2009年05月27日

中島梓先生の訃報に接して

 中島梓先生が亡くなられた。
 人間はその最悪の行為で測られる。極端な話、大量殺人犯を「そこ以外は素晴らしい人だから」とかばっても、善人ということにはできない。しかし作家は、その最良の作品で測られる。たったひとつ素晴らしい作品があれば、その作者は素晴らしい作家だ。ほかに駄作や佳作がいくらあっても、ものの数にも入らない。たとえば、『デカメロン』以外のボッカチオや、『ドン・キホーテ』以外のセルバンテスを知っているのは研究者だけだ。
 不幸なことに、近年の作家(つまり死んでからまだ間もない作家)の場合、代表作と最高傑作はめったに一致しない。松本清張の代表作は『点と線』だが、これは清張のなかでも最低の駄作だ。中島梓先生の場合(『グイン・サーガ』)は清張よりはるかにましだが、私に言わせればこれは最高傑作ではない。元愛読者として、また小説道場の門弟として、中島梓先生の遺徳を称えるため、その最良の作品をご紹介する。
 そのとき私は高校生で、学校帰りの電車のなかで読んだ。中島梓先生の作品はすでにだいぶ読んでおり、その作品もルーチンワーク的に手に取って読み始めたが、すぐにルーチンワークなどというものではなくなった。文字が生き物であるかのような感覚に襲われた。夢中で――文字通り夢の中にいるように――読んでいたら、電車を降りるときに網棚に荷物を置き忘れた。幸い、終点の駅に連絡したら見つかったので、取りに行った。その行き帰りにも読んでいたら、その荷物を再び網棚に置き忘れた。今度は見つからなかった。
 以来、私は小説を志すようになり、3年後には小説道場門弟となった。
 計算してみると、中島梓先生がこれを上梓されたのは36歳のとき。今の私といくつも違わない。自分の至らなさに眩暈がする。
 その作品とは、『魔都 恐怖仮面之巻』。私の理想である。

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2009年05月22日

Sho-Comi(少コミ)を読む(最終回・2009年第12号)

 最終回ということで、作家ランキングを3つ作った。
・将来性ランキング
・応援したい作家ベスト5
・好感度ベスト5
 「応援したい」と「好感度」の微妙な差が味わいどころ。

 
将来性ランキング
 古本屋に単行本が並んでいるのを見つけたとき、立ち読みしたくなるかどうかのランキングである。「少コミを読む」で3回以上評価した作家全員に順位をつけた。
 
1位 水波風南
2位 天野まろん
3位 天音佑湖
4位 あゆみ凛
5位 藤中千聖
6位 古賀よしき
7位 くまがい杏子
8位 白石ユキ
9位 千葉コズエ
10位 織田綺
11位 新條まゆ
12位 陽華エミ
13位 紫海早希
14位 夜神里奈
15位 ナオダツボコ
16位 杉しっぽ
17位 心あゆみ
18位 蜜樹みこ
19位 伊吹楓
20位 咲坂芽亜
21位 藤原なお
22位 藍川さき
23位 真村ミオ
24位 市川ショウ
25位 水瀬藍
26位 服部美紀
27位 ミヤケ円
28位 さくら芽依
29位 悠妃りゅう
30位 青木琴美
31位 池山田剛
32位 車谷晴子
33位 麻見雅
34位 わたなべ志穂
35位 美桜せりな
36位 大谷華代
37位 華夜
38位 しがの夷織
39位 浅野美奈子
40位 山中リコ
 
応援したい作家ベスト5
 この人が売れる世の中はきっと今よりいい世の中にちがいない、だからこの人に今日を生き延びさせて明日のチャンスをあげたい、と思える人を選んだ。
 
1位 藤中千聖
2位 ナオダツボコ
3位 あゆみ凛
4位 杉しっぽ
5位 織田綺
 
好感度ベスト5
 完全に私の趣味で選んだ。
 
1位 あゆみ凛
2位 天野まろん
3位 藤中千聖
4位 織田綺
5位 天音佑湖
 
 では2009年第12号のレビュー。
 
藍川さき『僕から君が消えない』連載第15回
 あらすじ:彼氏役(康祐)の元カノ(瑞菜)が強引に康祐にキス、それを目撃した主人公(ほたる)。誤解は解けたものの、二人の仲がぎくしゃくする。瑞菜はさらに康祐にトラブルを持ち込み、ほたるとのデートの約束が危うくなる。一方、当て馬()がほたるに気のある様子。
 あと3回で終わるとすると、駆がうまく捌けそうにない。もう1巻延ばすと、ネタ切れがいっそう苦しくなる。難しいところ。
 評価:★★★☆☆
 
・咲坂芽亜『カワイイだけじゃモノ足りない!』連載第8回
 あらすじ:彼氏役(雷斗)のパリ長期滞在が近づく。雷斗は主人公(アリス)をデートに連れ出し、「一緒にパリに行かないか」と誘う。
 雷斗のアピールに魅力が薄い。社会的ステータスや伏線に頼ったものが多いのが原因か。どちらもほとんどアイディアを要さずに作れるものなので、演出的な説得力が弱い。
 評価:★★☆☆☆
 
・白石ユキ『となりの恋がたき』連載第5回
 あらすじ:本心を見せたヒロ一夜が対立し、主人公()の目の前で口論を争いはじめるが、茜はまともに取り合わずに逃げる。ヒロと一夜は学校の朝礼で公然と茜に告白、自分を選ぶようにと迫る。
 23ページ目の構図が笑える。こういうとぼけた味が作者の持ち味なので、前回のような重苦しい展開は避けるべきだ。
 評価:★★★☆☆
 
・蜜樹みこ『恋、ひらり』連載第11回、次回最終回
 あらすじ:彼氏役(佳月)の弟(正妻の息子、)が、佳月への苛立ちを募らせ、嫌がらせに主人公(純恋)に迫る。佳月は悠に挑発され、次回の公演で、跡継ぎの座と純恋を賭けて勝負することになる。
 悠の苛立ちが取ってつけたように登場する。勝負に純恋を絡めるやりかたが必然性に欠けるので、緊張感がない。
 評価:★★☆☆☆
 
水瀬藍『センセイと私。』連載第17回
 あらすじ:彼氏役(篤哉)の友人(良太郎)が新任教師として登場。良太郎は主人公(遥香)が篤哉を好きだと知っても笑っているが、つきあっていると知ると厳しい顔を見せる。その直後、教室の黒板に何者かが、遥香と篤哉の関係を告発する落書きを大書する。それを見た友人や同級生の反応から、遥香はこれが道ならぬ恋であることを再認識する。
 設定上の本筋に戻ってきた。まるで次回最終回のような展開だが、それにしては良太郎の登場が唐突だ。おそらくまだ1巻分は引っ張るだろう。
 評価:★★★☆☆
 
池山田剛『好きです鈴木くん!!』連載第18回
 あらすじ:主人公(爽歌)が風邪を引き、彼氏役()が見舞いに行く。成り行きで一緒のベッドで寝てしまい、爽歌の両親に発見されるが、輝はこのピンチを利用してアピールする。
 アピールまでの段取りはいいが、アピールの中身に切れ味を欠く。
 評価:★★☆☆☆
 
水波風南『今日、恋をはじめます』連載第40回
 あらすじ:転入生(ハル、ハルステッド)は彼氏役(京汰)との過去の確執を語り、主人公(つばき)を強姦しようとするが、罪悪感のため未遂に終わる。つばきは二人の確執の重さにうちひしがれ、京汰と距離を置こうとする。
 かなり凝った構成。絵の描写・ハルの言葉・ハルが考えているであろうこと、この3つのあいだに複雑なズレを作り出しており、緊張感がある。
 ハルの言葉のうえでの主張によれば、当時のハルの彼女(仮にA子とする)を京汰が強姦しようとして、そこに偶然ハルが踏み込んでしまい、強姦は未遂に終わった、となる。しかし絵に描かれた状況は、強姦としては不自然なものだ。しかも前回、A子がのちに京汰に乗り換えたかのような描写があった。さらに、ハルは「京汰との約束」と言い「京汰への復讐」とは言わない。
 ただ、平均的な少コミ読者がこれほど凝った構成を読み取れるのかどうか、少々怪しい。
 評価:★★★★☆
 
・くまがい杏子『苺時間』連載第9回
 あらすじ:蘭になにか緊急事態が起こり、主人公(市子)にホテルから出ないように言って出ていく。それでも市子が学校に行くと、蘭と市子の関係を告発する怪文書がばらまかれており、大問題になっていた。
 蘭の人物造形が少々弱い。
 次回、市子が誘拐される(今度は本番)と予想する。
 評価:★★★☆☆
 
千葉コズエ『ひとりぼっちはさみしくて』連載第14回
 あらすじ:主人公(詞央)はミュージシャンになるために上京したいと願い、資金稼ぎにバイトを始めるが、そこには彼氏役()の元カノ()が働いていた。詞央は最初は恐れをなしていたが、秋の魅力を理解し、さらに秋が音楽の道に未練があることを知る。
 立て直したようでいて、やはり一手足りない。直の脆弱さ、信用の置けなさに手が回っていれば、緊張感がまるで違っていたはずだ。思えばこの作者はこういう手数計算が弱い気がする。
 評価:★★★☆☆
 
・華夜『恋する野獣』読み切り
 あらすじ:相手を間違えて告白、そのまま好きになる。
 本来告白するはずだった相手(当て馬)のアピールがない。そのため主人公の最初の告白に説得力がなく、主人公の心変わりがドラマではなくなっている。
 評価:★★☆☆☆
 
・浅野美奈子『嘘つきな僕ら』読み切り
 あらすじ:有名な色男が罰ゲームで主人公に告白。
 シンプルな話のはずなのに、さっぱり頭に入らない。
 評価:★☆☆☆☆
 
・藤中千聖『王様の裏シゴト・』最終回
 あらすじ:彼氏役(夏樹)の描いたまんがが映画化、夏樹は主人公(ミユウ)をその主演女優にする。ミユウが主演男優の恋人を演じているのを見て夏樹は嫉妬、キスシーンの撮影中に割って入って自分が恋人を演じる。それを見た映画の監督が「これはいい」と認めて、夏樹が主演男優になる。
 切れ味抜群。ただ、こうするなら最初からもっと馬鹿なノリを打ち出すべきところ。
 評価:★★★★☆
 
 なお、自ら創作活動の第一線にある者が少コミ向け作品の制作に携わらず、評価だけで終わることを、心より恥じる。

Posted by hajime at 02:51 | Comments (3)

2009年05月19日

検疫を主張した人の責任はどこに?

 結論が出た。
4月28日:豚インフルエンザ「空港での検疫、効果なし」、WHOが指摘
5月19日:遺伝子検査と感染数集計を取りやめ…患者急増で神戸市方針
 さて、検疫を主張した人の責任はどこに?。『それにしても女性同伴した政治家が引責辞任をするなか、「検疫オンリー」を主張した健康局長ならびに専門医委員会の専門家が何の責任追及もされないのはおかしな話です。税金の無駄という点においても社会的混乱を招いたという点においても、女性同伴よりはもっと大きな罪を負っているはずです』

Posted by hajime at 23:08 | Comments (0)

2009年05月07日

Sho-Comi(少コミ)を読む(第69回・2009年第11号)

 この「少コミを読む」は3年続ける予定で始めた。第1回は2006年第12号、というわけで今回で最終回――でもいいのだが、全69回はキリが悪いので、次回で最終回にする。
 では2009年第11号のレビュー。

 
水波風南『今日、恋をはじめます』連載第39回
 あらすじ:彼氏役(京汰)のアピール。転入生(ハル、ハルステッド)が再び主人公(つばき)に接近を図る。
 どうも作者の人間成長観は、私とは根本的に違うらしい。だとすると、あれこれ解釈が変わってくる。
 評価:★★★☆☆
 
池山田剛『好きです鈴木くん!!』連載第17回
 あらすじ:両カップルのいちゃいちゃ。
 強制送還から抜け出す展開を前回予想したが、やらなかった。かといって別に意表を突く展開もせず、ひたすら平たい。こんな黄金パターンを見落とすとは、やはり作者は手がろくに見えていない。
 評価:★★☆☆☆
 
藍川さき『僕から君が消えない』連載第14回
 あらすじ:彼氏役(康祐)の元カノ(瑞菜)は男にしつこく付きまとわれており、康祐に助けを求める。そこへ主人公(ほたる)が通りがかり、康祐はほたるに瑞菜を紹介する。瑞菜はほたるの前ではおとなしくしているが、あとで康祐を誘惑する。
 アイディアが足りない。当て馬()の配置は面白い。
 評価:★★☆☆☆
 
・くまがい杏子『苺時間』連載第8回
 あらすじ:誘拐犯は実は彼氏役()で、主人公(市子)に教訓を与えるためのものだった。市子の母親がやってきて、蘭との同居がバレるが、母親は二人が恋人同士と思い込んで応援する。
 思い出の少年の件といい、蘭の敵対勢力の件といい、ずいぶんロングスパンでネタを引っ張る。打ち切りになった際の進行にかなり余裕があるのか、あるいは作者の度胸か。後者なら見上げた根性だ。
 評価:★★★☆☆
 
・藤中千聖『王様の裏シゴト・』連載第2回
 あらすじ:主人公(ミユウ)と彼氏役(夏樹)の気持ちがすれちがう。夏樹のアピール。
 14ページ目の逆ギレなど、切れ味が鋭い。
 評価:★★★★☆
 
千葉コズエ『ひとりぼっちはさみしくて』連載第13回
 あらすじ:ゲリラライブと彼氏役()のアピール。主人公(詞央)は恐怖を振り払う。
 詞央が消極的→直が積極的にさせる、の繰り返しは、できればあと1回(最終回)だけにしてほしい。
 評価:★★☆☆☆
 
・咲坂芽亜『カワイイだけじゃモノ足りない!』連載第7回
 あらすじ:彼氏役(雷斗)の前のモデル事務所の元マネージャー()が、どうしても雷斗のマネージャーをやりたいと言って、主人公(アリス)のモデル事務所に入る。榊は海外での長期の仕事を取ってくる。それはかねてから雷斗が希望していた仕事だったが、アリスは複雑な感情を抱く。
 主人公の配置の面白みがやっと出てきたか。
 評価:★★★☆☆
 
水瀬藍『センセイと私。』連載第16回
 あらすじ:当て馬(拓海)は実は主人公(遥香)を強姦していないと主張、遥香と和解。
 強姦を「なかったことに」の展開が面白い。強姦されたことを身体感覚で知ったことを示す描写があったが、そこは矛盾を見逃してほしいのか。あるいは「本当は強姦されてない」という拓海の発言が嘘で、遥香もそれを嘘と知りつつ「なかったことに」と合意したのか。どちらとも読めるが、その曖昧さを作者は意識しているのか。
 (もし遥香が自分にとって都合のいいように自分の記憶を歪曲しているのなら面白いが、少コミ読者には複雑すぎる話になるので、おそらくそれはない)
 とはいえ、「なかったことに」の前提(へらへらしながら強姦犯と和解)がどうしようもない代物なので、どうでもいい(もし遥香が記憶歪曲しているなら別)。
 評価:★☆☆☆☆
 
・白石ユキ『となりの恋がたき』連載第4回
 あらすじ:最近になってヒロが女関係を整理しはじめたことを知る主人公()。さらに主人公は、思い出の品を隠す等したのがヒロであることも突き止める。それを問い詰めると、ヒロは本心を見せる。
 切れ味がなく、重苦しい。
 評価:★★☆☆☆
 
・蜜樹みこ『恋、ひらり』連載第10回
 あらすじ:彼氏役(佳月)は公演のあとで婚約を発表するが、それと同時に、自分の心が主人公(純恋)にあることを公言する。婚約者は身を引き、佳月と純恋はもとの鞘に収まる。
 佳月の行動が、力づくで横車を押しているようにしか見えない。根性バカならこれでいいが、佳月は鮮やかに問題を解決するタイプに見える。
 評価:★☆☆☆☆
 
・杉しっぽ『ウソつきは、恋のはじまり。』読み切り
 あらすじ:主人公は一種の探偵で、依頼人が告白しようとしている男のことを調べる。しかし彼氏役は極度の嘘つきで、調査が難しい。そこで主人公が自ら接近して調べるうちに、彼氏役のことが好きになる。
 コメディのノリをしっかりと押し出せていない。
 評価:★★☆☆☆
 
・紫海早希『勘違い娘とブチギレ王子』読み切り
 あらすじ:主人公は彼氏役が自分のことを好きだと勘違いして、周囲に言いふらし、さらに彼氏役に告白するよう迫るが、勘違いだと断言される。主人公は言いふらした責任を取るために、校内放送で「勘違いでした」と宣言。そのあと主人公は彼氏役を好きになり告白。
 非の打ち所がない。あえていえば、強烈なアイディアに欠けることくらいか。
 評価:★★★★☆
 
最終回につづく

Posted by hajime at 00:26 | Comments (0)