、『予想どおりに不合理』という傑作があり、たいていの非専門的な読者には先にこちらを読むことをお勧めする。
さて本題。以下の問題に取り組んでいただきたい。制限時間は1分間。
ある男が馬を$60で買い、$70で売った。それから彼は$80でそれを買い戻し、再び$90で売った。彼は馬の売り買いでいくら儲けたのか?(215ページより)
1952年、アメリカかどこかの大学生にこの問題を解かせたときの正解率は、44〜46%だったという。
読者諸氏はこの数字をどう思われただろうか。私にとっては衝撃的な値だった。この問題に半分も正解できないような集団など、現実はおろかフィクションの世界でさえ、『エリートヤンキー三郎』の舞台の底辺高校くらいしか思いつけない。
衝撃はさらに続く。被験者にこの問題を(一人で)解かせてから、5〜6人の集団で8分間議論させたあとに集団が出した解答の正解率は、72〜84%だった。
いったい彼らは8分間なにをしていたのか。これまた『エリートヤンキー三郎』の世界のほかに私はなにひとつ思い描けない。
日本の学生とインドネシアの学生を比較した研究も、違った角度から衝撃的であり、『エリートヤンキー三郎』的だ。
アメリカ合衆国において、飛行機の機体の一部の落下による死亡と、サメによる死亡とでは、どちらの方がより多いと思いますか。(236ページより)
2001年の調査では、日本の学生はちょうど半々に分かれ、インドネシアの学生は228対72で「飛行機の機体の一部の落下による死亡」が多かった。(79ページ)
この差自体は、インドネシアと日本の学生のあいだの「アメリカ」についての情報量の差によるものだろうが、その差が桁違いなものとは思えない。インドネシアの大学進学率を考えれば、バイタリティや頭の冴えではインドネシア学生のほうが優っている可能性が高い。
だが、情報が多少乏しいだけで、これほど圧倒的な偏見が生じる。バイタリティと頭の冴えと学力と社会的ステータスをすべて備えたエリートが、『エリートヤンキー三郎』になってしまう。
『予想どおりに不合理』は傑作だが、甘口だった。本書は辛口だ。本書を読むと、世の人々がみな『エリートヤンキー三郎』の登場人物に重なって見えるようになる。もちろん自分自身も含めて。
dynabook AZにUbuntu 12.04 Beta 1を入れた。
・ハードウェアのせいかどうか知らないが不安定。mozcをコンパイルしていたら2度フリーズした。
・画面を閉じてもスリープしていない気がする。設定の問題か。
・mozcがないのでコンパイルした。物はこちら。
本日の配信をもって紅茶ボタンは完結です。長らくご愛読ありがとうございました。次回作にご期待ください。