2006年08月22日

少コミを読む(第7回)

 「実物には一向に感心しないくせに、それが絵になると、似ていると言って感心する。絵とはなんと虚しいものだろう」(パスカル『パンセ』)
 外形的には、パスカルのいうとおり、100パーセント馬鹿馬鹿しい。絵という世界の中に入らなければ、絵の価値は存在しない。こういう価値のことを、内在的価値という。
 絵にかぎらず、詩も落語もまんがも、突き詰めれば内在的価値しかない。その世界に入らなければ、作品の価値はゼロだ。たとえば、ある種の現代美術を思い浮かべていただきたい。
 内在的価値を抜きにして作品を是非する行為はみな、よくても虚しいものであり、たいていは有害だ。こういう愚行はソ連が得意で、「社会主義リアリズム」という路線に従っているかどうかで作品を是非した。ソ連批判の第一人者レーニンは、こういう愚行を咎めた名文句をちゃんと残している。「検閲は専制の切れない鋏である」。心ある人々が読んで批判するのでなければ物事はよくならない、と続けている。ソ連は、「社会主義リアリズム」という鋏で、ミステリ小説や抽象絵画を切り捨てていた。
 しばらく前に一時期、少コミの「性描写」をバッシングする声があった。この「性描写」という概念は、「社会主義リアリズム」と同じ、切れない鋏だ。
 第18号のレビューにいこう。

 
・水波風南『狂想ヘヴン』新連載第1回
 あらすじ:進学校にスポーツ推薦(水泳)で入学した主人公(水結)。しかし入学直前の春休みに、不祥事により水泳部が廃部になっていた。その不祥事は実は、ある生徒会役員(蒼以)のデッチあげであり、水結はそのデッチあげの現場にでくわしていた。しかし水結は、自分の目撃したことがなにかわからず、蒼以に惹かれてゆく。
 ネームの流れがよく、複雑な事実関係がしっかり頭に入る。しかしヒキが弱い。また、蒼以のいい男ぶりのアピールも弱い。そのため、次回を読みたいという気持ちがあまりわいてこない。スロースターターなのだろうか。
 採点:★★☆☆☆
 
・くまがい杏子『はつめいプリンセス』連載第3回
 あらすじ:主人公が彼氏役と結ばれようとしたら、TVの生放送で密着取材。
 話は妄想的で素晴らしい。ネームは多少こなれてきたが、まだまだ整理が足りない。
 新人なので連載は3回で終わりかと思ったら、まだ続くらしい。
 採点:★★★☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第25回
 扉の連載回数が間違っている。今号は第25回のはずだ。毎号どこかで必ず連載回数を間違えているような気がする。なにかの暗号なのだろうか。
 ここのところ重い展開が続いたので、1球外してきた。どこかでをズバリと放り込んで終わりにするのが一番美しいと思うが、すでにバランスを崩しているので、全力で逃げたほうがいいかもしれない。
 照の扱いがひどかったのにくらべて、のアピールは的確だ。
 採点:★★☆☆☆
 
・池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第2回
 あらすじ:サッカー好きの主人公(、女)は男に化けて、サッカー強豪校の男子校に入学し、寮に入る。初日から寮の隣人(カズマ)に女とばれて窮地に立つ。しかしカズマは、無心にサッカーに打ち込む翠を見て、翠の協力者になる。
 男子校潜入モノは真面目に考えると不可能なので、バレる・バレないの判定基準をかなり甘く設定するしかない。しかし、裸の下半身をあの角度で見られてもセーフなのに、裸の上半身を前から見られたらアウト、という判定基準はあまり納得がいかない。
 サッカーの練習中のポーズも謎だ。17ページ左上、膝を曲げながら両腕を上げているが、サッカーのどんなプレーでこういうポーズになるのかわからない。登場人物の顔といい、ポーズといい、かわいいものしか描かないという誓いでも立てているのだろうか。
 いろいろ納得はいかないが、勢いがあって面白い。
 採点:★★★★☆
 
新條まゆ『愛を歌うより俺に溺れろ!』連載第14回
 あらすじを書く気になれないくらい話が壊れてきている。
 だが、まだ壊れっぷりが足りない。もっとやれ、だ。
 採点:★★★☆☆
 
・あゆみ凛『Kissよりもいじわる』新連載第1回
 ネームがしっかり整理されていて、すんなりと頭に入る。が、頭に入るからといって、話の不自然さを見逃せるわけではない。
 26ページ目では、自分の着ている服を脱ぐか破くかするのが手筋だ。「キスシーンがないから、どこかにねじ込め」と編集者に言われたのかもしれない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・堀田敦子『実録恐怖夜話』読み切り
 ホラーである。専門誌に掲載される全力投球の作品にはかなうべくもないが、いい味は出している。
 採点:★☆☆☆☆
 
・悠妃りゅう『ハツコイエスケープ』読み切り
 あらすじ:別れた男とよりを戻す。
 ネームも画面もしっかり構成されているが、話がよくわからない。部分部分はしっかりしていて理解でき、楽しく読めるが、読み終わったあとが問題だ。話全体の旋回軸がないので、全体像をイメージできない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・天音佑湖『恋敵は子猫ちゃん・』連載第2回
 見落としていたが、前回は新連載第1回だったらしい。
 画面がだいぶ見やすくなった。虎も効果的だ。
 採点:★★☆☆☆
 
・織田綺『LOVEY DOVEY』連載第4回
 あらすじ:パーフェクトジオングな幼馴染(敬士)が巻き返しに出た。
 構成が悪いのか、ぐだぐだしている。思うに、と敬士の設定がまずい。二人のスペックが対照的なようでいて実はそれほどでもない。たとえば敬士が貧乏人の苦労人だったりしたら、二人の対比はもっと緊張したものになるはずだ。
 採点:★☆☆☆☆
 
・しがの夷織『めちゃモテ・ハニィ』連載第5回
 あらすじ:主人公に手を出した保護者役(和也)が、手を出してもやはり保護者的ポジションだということをアピール。
 人間関係の距離感が適切で驚く。
 少女まんがでは、彼氏役の心理が一人称的に描かれて、主人公への恋心がまぎれのない形で描かれることが多い。しかしこの作品ではまだそれをやっていない。彼氏役(大輝)の心理が不透明なので、和也の懸念は当然のものだとわかるし、読者も不安になることができる。
 設定は少コミらしく変だが、これぞ少女まんが、と言いたい。
 採点:★★★★☆
 
・藍川さき『恋愛上々↑↑』最終回
 駄目な点はいろいろあるが、ひとつだけ。28ページ目、「仕方ないなあ」で打ち切ってしまうのはどうかと思う。
 採点:☆☆☆☆☆
 
第8回に続く

Posted by hajime at 2006年08月22日 22:11
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