2007年07月24日

少コミを読む(第28回・2007年第16号)

 少コミがつまらない理由、完結編。
・最低原稿料が安い
 業界標準は言い訳にしかならない。問題は競合ではない。いま現に少コミがつまらないことが問題だ。もし少コミ本誌の最低原稿料を3倍に引き上げれば、2年後には見違えるような誌面になるだろう。
 世のまんが家志望者のレベルと、少コミ新人のレベルのあいだのギャップ(あまりにも後者が低い)からいって、これはほぼ確実に割に合う。
 
 では第16号のレビューにいこう。

 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第23回
 あらすじ:彼氏役()のアピールタイム。司が敵役と試合で再会し、「主人公()が女だとバラされたくなければ試合に負けろ」と脅される。
 志について。
 9ページ目の犬の絵を見た瞬間、「この作者はもうだめだ」と思った。志が感じられない。「自分ルールではOK」をどこまでも貫くつもりだ、と思った。
 画力と人気はあまり関係ない。だが、絵柄の変化速度と人気には、なんらかの相関関係がある。たとえば青木琴美が僕妹初期から現在までのあいだに、どれだけ変化したか。
 絵柄を変えるうえで効果的なのは、自分の絵に多くを求める姿勢、つまり志だ。作者にはそれがないように思える。
 採点:★☆☆☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第7回
 あらすじ:パリ留学生活を開始。彼氏役(蓮二)の幼馴染みが現れ、主人公()にライバル宣言。
 フランス人を描くのに苦労している様子が、気の毒ながら笑ってしまう。フランスに旅行したことのある読者も多いだろうに、金髪ばかりというのは本当にどうか。
 前回に引き続き、画面が荒い。たとえば背景がつらい。話のほうも踊り場的で弱い。
 採点:★★☆☆☆
 
・しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』連載第3回
 あらすじ:主人公(京華)が彼氏役(大輔)のバイト先(女性モデル撮影現場)を覗きにゆく。大輔の魅力を感じて接近。
 今回も手馴れていて、今回も飽きた感じがする。
後知恵は別として、やめるべき時はどうすればわかるのか?
ずっと凡庸な状態にいることに心の中で気付いたなら、それはやめる時だ。測定していることに改善が見られず、もっといい尺度を見つけることもできないなら、それはやめる時だ。

 現在、作者の人気は改善しつつあるのだろうか。傍目にはそうは見えない。
 採点:★★☆☆☆
 
・藍川さき『シークレット・キス』新連載第1回
 あらすじ:彼氏役は予備校教師。彼氏役から口説かれるが、なかなか本気と信じることができない。
 旋回軸が弱い。「本気で口説かれていると信じるかどうか」が旋回軸のはずなのに、そこに絡んでくる描写が少ない。オチも旋回軸に絡んでいない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・水瀬藍『あなたへのクレッシェンド』連載第2回
 あらすじ:思い出の王子様と思った男(総馬)は人違いで、本物は相葉だった。
 ここから先の総馬の使い方が見えない。捌きようがなさそうに見える。こういう展開ではありがちな失敗だが、ありがちだから許されると思ったら大間違いで、むしろ妙な失敗のほうがマシだ。
 採点:★★☆☆☆
 
・あゆみ凛『ほしいのは、あなただけ』連載第2回
 あらすじ:彼氏役への恋心を自覚する主人公。主人公はラブストーリーをうまく演じられず、降板の話まで出たので、役作りのために抱いて欲しいと彼氏役に頼む。
 作品の出来とはあまり関係ないが疑問な点がある。主人公は男性恐怖症のため痴漢が怖くて、フェミニンで露出の多い衣装では電車に乗れない、というのだが、客観的には、そんなことは痴漢遭遇率とは関係なさそうな気がする。これが主人公の心理的な問題、つまり、痴漢遭遇をとにかく衣装のせいにする心理(スケベオヤジ心理)なのかどうかが読み取れなくて、居心地が悪い。
 話がぎこちない。たとえば、前半と後半のつながりが悪い。論理的にはつながっているが、流れが悪い。
 画面はかなり頑張っていて、読む気にさせる。
 採点:★★★☆☆
 
・蜜樹みこ『恋色旋律☆ダブル王子』新連載第1回
 あらすじ:主人公は音楽学校の生徒。家計事情の急変で学校を辞めざるをえなくなるが、憧れの若手ピアニスト兄弟と出会い、彼らの家で暮らすことになる。
 少コミでは、彼氏役が誰なのかを最初からはっきり示すことが多いが、この作品は珍しく、兄弟のどちらが彼氏役なのかはっきりしない。普通に読めば海里だが。
 流れがいい。以前の3回連載(『とろけるようなキスを奏でて』)も第1回はよかったので、この作者は第1回がうまいらしい。しかしその3回連載の最終回が破綻したのを見たせいで心証が悪く、安心して楽しめない。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第46回
 あらすじ:修学旅行先(京都)で夜、宿から抜け出す。そのまま二人で夫婦のふりをして旅館に泊まる。
 どうもドリーム展開の扱いにバランス感覚を欠いている気がする。前回の潔い男たちの描写と、今回のドリーム展開、どちらも単体で示されれば問題ないのに、同じ作品でやられると妙な感じがする。
 採点:★★★☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第25回
 あらすじ:婚約の許しを求める彼氏役()が、主人公(彩華)の父親の信用を得るために、彩華の父親の店(各種の風俗営業店)で働く。それは首尾よくいったが、芯の友人のひとりが理事長と内通していることが明らかになる。
 今回ややアイディアを欠いた。とはいえ画面は充実しているし、次回がいま一番楽しみな作品であることは変わりがない。
 採点:★★★☆☆
 
・古賀よしき『なんちゃって劇場』読み切り
 あらすじ:つきあいはじめたばかりの主人公と彼氏役。主人公の好きなタイプが「王子様」と誤解した彼氏役は、演劇部の仲間の協力のもと、学校で王子様ごっこを始める。その王子様ごっこを「頭を打ったせいでおかしくなった」と誤解した主人公は、「もう一度頭を打てば直る」と信じて、そうしようとする。
 話が素晴らしい。ネタが面白いだけでなく、旋回軸(つきあいはじめの誤解と理解)がしっかり機能している。
 絵も美しいが、コマ割りには工夫の余地が多い。
 採点:★★★★★
 
・藤原なお『監獄のマリア』読み切り
 あらすじ:よくわからない。
 部分的なものは理解できる。たとえば、彼氏役はかつて事故で恋人を死なせたことに囚われており、手錠を身につけることでそれを表している。主人公もまた、自分の狭い世間に圧迫されている。
 こうやって羅列すると、つながりそうな気がするだろう。が、実際の作品のうえでつなげるには、かなりの作業が必要になる。作者はその作業を怠っている。
 採点:★★☆☆☆
 
・麻見雅『燃え萌えダーリン』最終回
 あらすじ:主人公への恋心に耐えられず、消滅を願う彼氏役。その消滅の儀式で奇跡が起こり、主人公の記憶が戻ったうえ、強い魔力を発揮する。それを見た主人公の父親は、二人の仲を認める。
 一応話にはなっているが、猛烈にスカスカな印象を受ける。
 採点:★☆☆☆☆
 
次回につづく

Posted by hajime at 23:22 | Comments (0)

2007年07月22日

右クリック

 私は今、生まれて初めて、MacはWindowsを打ち負かすかもしれない、と思いはじめている。
 
http://forums.microsoft.com/MSDN/ShowPost.aspx?PostID=1529091&SiteID=1
If we add "right mouse events" in some future version it would probably be in the form of a "Context Menu" event only. Something that would fire however a context menu is opened.
 
http://forums.microsoft.com/MSDN/ShowPost.aspx?PostID=1096108&SiteID=1
Right now we do not have plans to expose right mouse button events.
 
http://silverlight.net/forums/t/431.aspx
I don't think there's going to be a "onRightMouseDown, 'move, 'enter, 'leave and 'up" set of events.
 
 Silverlight開発者のあいだで、これほど当惑の声が上がっているにもかかわらず、SilverlightのプログラムマネージャMark Rideoutは、頑として方針を変えようとしない。Silverlightは右クリックに対応しない――Flashと同程度にしか――という方針を変えようとしない。
 Mark Rideoutはあれこれ説明しているが、実際の理由は2つしかありえない。
1. Flashがそうしているから。
2. Macが1ボタンだから。
 AdobeとAppleに盲従するこの卑屈さは、市場の支配者にはふさわしくない。いや、支配者どころか、商売にふさわしくない。なぜ自分の強みを生かそうとしないのか? Windowsのマウスの右ボタンはいつから盲腸に変わってしまったのか?
 Steve Jobsは絶対にこんな過ちを犯さないだろう。マウスのボタンが1個しかないこと(明らかに欠点)を、逆に強みにしてしまうべきだとJobsは知っている。また、そのために何をすべきかを知っている。Mark Rideoutはその逆だ。マウスのボタンが2個あること(明らかに長所)を弱みだと思い込み、不適切な前例を用いてその思い込みを補強している。
 Microsoftはその精神において壊れつつあるのかもしれないと、私は今、思い始めている。

Posted by hajime at 05:05 | Comments (0)

2007年07月19日

今日の地獄めぐり

 Apache Lucene 2.2のorg.apache.lucene.search.Sortについて。
 SortのコンストラクタでfieldNameを指定してnewすると、フィールドの値から型を推定して(SortField.AUTO)ソートする。このときどうやら、フィールドの値が数字だけで構成されていると、型をintと推定するらしい。そして桁数が多すぎてintに入りきらない場合は、ソートが働かなくなる。なんのエラーも出さずに、だ。
 java.util.Dateをフィールドに格納する場合は、org.apache.lucene.document.DateToolsで文字列に変換して入れろとされている。このDateToolsは"200707191045"という具合に変換する。200707191045はintの最大値よりも大きいので、まさに上のケースに該当する。
 というわけで今日は地獄めぐりをさせられた。

Posted by hajime at 23:52 | Comments (0)

2007年07月16日

Nullless Programming

 JSFの入力コンポーネント(h:inputTextなど)のrequired属性は明らかに設計ミスだ。これのせいで、エラーメッセージのカスタマイズの自由度が理不尽に下がっている。
 required="true"だと、入力欄を空でポストバックしたとき、「{0}: Validation Error: Value is required.」というエラーメッセージになる。{0}はプレースホルダで、デバッグ用の情報が表示される。このメッセージ自体は置き換えられるが、さて、たとえば「キーワードを入力してください」や「***必須項目***」のように、場所によってエラーメッセージを使い分けたいときは、どうするか。どうしようもない。そういうことはできない設計である。
 required="false"の場合は、コンバータもバリデータも呼び出されない。つまり通常のやりかたで通常のエラーメッセージを出すことはできない。非常手段、PhaseListenerのほかに手段がない。
 もし、required属性を使わない、すべてをバリデータで済ませる設計をしていたら、メッセージパターンごとにそれぞれカスタムバリデータを作ることで対応できたはずだ。
 
 どうしてこんな設計ミスが生じたのか。私見では、その根源はnullにある。nullは呪いだ。現在、ほぼすべてのプログラマは、nullの呪いにかかっている。
 空の入力欄は、長さゼロの文字列か、それとも何か特別なもの――null――だろうか。もし後者に思えるとしたら、それはnullの呪いにかかっている。
 金槌を持つとすべてが釘に見えるように、nullを持つと境界値がnullに見える。そして境界値の扱いを誤り、required属性の設計ミスに至る。
 intとポインタをキャストする世界(古き悪しきC言語)では、NULLの害などちっぽけだったかもしれない。しかしそろそろnullは許されなくなってきた。Nullless Programming時代の到来を望む。

Posted by hajime at 01:04 | Comments (0)

2007年07月12日

2007年07月10日

少コミを読む(第27回・2007年第15号)

 眠いので前回の続きはまた後日。さっさと第15号のレビューにいく。

 
・水波風南『乃亜な理由』読み切り
 あらすじ:『狂想ヘヴン』番外編。男遊びが盛んな乃亜が、夏壱の純情パワーを浴びる。
 乃亜が主人公の番外編ということで、蒼似との過去を期待したが、「とりあえずカップルを作ってオチをつける」という少女まんがの悪しき伝統そのままに、夏壱との後日談だった。
 作者は乃亜がお気に入りだったのかもしれない、と感じた。しかし作者に愛された登場人物は往々にして、スケールが小さい。スケールを大きく見せるには、影の部分――痛ましさや愚かしさや傍迷惑――もそれだけ深くせねばならず、作者の愛はその深さを阻んでしまう。乃亜のような人物造形ではこれは致命的なマイナスになる。
 採点:★★☆☆☆
 
・しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』連載第2回
 あらすじ:彼氏役(大輔)があの手この手で主人公(京華)にアピール。
 いろいろなバランスがよく安心感がある。しかし手が縮んでいるようにも見える。安定した静的なバランスではなく、動くことによって辻褄をあわせる、不安定で動的なバランスが欲しい。
 たとえば彼氏役はここからどう成長するのか。最初の時点からできすぎていて、成長の方向性を感じない。かといって人格破綻者を出せばいいわけではなく、動的なバランスをとる必要がある。
 採点:★★☆☆☆
 
・水瀬藍『あなたへのクレッシェンド』新連載第1回
 あらすじ:幼い日の王子さまを今も探す主人公。彼氏役を横目に見ながら、当て馬が王子さまではないかと考える。
 特にまずいところはないが、やや単調で間延びしている。彼氏役も当て馬もアピール不足だ。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第22回
 あらすじ:当て馬(カズマ)のアピールタイム。
 前回「次号、衝撃の急展開」と煽っていたのに、一回休みのような回だった。
 採点:★☆☆☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第6回
 あらすじ:彼氏役(蓮二)の店が開店。その覚悟と人気で敵役(鉄汰)をとりあえず黙らせる。
 相変わらず演出の迫力で押している。ただ今回は絵が雑で、演出が空回りしている感がある。
 採点:★★☆☆☆
 
・あゆみ凛『ほしいのは、あなただけ』新連載第1回
 あらすじ:主人公は若手女優。男性恐怖症なのに恋愛ドラマの主役を引き受けてしまい窮地に陥るが、マネージャ(彼氏役)が影で努力しているのに触れて、男性恐怖症を克服する。
 主人公が芸能界を目指す少女まんがはよくあるが、話の最初から主人公が女優として活躍中、というのは珍しい。
 芸能界ものが辛いのは、登場人物を基本的にプロフェッショナルとして描かなければならないところだ。日本のフィクションは伝統的に、プロフェッショナルを描くことをしないので(日本のTVドラマに『ER緊急救命室』のような作品を探してみるといい)、ごまかしがきかない。この作品も例に漏れず、彼氏役の行動にプロフェッショナルな行動原理を感じない。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第45回
 あらすじ:が暴力沙汰で退学になる。去り際に頼は、との会話のなかで、自分の結婚願望を口にする。逞は幼い日の約束を思い出す。
 潔く生きる男たち、といったところか。美しい。ただし、僕妹の頼のことを忘れて読めば、だが。
 採点:★★★☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第24回
 あらすじ:恋愛禁止の校則違反の証拠をつかまれた主人公(彩華)と彼氏役()。証拠湮滅のため生徒会室に潜入するが、生徒会長はそれを察知して待ち受けていた。一悶着のあと生徒会長は主人公たちに共感し、恋愛禁止の校則の例外を教える。
 大作戦が順調に展開している。
 採点:★★★★☆
 
・麻見雅『燃え萌えダーリン』連載第5回、次回最終回
 あらすじ:当て馬は主人公と彼氏役を罠にかけ、主人公から彼氏役の記憶を奪う。当て馬の主張(式神との恋はよい結果をもたらさない)に理があることを認めた彼氏役は、なにもなかったことにして主人公と対面しようとするが耐えられず、自分を式神にしている魔法を解いてくれと頼む。
 驚いたことに、これまでのところ、まったく問題なく話が理解できている。
 採点:★☆☆☆☆
 
・真村ミオ『ビターBOYカフェ』読み切り
 あらすじ:カフェでバイトを始めた主人公。バイトを始めるきっかけになった男(彼氏役)は、実は昔の同級生だった。
 なにをどう楽しめばいいのか、さっぱりわからない。
 採点:☆☆☆☆☆
 
・車谷晴子『極上男子と暮らしてます。』最終回
 あらすじ:結婚式ごっことイタリア移住取りやめで終わり。
 そつなく締めくくった。
 採点:★★☆☆☆
 
・市川ショウ『おうちへ帰ろう。』最終回
 あらすじ:彼氏役との距離を縮める努力を続ける主人公。子供たちの起こしたトラブルがきっかけでお互いに告白。
 この作品のどこがまずいのか、前回はまだわからなかったが、今回になってわかった。主人公の家庭的なところが、どうにも上っ面で、言い訳じみている。家庭的なものの権力性を見落としている。
 たとえば、主人公は男の子の面倒をみているのだから、彼氏役のなかに幼稚園児と共通する「男の子」を見出してもよさそうだ。こういう認識の枠組みには、なにか微妙な暗い問題がある。その暗さが、家庭的なものを上っ面でない深みのあるものにする。この作品にはそれがない。
 採点:★☆☆☆☆
 
第28回につづく

Posted by hajime at 02:10 | Comments (0)

2007年07月01日

笙野頼子『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』(河出書房新社)

 笙野頼子『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』(河出書房新社)を読んだ。
 内容紹介は面倒なので省略。各自読むなり調べるなりされたい。
 感想――知感野労こと「普通の男」は、まるで光源氏だ。作者もこれに気づいていたのか、25ページで「紫ノ上萌エー」とおちょくっている。
 光源氏は、幼児的全能感と嫌味が服を着て歩いているような男(つまり「普通の男」)で、自分よりランクの劣る女にしか手を出さない。たとえば紫の上は源氏物語中で最高の女とされているが、光源氏は紫の上がまだ幼いときに、つまり美貌や知性といったランク要素がまだ発達していないときに、手を出している。なぜランクづけするのかといえばもちろん、相手を見下して安全を得るためである。見下せない女が相手では、自分の幼児的全能感が傷ついてしまうかもしれないからだ。そんな奴が天下の色男というのだから紫式部の悪意が炸裂である。脳の半分が嫌味、残り半分が悪意でできているような連中(平安貴族)は大喜びしたことだろう。あるいは紫式部も「にっほん」の住人だったのか。
 さて紫式部の嫌味と悪意にくらべて笙野はどうかというと、どうも圧倒的に負けている気がする。知感野労は単なる悪役で、主人公はその支配に抵抗する正義の人という構図では、嫌味も悪意も出てこない。山墓二円(現代版光源氏)のろくでもない物語のほうが面白そうだ、と思ってしまったのは私だけだろうか。

Posted by hajime at 02:50 | Comments (0)