こういうものは最初に言ったもん勝ちなので、未整理だが急いで書き留めておく。
アゴタ・クリストフ『悪童日記』と相田裕『GUNSLINGER GIRL』は同じ問題を抱えている。
『悪童日記』の主人公たちの純粋さと、『GUNSLINGER GIRL』の少女たちの純粋さは、その背景をみるならば対照的だ。前者は歴史の知識をみずから求めて手に入れるが、後者は自分自身の記憶さえ求めない。前者は不正確なもの(特に感情)を排した世界に執着し、後者はほとんどなにひとつ執着を持たずに己の感情を見つめる。しかしどちらも、社会の価値観を超越する純粋さという点で共通している。また、純粋さの主体として子供を配する点でも共通している。
第一の問題は、「社会の価値観を超越する純粋さ」を、社会の価値観にがんじがらめにされているはずの存在である作者が描く、という構造だ。たとえば、もしフランス革命直前の世界に生きる作者が「社会の価値観を超越する純粋さ」を描いたとしたら、ほぼ確実に、無神論者のアナーキストになるだろう。マルキ・ド・サドの描く悪人たちがいい例だ。彼らの「純粋さ」は時代の鏡像にすぎず、ちっとも「超越」していない。
もちろん、どんな作品も時代の刻印を受ける。初期の鉄腕アトムは真空管で動いていたが、だからといって作品の価値が損なわれることはない。マルキ・ド・サドの描く悪人たちも、そういうものだと思って読めばさほど問題ない。といっても、作者が描きたかったであろう悪の暗さは、まるで三頭身キャラのように小さくかわいらしくなってしまったが、それはすべての作品がたどる運命だ。
第一の問題だけなら三頭身キャラ化で済む(もちろんこれも作者としては避けたい事態ではある)。しかし、「純粋さの主体として子供を配する」ことによって第二の問題が生まれ、胡散臭さが臭うようになる。
マルキ・ド・サドの悪人たちは中年や老人だ。中年が純粋さの主体になる作品はすでに書かれており、2世紀にわたってそれなりの評価を得ているわけだ。しかし、もし『悪童日記』や『GUNSLINGER GIRL』が純粋さの主体として子供のかわりに中年を配したら、なにが起こるだろう。
第二の問題――子供を配するという手口が、「社会の価値観を超越する純粋さ」とは正反対の、社会の価値観(=子供は純粋)によりかかったものであること。作品の内部と、作品を成立させる仕掛けとのあいだで、一種のダブルスタンダードをやっている。これは「癒し」や「エモ」と同じ種類の胡散臭さだ。
……こんな問題に気づくから私は世界的ベストセラーが書けないんだよ!(←負け惜しみ)
この番組はインタビューをノーマルに伝えようと努力しているため、政治的に中立の考えを持つ皆さんでも安心して視聴できるはずだ
笑いが止まらない。
ちなみにこのライターは、かつて2chの捏造コピペを信じたという大爆笑な過去の恥を告白している。芸風は変わらないようだ。
ふろくが別冊。「新連載争奪」と銘打っている。ナオダツボコが本命、服部美紀が対抗か。
では2009年第10号のレビュー。
・池山田剛『好きです鈴木くん!!』連載第16回
あらすじ:主人公たちが他校の不良集団を相手に大立ち回り。
最終ページのアオリによれば、修学旅行の話がまだ続くらしい。学校側にバレずに切り抜けられる状況ではないので、まともに推理すれば、強制送還されるところを抜け出すという展開になる。修学旅行から抜け出す話は黄金パターンだ(僕キミにもあった)。
評価:★★☆☆☆
・水瀬藍『センセイと私。』連載第15回
あらすじ:彼氏役(篤哉)は当て馬(拓海)が主人公(遥香)を強姦したと知り、怒る。遥香は気持ちの整理のつかないまま、篤哉に抱いてと迫る。
ライバル(アキラ)の使い方には予想通りがっかりしたが、まだ動かせるので期待は捨てずにおく。
評価:★★☆☆☆
・咲坂芽亜『カワイイだけじゃモノ足りない!』連載第6回
あらすじ:主人公(アリス)は、彼氏役(雷斗)を前のモデル事務所に返すように恐喝されるが、断る。雷斗がアリスを助けにくる。
アイディアが足りないというより、なんのアイディアもない。
評価:★☆☆☆☆
・千葉コズエ『ひとりぼっちはさみしくて』連載第12回
あらすじ:彼氏役(直)の彼女と名乗る人物について直は、二股ではなくすでに別れたと釈明し、主人公(詞央)は納得する。しかし、これをきっかけに詞央は学校での人間関係に恐怖を抱くようになる。直は詞央を勇気づけるために、学校の屋上でゲリラライブを行い、詞央に歌わせる。
もし最終回に、直の自由な生き方の破綻(女関係?)と詞央による救済を持ってくるのなら立派な構成になるが、果たしてどうなるか。
評価:★★★☆☆
・藤中千聖『王様の裏シゴト・』新連載第1回
あらすじ:主人公(ミユウ)はある少女まんが(作中作)の大ファンで、その作品の彼氏役にぞっこん。彼氏役(夏樹)はミユウに言い寄りながら意地悪しており、ミユウは腹を立てていた。しかしあるときミユウは、夏樹が実はその少女まんがの作者だと知り、それをきっかけに夏樹を好きになり告白。
複雑な話なのに展開が速い。3回連載(おそらく)の第1回で、好きになり告白まで進んでいる。
評価:★★★☆☆
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第38回
あらすじ:主人公(つばき)は鈍感にもすべての問題をスルーする。転入生(ハル、ハルステッド)と彼氏役(京汰)の因縁は深い。ハルは、もし京汰に大切な人ができたら、その仲を壊しにいく、という誓いを立てている。
ハルと京汰の因縁を軸に話が進む模様。京汰の女性不信が絡んできそうなところ。
評価:★★★★☆
・蜜樹みこ『恋、ひらり』連載第9回
あらすじ:彼氏役(佳月)は主人公(純恋)との別れを受け入れるが、あくまで純恋のことが好き。佳月の婚約発表が噂される公演のチケットを、佳月は純恋に渡す。
完成度が高い。
評価:★★★★☆
・くまがい杏子『苺時間』連載第7回
あらすじ:彼氏役(蘭)は主人公(市子)に模試で好成績を取るように要求する。その要求には実は、蘭と敵対勢力との争いが絡んでいる。模試の結果が出た日の帰宅途中、市子は何者かに誘拐される。
話の軸が恋愛と関係ない。
模試で全国順位一桁が冗談ではないレベルだと、解けない問題を教えてもあまり意味がないような気がする。
評価:★★☆☆☆
・白石ユキ『となりの恋がたき』連載第3回
あらすじ:主人公(茜)の部屋にある思い出の品が、不審にも捨てられたり消えたりする事件が続発。茜はそれを一夜の仕業だと思い込むが、一夜は辛抱強く接する。
これも話の軸が恋愛とあまり関係ない。
評価:★★☆☆☆
・市川ショウ『小悪魔らいおん』読み切り
あらすじ:彼氏役は幼馴染でモデルとして活躍しているが、普段は主人公にべったり甘えている。主人公があるとき撮影現場を覗きに行ったら、失敗をやらかしていじめられるが、彼氏役に助けてもらう。
絵が面白いが、画面構成がいまひとつで頭に入りにくい。
評価:★★☆☆☆
・藍川さき『僕から君が消えない』連載第13回
あらすじ:主人公(ほたる)と彼氏役(康祐)がデート。そのあいだに新登場の女が康祐の家を訪れる。当て馬(駆)はその女に、「康祐にはもう新しい彼女がいるから会わないでやってくれ」と告げる。
『センセイと私。』といい『ひとりぼっちはさみしくて』といい、最近の少コミでは元カノを登場させるのが流行っているのだろうか。
評価:★★☆☆☆
・夜神里奈『1%のキセキ』読み切り
あらすじ:彼氏役は学校の先生。
ぎこちない。
評価:★★☆☆☆
第69回につづく
全人類に読ませたいので、とりあえずここに書く。R・デーケン『フロイト先生のウソ』(文春文庫)197-198ページより。
最初の調査は、一九八六年のスペースシャトル・チャレンジャー爆発事故の翌日におこなわれた。約一〇〇名の被験者に、事故のニュースをどんな状況で聞いたかを書面で答えてもらった。回答は、七項目の質問(「そのとき、どこにいましたか」、「誰といましたか」、「そのニュースを何で知りましたか」など)に答える形でおこなわれた。数年後、コンタクトが取れた被験者(約半数)に再度同じ質問リストに答えてもらった。最初の調査のときと答えが食い違う項目があった人には、暗示や誘導尋問や助言によって正しい記憶を呼び覚まそうとした。
その結果は、映画「トータル・リコール」(アーノルド・シュワルツェネッガー扮する主人公が、架空の冒険の記憶を植え付けられる)を彷彿とさせるものだった。まず、回答者の四分の三が、同じ質問に答えたことがあるのをすっかり忘れていた。七項目すべてが最初の調査での回答と食い違った人は四分の一に上った。一致した項目の数は、平均で二・九だった。つまり、事実上全員がまったく別の記憶を作り出していたのである。
こんな傑作な回答もあった。「カフェテリアで食事中に事故のニュースを聞いた」と最初に答えたある女性(「それを聞いて気分が悪くなった」とコメントしていた)は、二度目に質問されたときには次のように答えを修正していた。「そのときはちょうど部屋でぶらぶらしていた。そこへ女の子が廊下をばたばたと走ってきて、『スペースシャトルが爆発したわ!』と叫んだ」
これは事実ではないだろう、というのがナイサーとハーシュの見解である。この話は、ショッキングなニュースが伝えられるときの紋切り型のイメージに基づいているのかもしれない。回答した女性は、最初は自分が「スペースシャトルが爆発したわ!」と叫ぶところを空想していたのかもしれない。
刺激や暗示によって正しい記憶を呼び覚まそうとする試みは、すべて徒労に終わった。あとから塗り重ねられた記憶を取り払うことに成功した例は一つもなかった。最初の調査の回答を見せられると、被験者は全員、「そんなことを私が言ったとおっしゃるんですか」とあっけにとられたという。なかには、「それでも、私の記憶に間違いはありません」と言い張る人もいた。自分の記憶に対する被験者の自信度は、記憶の正しさとは何の関係もなかった。被験者全員が自分の記憶は正しいと言い張ったのである。記憶の内容が生き生きしているとか具体的であるとかいったことも、記憶の正しさとは無関係だった。間違った記憶の多くはきわめて具体的だった。
「自分の記憶に対する被験者の自信度は、記憶の正しさとは何の関係もなかった」「記憶の内容が生き生きしているとか具体的であるとかいったことも、記憶の正しさとは無関係だった」というところは特に重要だ。「何の関係もなかった」「無関係」である。生き生きした記憶は、それが正しいことの兆候ではなく、間違っていることの兆候でさえない。自分の記憶力に慎重であるからといって、その記憶の正しさが高まることもなく、逆もまた真ではない。
どうやら人間は、自分自身の記憶について何も知りえないらしい。
6日まで、東北の某温泉宿に滞在した。最寄のコンビニまで歩いて15分かかる程度の田舎である。そのコンビニには、少コミは置いていなかった。いったい今現在、どこのどんな人が少コミを読んでいるのだろう、という疑問がまたしても湧いてきた。
では2009年第9号のレビュー。
・くまがい杏子『苺時間』連載第6回
あらすじ:生徒会長(慎太郎)は彼氏役(蘭)の友人で、理事長としての仕事を助けており、蘭と主人公(市子)の同居の件を秘密にしておいてくれる。蘭が理事長職にあることに反対する勢力が暴力に訴え、市子が危険にさらされる。
少コミおなじみの安易な暴力によるサスペンス。
評価:★★☆☆☆
・池山田剛『好きです鈴木くん!!』連載第15回
あらすじ:主人公たちが京都に修学旅行に行く。ちひろが他校の不良集団の万引きをとがめたところ、不良集団に絡まれる。
殺陣の練習がケンカの実戦に役立つというのはあまりにも説得力に欠ける。
沖田総司の人物把握に首をかしげる。怒鳴り声で凄みをきかせる沖田を描いた新撰組ものなど、今まで見たことがない。新解釈として主張するような面白みのある人物把握でもないので、おそらく作者は新撰組もののTVドラマさえ見たこともなく、「暴れる男」という安易な固定観念を描いたのだろう。マイナーな題材ならともかく、新撰組ほどメジャーな題材でこんなデタラメなことをするとは、読者をコケにするにも程がある。
評価:★☆☆☆☆
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第37回
あらすじ:転入生(ハル、ハルステッド)はかつて彼氏役(京汰)に恋人を奪われたことがあり、京汰は最低だといって主人公(つばき)に別れることを勧める。つばきがそれを断るとハルは、京汰との約束を果たすためといって突然つばきにキスする。
ハルは京汰の母親がらみではないかと予想していたが、どうやら外れたらしい。とはいえ、3ページ目左下の友人のセリフもあるので、その線もまだ残っているか。
評価:★★★★☆
・藍川さき『僕から君が消えない』連載第12回
あらすじ:部活のイベント中に、彼氏役(康祐)が暴漢に襲われて軽症を負う。その場に主人公(ほたる)が駆けつけて告白。友人(ユカコ)は身を引くと宣言し、ほたるの一目ぼれの相手が当て馬(駆)ではなく康祐だったと明かす。
とりあえず、よくわからない展開が終わった。ここから先、単行本1冊分もなにをやるのだろう。
評価:★★☆☆☆
・白石ユキ『となりの恋がたき』連載第2回
あらすじ:主人公(茜)とヒロは幼馴染3人組としての関係を修復しようとするが、一夜は動じない。
絵も話も密度が低い。納得感は高い。
評価:★★★☆☆
・咲坂芽亜『カワイイだけじゃモノ足りない!』連載第5回
あらすじ:主人公(アリス)は彼氏役(雷斗)に励まされながら着ぐるみのアクターを務める。仕事の直後、雷斗が以前所属していたモデル事務所がアリスを誘拐する。
着ぐるみをあまり活用しないまま、誘拐という安易な手に走ったのは疑問。
評価:★★☆☆☆
・千葉コズエ『ひとりぼっちはさみしくて』連載第11回
あらすじ:夏休みが終わり、主人公(詞央)と彼氏役(直)は学校に行く。二人の前に、直の彼女と名乗る人物が現れる。
敗戦処理が終了して新展開。
二股をかける彼氏役は少コミでは珍しい。直の人物造形からして説得力があるので、予定の展開だろう。
評価:★★★☆☆
・水瀬藍『センセイと私。』連載第14回
あらすじ:彼氏役(篤哉)が記憶を回復。主人公(遥香)は当て馬(拓海)に強姦されたことを隠すが、拓海が篤哉に「吉野を抱きました」と告げ、さらにライバル宣言。
29ページ目、強姦されたのに「ごめんなさい」もクソもないだろう。
評価:★☆☆☆☆
・さくら芽依『桜いっぱいの想い』読み切り
あらすじ:主人公は4年ぶりに故郷に戻ってきて彼氏役と再会するが、彼氏役は不良として有名になっており、主人公によそよそしくする。それは主人公を危険な目にあわせまいとする彼氏役の配慮だった。
アイディアが足りない。
評価:★★☆☆☆
・蜜樹みこ『恋、ひらり』連載第8回
あらすじ:彼氏役(佳月)と主人公(純恋)の関係は佳月の父に強く反対されており、そのストレスで佳月は日舞の技量が衰える。それを見て純恋は責任を感じ、別れようとする。
佳月の父親は大っぴらに愛人を囲っており、しかも佳月自身はその愛人の子でありながら跡継ぎになっている。これはメロドラマ的にストレスフルな環境であり、純恋との関係を反対されたところで、たいしてストレスが増えるとも思えない。
評価:★★☆☆☆
・星森ゆきも『17cm先の片想い』読み切り
あらすじ:主人公は背が高く、彼氏役は背が低い。主人公はこれまでスペックで男を選んできた過去があり、そのため彼氏役にも誤解されているが、主人公は彼氏役のことが好き。
人物造形に魅力がない。
評価:★★☆☆☆
・心あゆみ『暴君とマリアなキミ』最終回
あらすじ:彼氏役(蒔)は実は主人公(郁海)のことが好き。郁海は校内暴力集団のお守り役をやめようとするが、蒔がひきとめて告白。
技術的には頑張っているが、校内暴力集団をプラスのイメージで描くという構想に根本的に無理がある。
評価:★★☆☆☆
第68回につづく