2011年06月23日

悟り約7回分に相当する苦行

 ホイールを自分で組んだ。
 結論:店に頼め

所要時間:約12時間
 
道具:
・振れ取り台:ローラー台
・テンションメーター:iPadのソフトのスペアナ
・ニップル回し:パークツール
・センターゲージ:ミノウラの安物
 
材料:
・リム:Planet Xの20mmカーボンリム。実測250gと257gなのに1万円を切るヤバい奴
・フロントハブ:NOVATEC 20H 78g
・リアハブ:PowerTap SL wired 24H 420g
・スポーク:Pillar PSR X-TRA 1422 ただしリア右のみDT champion 2.0
・ニップル:Pillarのアルミ ただしリア右のみメーカー不明の謎のアルミニップル
 
lacing:
・フロント:ラジアル
・リア:左は2 cross interlaced、右は1 cross, all heads-in
・最大テンション:900N
 
重量:
・フロント:448g
・リア:823g
 
感想:
・悟り約7回分に相当する苦行
・スペアナがあればテンションメーターはいらない
・「縦横の振れを取る」「センターを合わせる」「テンションを目標値に合わせる」、どれか2つなら簡単。3つ同時は果てしない苦行
・馴染み出しは危険。フロントを馴染み出ししていたらスポーク穴付近がひとつ嫌な感じになった
・リアの横剛性はパーフェクト。ただし右スポークがディレーラーにかする。ディレーラーをヤスリで削って合わせる予定
・リア左のスポークとニップルの角度がずれていて嫌な感じ。PowerTapはフランジが大きすぎる。PowerTapの一番嫌なところ
 
 ちなみにまだ乗っていない。

Posted by hajime at 00:51 | Comments (0)

2011年06月18日

なぜホイールのスポークは綾を取るのか

 世の中のほとんどの人は、自分が仕事でなにをやっているか知らない。社会的意義とかそういう空しい話ではなく、「これがこうなったらこうする」というレベルの話だ。プロ野球選手が自分の動作をどれだけ知っているか、と考えればわかりやすい。高度なコツは言わずもがなだが、スロービデオで見れば一目瞭然の簡単なことさえも知らないことが多い。たとえば、横の変化球を投げるとき、腕をどうひねるか? スロービデオによれば、噛み合う2つの歯車のようにボールと腕を逆方向にひねっているのに、そのことを認識している投手は少ないという。長嶋語は誰が聞いてもわからないが、自分のやっていることを誠実に説明しようとしたときの必然である。

 さらに衝撃的な話が、「ファインマンさん」シリーズのどれかに出てくる。ファインマンがあるとき、看板を作る塗装工としゃべったら、「××色を作るには○○色と△△色のペンキを混ぜるんだよ」と塗装工が言った。その混色がありえないと思ったファインマンはすぐに実演してもらった。すると、やはり○○色と△△色をどう混ぜても××色にはならない。塗装工は「おかしいなあ」と脂汗を流した。普段からずっとこんな具合ではとても勤まらないだろうから、通常のワークフローで××色という指示が出たときには正しくやれるのだろう。プロ野球の投手と同じで、体は正しく動くのに、自分がなにをやっているか知らないのだ。
 以上の事実を知ってか知らずか、世の中のほとんどの人は、「なぜそうするんですか?」と訊いて返ってくる答えを聞き流す。そもそも自分がなにをやっているか知らないのに、なぜそうするのかを説明しようとしても、荒唐無稽なナンセンスしか出てこない。さっき、「知ってか知らずか」と控えめに書いたが、これもまた「自分が仕事でなにをやっているか知らない」の例だろう。
 だから、自分がなにをやっているか知っているけれど、なぜそうするのかは知らない、というのはかなり幸運なケースだ。知らないということを知っている、つまり無知の知があるのだから。ある夫婦が料理したときの話だ。肉のブロックを煮込む前に、妻が肉の両端を切った。それを見て夫は「どうして切るんだい?」。妻は「知らない。母から教わったの」。それで妻は母に電話して訊いてみたら、「知らない。おばあちゃんに訊いてみる」。祖母は、「どうしてあんたたちがそんなことをしてるのかわからない。昔は大きな鍋を持ってなかったから、端を切らないと肉が鍋に入らなかったんだよ」。これは理想的なまでに幸運なケースで、作り話ではないかと私は疑っているが、少なくとも作者は私ではない。
 さて今回私がぶちあたった問題――なぜ自転車のホイールのスポークは綾取り(interlace)するのか?
・完組ホイールの大半がnon-interlaced
・interlacedとnon-interlacedの剛性を比較した研究は見つからない
・「なぜ」という問いに対して専門家がバラバラの答えを返す
 こんな状況で、よくもまあ「なぜ」という問いが沸騰しないものだと感心する。私は沸騰した。
 この件に限らず、自転車のホイールの世界では、工学どころか無知の知さえどこにも見当たらない。「スポークテンションが高ければ剛性が高い」というオカルトさえいまだに生き残っている。自社研究施設での実験データ(社外秘)を持っている人以外のほぼ全員が、ファインマンの出会った塗装工のようなものだと考えるべきだ。世の中が完組一色になるのも当然だろう。
 「なぜ」という問いに対する専門家の答えは、
1. 剛性を高めるため
2. 衝撃時にテンションがゼロになってニップルが回らないようにするため
3. 折れたスポークが走路に落ちないようにするため
 1は逆としか思えない。2はグリースを塗れば防げる。3はもっともらしいが、歴史はしばしばこういう期待を裏切る。
 専門家ではないが私もひとつ当て推量をしてみる。
・丸スポークをnon-interlacedで組むと、スポークが太すぎて剛性が高すぎるのと同時に、スポークが細すぎてねじれてニップルを(スポークに対して)回せない
 つまりスポークの太さと剛性の低さを両立させるためのinterlaceではないか。「スポークが太すぎ」は「スポークが多すぎ」と読み替えてもいい。スポークの数が増えればテンションが下げられるのでニップルを回しやすくなるが、その分スポークを細くしなければ剛性が高すぎるし、細くすればねじれてニップルを回せない。
 エアロスポークならねじれを押さえながらニップルを回せるので、non-interlacedのほうが軽く作れる。完組がnon-interlacedなのは、細いエアロスポークを使うからではないか。
 しかしこれはみな当て推量で、やってみなくちゃわからない。大科学実験で(声:細野晴臣)。

Posted by hajime at 12:44 | Comments (0)

2011年06月01日

ハシェク『兵士シュヴェイクの冒険』(岩波文庫)

 ハシェク『兵士シュヴェイクの冒険』(岩波文庫)を読んだら、あまりの面白さに打ちのめされた。
 第一次大戦中のチェコという舞台は、卑怯なまでに素晴らしい。主人公のシュヴェイクは、チェコ人なのにどういうわけかオーストリア・ハンガリー帝国(当時チェコはこの帝国の一部だった)に忠誠心を抱いていて、開戦の報を聞くなり街頭に飛び出して「聖戦貫徹!」と叫び、ひとりでデモのようなことを始める。シュヴェイクのまわりに野次馬が集まり、やがて官憲がやってきてシュヴェイクは逮捕される。罪状は、「心にもない当てこすり(=聖戦貫徹)を叫んで群衆を扇動した」である。戦争に熱心なチェコ人などありえない、というわけだ。
 逮捕後、シュヴェイクは精神鑑定にかけられる。鑑定する医師たちの集まった部屋に皇帝の肖像画があったので、シュヴェイクは「皇帝万歳!」と唱える。それを見た医師たちは即座に、シュヴェイクを精神異常と診断する。皇帝に忠誠なチェコ人など精神異常でしかありえない、というわけだ。
 シュヴェイク以外のチェコ人はたいてい正常で、兵役逃れに命をかけている。手足の一本くらいなくしても兵役を逃れられれば安いものだ。前線では大量殺戮が行われており、兵役逃れに失敗すれば死ぬ確率が高い。たとえ兵役逃れに失敗しても、知恵と気概のある者は、全力で将校にごまをすって塹壕から遠ざかろうとする。
 こんなチェコ人を徴兵で集めて軍隊を作って、大量殺戮の真っ最中の前線に送り込む――バベルの塔にもまさる野心的プロジェクトだ。オーストリア・ハンガリー帝国に忠誠を尽くすシュヴェイクの運命やいかに?
 しかし、こうした舞台の面白さなど、ほんの脇役にすぎない。登場人物たちの異常さと人間味と知恵をつなぎあわせる作者の技の冴えときたら、超スピードや時間停止どころではなく、四次元空間からタコ殴りにされているような気さえする。優れている、などという段ではなく、まさに別次元だ。
 4巻の後半には、表題作のもとになった中短編が収録されているが、これはあまり面白くない。両作品の執筆の間に、作者は赤軍の政治委員を務めたというが、それでこんな四次元能力を獲得できるのなら、私も赤軍の政治委員になりたい。

Posted by hajime at 21:32 | Comments (0)