2007年01月25日

護身:XQuery

 真の護身が完成すると、危険に気づくまでもなく、危険に近づくことができなくなる、という(『グラップラー刃牙』)。
 プログラマも護身する。
 護身ができているプログラマは、危険なツールや規格やフレームワークを、その存在に気づくまでもなく回避する。
 過去の例を挙げよう。RDBMSにMySQLを採用して、4.1の文字化け問題を踏んでしまったプログラマは、護身ができていなかった。護身ができていれば当然PostgreSQLを使っていただろう。
 また、現在の例を挙げれば、PHPを使うプログラマは護身ができていない。護身ができていれば当然PythonかRubyを使うだろう。
 これらの護身は、なにも超能力ではなく、事実にもとづく総合的な判断だ。
 たとえば、日本人の開発者はMySQLには少なく(おそらく存在しなかった)、PostgreSQLには多い。となるとMySQLがいずれ日本語関係で問題を起こすかもしれないと予想できる。また、MySQLのパフォーマンス特性も、素人向けマーケティングの臭みが鼻について食えたものではなかった。「トランザクションなしで参照だけ速い」というパフォーマンス特性がなにを意味するか、わからない人は素人だ。
 こうした判断を正確に下すには、時間的・分野的に広範な知識が要る。そして、その判断の中身を詳しく説明するのは、ほとんど不可能だ。
 MySQLのように、普及したあとで明白にコケて災厄を引き起こした場合は、その理由を説明できる。しかし、このような華々しい災厄は例外に属するし、その説明も遡及的なものになる。たいていはXLinkやRELAX NGのように、単に普及せず、なにも起こらない。この場合は説明が難しい。
 
 さて本題である。
 XQuery 1.0が勧告になった。2001年のワーキングドラフトから5年1ヶ月、やっと勧告にたどりついた。
 というわけで読者諸氏にご忠告する。XQuery 1.0には近づかないほうがいい。
 上記のとおり理由を説明するのは難しいが、ひとつだけ挙げるなら、XQuery 1.0はいろいろな点でXLink 1.0に似ている。XMLの専門家からは長らく期待されながら、なかなか勧告にたどりつけなかった点。勧告にたどりついた時にも、利益を産むソフトウェアに使われている気配がない点。
 
 2012年にこのエントリをご覧の読者諸氏は、いかがお思いだろうか。

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不可能性は萌えより広い

 いわゆる「萌え不可能性論」について。
 エロゲー等によくあるパターンに、「姉と妹に同時に手を出す」というものがある。いわゆる姉妹どんぶりだ。親族関係は姉妹間にだけあればよく、主人公は他人でいい。ここでは他人として話を進める。
 このパターンを百合的に読み替えれば、「姉妹間の性愛が禁じられているので、主人公を媒介に使っている」となる。姉と妹がお互いに主人公を奪い合う、あるいは共有することを通じて、禁じられた感情が形を変えて表出している、と解釈するわけだ。もちろん姉と妹はどちらも、自分自身の禁じられた感情を自覚しないまま、その感情に振り回されている。
 この百合的な読み替えに従えば、物語の最後には、禁じられた感情がなんらかの形で表面化することになる。たとえば、「禁じられた感情を自覚して性愛にたどりつく」というオチだ。短絡的だがインパクトはある。
 しかし私の趣味としては、もう少し上品にいきたい。「願望は実現すればOK」というのでは、エロゲーの存在意義そのものが否定されてしまう。というわけで私は昔、以下のようなオチを考えた。
 主人公を奪い合った結果、姉と妹の関係は決定的に破綻する。片方が死亡するなどの、もう二度と会えないくらいの破綻である。主人公を得た姉(または妹)は、妹(または姉)を完全に失ったあとで、自分自身の禁じられた感情を自覚する。というのも、その願望はもはや実現できないので、自覚しても安全だからだ。姉は妹を犯すことを妄想するようになり、主人公にその妄想を話して聞かせるようになる。
 このオチでは、禁じられた感情の禁止のメカニズムが、内的な抑制から外的な不可能へと変化する。また主人公による媒介のメカニズムも変化する。それでいて、「姉妹間の性愛が禁じられているので、主人公を媒介に使っている」という構図は保存される。
 実現できないので安全――これは萌え不可能性論と重なり合っている。だが、上記のオチには、「萌え」ではすまない何かがある。不可能性は萌えより広いのだ。
 
 「願望は実現すればOK」を否定したついでに、もうひとつ。「あえて実現しない」ことにも、生活の知恵以上のものがある。
 たとえば上記のパターンとオチで、もし妹が最初から自分自身の感情を自覚していたとしたら、どうか。姉への性欲を自覚したうえで、主人公を媒介に使い、最後には姉と決別したのだとしたら。この筋書きは、妹が単純に姉を口説くなり犯すなりするよりも、面白い。
 願望を、その目指す対象だけで認識するのは、視野狭窄だ。願望は、世界を秩序づける法則のひとつとして認識しよう。その法則はきっと世界を面白くするのに役立つ。
 役立てる方法がわからない? ではまずその方法を考えよう。きっと面白い問題のはずだ。

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2007年01月18日

人がみな誰かに似て見えるときには

 ずっと昔、こんな文章を読んだ。「歳をとると、誰もが誰かに似て見えるようになる」。そのときは、理屈ではわかったが、なんの実感もなかった。
 後年、クンデラ『不滅』を読んだとき、同じような描写に出くわした。今度は実感がわき――そして前述の文章を思い出したというのは、なんの皮肉だろう。人間にそっくりさんがいるのだから、文章はなおさらだ。
 だが私はいま、もう一歩先のことに気づいた。

 
 観察に頼るほど、人間は類型的に見える。
 考察を重ねるほど、人間はそれぞれ違って見える。
 観察の絶対量に比例して類型性を強く感じるようになる、のではない。観察に比して考察が足りないとき、類型性を強く感じるようになるのだ。
 観察によって新たに得られた経験はまず、既存の枠組みに照らし合わせて理解される。このとき、もし深く理解したなら、既存の枠組みはなんらかの発展を迫られるはずだ。だが、深く理解する労力(考察)を惜しむと、既存の枠組みに押し込めただけで終わる。こうなると人間が類型的に見えてくる。
 
 これだけなら、「もっと考察しよう」で済む話だ。
 しかし、ある種の経験には、なにかしら考察を抑制するような作用がある。「考察が足りない」と頭ではわかっているのに、既存の枠組みへと、類型性へと引きずられる、そういう経験がある。
 このエントリは、引きずられつつある私が、引きずる力に抵抗しようとしている真っ最中に、書かれている。
 
 引きずる力の中身は、ごく簡単に言い表せる。
 物事を楽しめていないときに、その楽しめない状態から短絡的に逃れようとしているとき、人は引きずられる。
 物事を楽しめないのは、そこから逃れる方法がよくわからないからだ。「ピンチから巧みに逃れる主人公」として自分自身を思い描けるなら、それだけでもう楽しい。
 逃れる方法がよくわからないのは、たいていの場合、既存の枠組みがヘナチョコだからだ。なにをなすべきかを示せないような枠組みは、論理的にはどんなに完璧でも、ヘナチョコだ。
 ではヘナチョコな枠組みを叩き直そう――というところまでゆきつければ、なにをなすべきかは明瞭だ。しかし、そこまでゆきつく気持ちの余裕がないとき、人は短絡的になる。
 
 つまり、気持ちの余裕がないとき、誰もが誰かに似て見えるようになる。
 
 ここから脱出するには、どうすればいいか。
1. 「この世には、しなければならないことなど何もないのだよ、関口君」と唱える。
2. 忘却力を発動して、あらゆる義務を忘却する。
3. 自分が楽しくなるようにすることだけを考える。つまり、遊ぶ。
 
 今もう一度、かすかな記憶を呼び起こしてみる。「歳をとると、誰もが誰かに似て見えるようになる」という文章と、クンデラ『不滅』の例のくだりを。
 確かに、同じことを書いている。でも、その筆づかいは、ずいぶん違うではないか。
 筆づかいを思い出す余裕がなかった自分自身を恥じ――はしないが、思い出すことのできた今の自分のほうが、ずっといい。

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2007年01月09日

政治家にマジレス

 政治家の妄言にいちいちマジレスするほど暇な人は、世界中のどこにもいない。麻生太郎外相が北方領土の面積分割をつぶやいたときには、世界中の誰もが見事にスルーした。日米安保体制が続くかぎり、北方領土問題の解決は有害無益だ。
 ホワイトカラー・エグゼンプションとやらも正気を疑う妄言だが、ずいぶんしつこく続いているのでマジレスしてみる。

 
 なんの予備知識もない新人が現場に放り込まれたその瞬間から、生産性のある仕事ができる業務など、この世にそうそうあるものではない。よほどの単純作業でも、少なくとも1時間は、作業の説明と慣熟が要る。これを仮に教育費用と呼ぶことにしよう。
 教育費用は労働者の頭数だけかかる。もし時給が一定なら、多数の労働者を短時間働かせるより、少数の労働者を長時間働かせるほうが、同じ作業量を安あがりにこなせる。
 ブルーカラーよりもホワイトカラーのほうが教育費用は大きい。また、コミュニケーションのコストを減らせるという点でも、少数の労働者を長時間働かせるほうが安くあがる。
 少数の労働者を長時間働かせるほうが安くあがる――この法則を裏付けるのが、ベンチャー企業の労働状況だ。
 人手が余っていて残業ゼロでしかも儲かっているベンチャー企業など、めったにない。ほとんどのベンチャー企業が人手不足で長時間労働なのは、そうでなければ生き残れないからだ。もし残業ゼロで高い生産性をあげられるのが普通なら、残業ゼロを掲げて実践するベンチャー企業が、それこそ掃いて捨てるほどあるはずだ。
 というわけで、ホワイトカラー・エグゼンプションとやらがもたらすのは、長時間労働に苦しむ労働者の増加、失業者の増加、そして景気の減速である。妄言というほかない。

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2007年01月06日

少コミを読む(第16回・2007年第3・4号(合併号))

 今年最初の日記が少コミである。来年はなんとか避けたい。
 では第3・4号(合併号)のレビューにいこう。

 
・車谷晴子『極上男子と暮らしてます。』新連載第1回
 あらすじ:主人公は少女まんが好きの妄想族。ある日、自宅が美形限定の下宿に。
 増刊での扱いや、短期連載をどんどん載せていることから察するに、作者はかなり編集部にプッシュされているらしい。が、私のみるところ、そんなプッシュに値するような才能とは思えない。
 理由は2つある。
1. 彼氏役の魅力が形式的。
2. 話がすっきりと落ちない。
 特に1は致命的だ。この作者の作品で、彼氏役の魅力を、納得のゆくように説得されたことが一度もない。
 天野まろんや新條まゆの描く俺様男は、形式に則ってはいるが、なにかしら生き生きしたものを感じさせる。この俺様男に心の底から魅力を感じる人間が、この世に確かに存在するのだと思える。しかし車谷晴子の描く俺様男は、そうではない。
 なにが違うのか。
 原因か結果かはわからないが、少なくとも関係がありそうなのは――人物の振る舞いに必然性が薄い。
 必然性の有無ではなく、厚さの問題だ。Aという結果をもたらす原因がB、C、Dであったとすると、このB、C、Dのあいだに関連性がない。関連性のない寄せ集めから生じたAは、偶発的で無意味なものと思える。
 この薄さは2にも関係している。関連性と因果関係の厚みを作り出せなければ、話がすっきりと落ちることもない。
 そして、関連性と因果関係の厚みを作り出す能力は、生得的な部分が大きいように思える。名刺の裏に書ける程度のプロットを作るには、普通の人であればいい。しかし、31ページの原稿に関連性と因果関係を張り巡らせることは、普通の人にはできない。なにか特殊な才能が必要だ。作者にはそれがない。
 採点:☆☆☆☆☆
 
・水波風南『狂想ヘヴン』連載第7回
 あらすじ:乃亜が当て馬(夏壱)を操って、主人公(水結)を押し倒させる。
 乃亜と彼氏役(蒼以)の対決はまだ当分先らしい。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第11回
 あらすじ:主人公()と彼氏役()がいちゃついているところに踏み込んでしまった振られ役(カズマ)が、翠をかっさらって告白。
 話をサッカーに引き戻しにかかったが、サッカーが絵に描けていない現状では、成り立たない構想だ。
 採点:★★☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第34回
 あらすじ:の誕生日に昂とデートする。その最中に交通事故(おそらく死傷事故)が起こる。
 あっさり繭が死んで、と昂とが野郎ばかり三人でうじうじと繭とのことを回想する、という展開を妄想してみた。
 実際の展開はおそらく、繭が車椅子にでもなって、昂が繭の面倒をみる義務を主張し、逞の恋に新たな障害発生、といったところか。
 採点:★★★☆☆
 
・伊吹楓『感じるすぺしゃるオーダー』連載第2回
 あらすじ:喫茶店のパトロネスが、主人公の恋にケチをつける。喫茶店のオーナーが主人公に迫る。
 話の前半と後半がどう関係しているのか、わからない。
 採点:★☆☆☆☆
 
・咲坂芽亜『姫系・ドール』新連載第1回
 あらすじ:憧れの高校生デザイナー(蓮二)と同じ学校に入学した主人公。蓮二に気に入られたくて、必死に服飾を学ぶ。
 話はシンプルで、人物は魅力がある。
 採点:★★★☆☆
 
くまがい杏子『はつめいプリンセス』連載第11回
 あらすじ:主人公(しずか)が発明品でミニサイズに変身して、彼氏役(はじめ)の日常生活に潜入しようと試みる。
 ひところに比べてネームが格段にわかりやすくなっている。
 採点:★★★★☆
 
・藤中千聖『恋MAJINAI』読み切り
 あらすじ:主人公と彼氏役は犬猿の仲だが、実は主人公は彼氏役のことが好き。あるとき催眠術の実演で、恋人同士になる術をかけられ、かりそめの両思いになる。が、実は彼氏役も主人公のことが好きだった。
 あらすじを見てもわかるとおり、かなり複雑な話だ。ネームがわかりにくいが、無理もない。
 採点:★★☆☆☆
 
織田綺『LOVEY DOVEY』連載第13回
 あらすじ:彼氏役()の友達()は、他人の女を奪うのが趣味。その純に、主人公と芯の関係を知られる。
 いちゃいちゃ続きでダレていたところに、波乱の展開をもってきた。
 採点:★★★☆☆
 
・紫海早希『君のそばに忘れもの』読み切り
 あらすじ:幼い頃、彼氏役を別の女に取られてから、会話を交わすこともなくなった主人公。取られる前に作ったタイムカプセルをきっかけにして結ばれる。
 作者の工夫と努力がいろいろ感じ取れて、嫌いになれない。が、なにかしら筋の悪い話のような気がする。
 採点:★★★☆☆
 
新條まゆ『愛を歌うより俺に溺れろ!』連載第22回
 あらすじ:秋羅が男とデート。
 前回に引き続き、連載回数が「22th」だった。
 採点:★★☆☆☆
 
しがの夷織『めちゃモテ・ハニィ』連載第14回
 あらすじ:主人公に迫った男を排除して、あとは適当にいちゃいちゃ。
 前回のネタ振りをすべて乱暴にスルーしてきた。この連載、もう終わっていいような気がする。
 採点:★☆☆☆☆
 
第17回に続く

Posted by hajime at 01:49 | Comments (3)

2007年01月04日

新年のご挨拶

 グレゴリオ暦で生活なさっている皆様、あけましておめでとうございます。本年も香織派をよろしくお引き立てください。

Posted by hajime at 00:05 | Comments (0)