私は2chのレズ声優スレを研究した。その結果、スレでよく話題になる声優だけは、ぼんやりとイメージできるようになった。
レズ声優スレの常連声優のなかから選ぶという条件で、主役級4人を妄想キャスティングしてみる。
橋本美園:生天目仁美
次点:田中理恵
美園は、他の三人とは少しずれた、世俗的な次元にいる。世慣れた感じをふりまくのに長けた役者、ということで、このようになった。
ひかるとの絡みを重視すると、次点のほうが魅力的だ。ここでは作品全体の演出を重視したので、次点にとどまっている。
平石緋沙子:釘宮理恵
次点:川澄綾子
ひかるより背が高く聞こえ、緊張感があり、幼さも出せ、美人を演じて説得力がある、という条件で選ぶとこうなった。
次点には、うまく言えないが、なにか大切なものがある。つまり、カンだ。
設楽ひかる:能登麻美子
次点:田村ゆかり
次点のほうが面白いので先に。
この人の演技には独特の距離感覚がある。その距離感覚を生かせる役だと面白い。とはいえこの役は、声質の面で辛いので、現実にはこういうキャスティングは難しそうだ。妄想キャスティングならではの醍醐味といえる。
面白さをあきらめて順当に選ぶと、ご覧のとおりだ。『ヤミと帽子と本の旅人』の葉月のイメージである。
波多野陸子:こやまきみこ
次点:落合祐里香
声質の条件(すごいアニメ声)が厳しいので、この二人の一騎打ちになった。
感情表出の際の衝撃力を重視して、この結果となった。あまりフォトジェニック(声だからサウンドジェニック?)でない声のほうがいいので、もし衝撃力が十分なら、次点のほうをとりたい。
やってみると、なかなか厳しい。釘宮と川澄は最近ではスレ常連から遠ざかっているが、ほかに緋沙子にあてられる声優が見つからなかった。
それでもまだかなり不満がある。こやま―能登―釘宮という配置は、「いかにも」すぎる。作品解釈としてベタすぎる。「なんだこれは」という予想外の配置で、作品に別の光を当てるようなキャスティングがしたい。
というわけで次回、スレ常連でない外国人選手を2人投入してみる。
*
陛下は、ほとんど一瞬で、気持ちのありようを切り替えられた。私の意志をひと潰しにしようするかわりに、獲物を追うときのように、視野を広く、身を軽くなさった。
気持ちが切り替わると、私の上からどいて、手をさしのべてくださる。私はその手をとった。けれど支えにはせず、自分で身を起こす。陛下が車からお降りになるとき、私の手をとるだけで、支えにはなさらないのと同じように。
私が座布団の上に座りなおすと、陛下はそのたおやかな御手で、私の腰に触れてくださった。
「ひかるちゃんのここ、ちょっと細くなったかなー?」
そこはさっき陛下のおみ足に挟まれていたところだった。くすぐったさに、身体が小さく震える。
「ではこれからは、細くなるように務めます」
「ひさちゃんを引き取るっていうことは、実家で預かってもらうの?」
「いえ、一緒に暮らします」
耳のすぐそばで、陛下はかすかに笑い声を漏らされた。
「ひかるちゃんは、私のことはわかってるみたいだけど。自分のことも、もうちょっと、わかんなきゃねー。
私がひさちゃんのこと性的虐待してるっていうけど、それはひかるちゃんだって五十歩百歩なんだよ?」
こんな見方があるとは夢にも思わなかった。言われてみると、反論できない。
「誘ったのは私ですが――疑いを晴らす立場にないということは存じております」
陛下は私の側を離れて、ご自分の座布団にお戻りになった。
「でも自分は正しい、って思ってるでしょ? あぶないなー。
ここって、私がなにしても筒抜けなの。かならずメイドさんの誰かが聞いてるし、そしたら橋本さんに報告がいくし、やばそうなことなら理事会までいくの。ひさちゃんのこと、そりゃちょっとはいじめるけど、もし本当にひどいことしたら、止めてもらえるようになってるの。
でも、ひかるちゃんとひさちゃんの二人暮らしだったら、どう? 誰も止めてくれないよ」
陛下が幼い日々を過ごされた、子供の家のことを思い起こす。
陛下のように完全な捨て子としてやってくる子供は、あまりいない。たいていは、緋沙子のように親との関係に問題があるか、あるいは親の暮らしが破綻しているか、どちらかだ。そういう子供たちとつきあっていれば、止めてくれる人がいないことの恐ろしさを、身にしみて知るようになるのだろう。
そんな世界に触れたことのない私には、思いもよらないことだった。私はぐらついた。
そのとき背後から声がした。
「恐れながら申し上げます。私はひかるさまを信じます」
緋沙子だった。
陛下の応対は鋭かった。
「ひさちゃんは、信じるだけでいいんだもんね。ひかるちゃんには、責任があるんだよ」
私は振り向いて、緋沙子に告げる、
「――ありがとう」
「なにもかも設楽さまの思うようになさってください」
追い討ちをかけるように陛下は、
「ひかるちゃんて、エッチなことだと、止まらないよね。服の匂いをかいだりとか。
ひさちゃんのことも、そうなっちゃうんじゃない? 自分でもわけがわかんないけど、やめられないの、悪いこと」
けれど私はもうぐらついてはいなかった。
私の背中はきっと本当に、陛下のお心につながっている。陛下がなにを本当に求め願っておられるのか、まるで耳打ちされているようにわかる。その願いの強さが、私の力になる。
「平石さんを傷つけないという自信はござません。恐れています。ですが、この恐れから逃れようとは思いません。
私は護衛官として陸子さまのお命を預かっています。私の務めが至らず、陸子さまの身に万一のことが起こるのではないかと、恐れております。ですが、陸子さまが私を信じて、私に任せてくださるかぎり、この恐れから逃れようとは思いません。
緋沙子が――」
間違えて、二人のときのように名前で呼んでしまった。一瞬迷い、押し通すことにする。
「――緋沙子が私を信じてくれるなら、私は逃げません。
それに…… 憚りながらお尋ね申し上げます。
たとえどんなに傷つけられることになっても、一緒にいたかった――そのようにお考えあそばしたことは、ございませんか?」
陛下はすぐにその意を汲み取ってくださったようだった。たちまちお顔が気色ばみ、御手が脇息を強くつかむ。
「……一緒にって、誰と?」
「陸子さまをお産みになったお母様と」
陛下のお身体がバネ仕掛けのように前に跳ね、風のように平手打ちが飛んできた。
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