2007年11月29日

トランザクションという謎

 Peter Van-Roy、Seif Haridi『コンピュータプログラミングの概念・技法・モデル』(翔泳社)を読んでいる。
 まだ途中だが、618ページに驚嘆したのでご紹介する。

 ちょっと寄り道して,トランザクションを計算モデルの視点から調べてみよう.トランザクションを使う解は,計算モデルに概念を追加して問題を解決する,という判断基準を満たしている.すなわち,拡張したモデルにおけるプログラムは簡単になる.しかし,追加すべき概念は正確には何か? これは依然として研究課題である.思うに,これは非常に重要な研究課題である.いつの日か,この問題の解が,汎用プログラミング言語の重要な部分になるであろう.

 つまり、人類はまだトランザクションを十分に理解していないのだ。いま世界中で何百万ものRDBMSが動き、世界経済のほとんど全部が金融機関の基幹系のトランザクションに載っているというのに、「トランザクションとは何か?」という問いには完全な答えがないのだ。

Posted by hajime at 20:54 | Comments (0)

2007年11月27日

細木数子の人気が下落中

 細木数子『六星占術による×星人の運命』は毎年8月に発売され、翌年の春すぎまで延々と週間ベストセラーリスト(文庫)に居座り続ける。11月末はちょうど目障りな時期だ。
 さて、11月末の週間ベストセラーリスト(文庫)を、過去5年分まで見てみよう。ちなみに『六星占術による×星人の運命』は1990年代からずっと出版されている。
 2003年
 2004年
 2005年
 2006年
 2007年
 ご覧のとおり、2004年にいきなり売れ始めた。2003年のに11月末にはランク外だったのだから、TVの力は恐ろしい。2005年にも同じペースで売れているが、2006年から下がりはじめ、今年はさらに下がった。
 このままフェードアウトしてくれれば嬉しい。『六星占術による×星人の運命』が延々と週間ベストセラーリストに居座るせいで、他の本が押しのけられて見えなくなってしまい、大変迷惑している。

Posted by hajime at 23:38 | Comments (0)

2007年11月25日

少コミを読む(第36回・2007年第24号)

 一気に追いつく第3弾。第24号。

 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第31回
 あらすじ:彼氏役()に元気づけられた主人公()の活躍で敵役のチームに勝つ。
 引きのアオリに「次号…衝撃の事件が」とあるので、翠が女とバラされての展開が始まるのだろう。不思議な踊りよりはだいぶ見られるものになると期待している。
 採点:★☆☆☆☆
 
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第6回
 あらすじ:彼氏役(京汰)に恋心を覚えながらも、その軽薄な恋愛観が許せない主人公(つばき)。つばきの苦しむ様子を見て、もうちょっかいは出さないと京汰が宣言する。
 今回ようやく作者の狙いが形になった。美しく切実な構造だが、これほど持って回った話にする必要があったとは思えない。作りこみの方向が間違っている。
 採点:★★★☆☆
 
・市川ショウ『HOBBY☆HOBBY』連載第2回
 あらすじ:主人公(美名)はラジコンサーキットで、自分と同じ趣味(写真)の当て馬()と知り合い、親しくする。それに嫉妬した彼氏役(和哉)が滸とラジコン勝負を始める。
 「彼氏役との距離感」を旋回軸に、ゆるく話が進んでいる。悪くないが、もう一押しあるといい。
 採点:★★★☆☆
 
・蜜樹みこ『ラブナイフ』新連載第1回
 あらすじ:学校の狭い人間関係に包囲され、好きでもない友達や男とつきあっている主人公(明希姫)。絶望しながら男にホテルに連れ込まれようとしたところを、彼氏役(天宮)が助けてくれる。しかし友達や男がその様子を見ていて、リンチを計画する。
 一読、「おおお」と唸った。話は切実で、構図も説得力がある。うまく着地すれば、この少コミレビュー始まって以来の傑作になるだろう。
 採点:★★★★☆
 
咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第15回
 あらすじ:敵役その2(リカ)が主人公()と決別、歩を利用していたと宣言。リカは彼氏役(蓮二)に迫るが、デザイン盗用を見抜かれており激しく拒絶され、怒りの矛先を歩に向ける。
 長期連載の定番、記憶喪失がきた。定番になるネタだけあって、続きが気になる。
 採点:★★★☆☆
 
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第7回
 あらすじ:敵役(臣吾)とつきあっているふりをする主人公(亜美)。彼氏役(千尋)と亜美は秘めた恋心に苦しむ。
 秘めた恋アピール。
 採点:★★☆☆☆
 
・藤中千聖『命みじかし、食せよ乙女』読み切り
 あらすじ:大食いの主人公は、学園の王子様(彼氏役)に一目ぼれされる。もともと主人公は彼氏役を憎からず思っていたが、彼氏役の家が有名ケーキ店をやっていると知り、そのケーキが食べられることに魅力を感じてつきあいはじめる。それを知った彼氏役は、主人公がケーキ目当てだったと誤解するが、主人公はTVの生放送で「それは誤解」と主張する。
 話が微妙に強引で、その強引さで迫力を出すのが作者の手法らしい。今回はうまくいっている。
 採点:★★★☆☆
 
くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第8回
 あらすじ:市の陸上競技大会、彼氏役()は悪天候にもかかわらず、好成績を出す。試合後の感激のなかで、翼は主人公(夏美)にくちづけ、夏美は翼に告白する。
 緊迫感を出す手として、怪我するのどうのは間違っている。小理屈ではなく絵で盛り上げるべきところだ。
 採点:★★★☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第54回
 あらすじ:が脳死と判定され、その心臓がに移植されることが決まる。
 昴の父親を心臓移植待ち(待機中に死亡)にしたのは、いくらなんでも厚塗りがすぎる。昴が持っていたドナーカードの由来話くらいが適当なところだろう。
 採点:★★☆☆☆
 
・伊吹楓『3度目は最上級Xmas』読み切り
 あらすじ:クリスマスにいい思い出のない主人公。今年の彼氏役にも、すっぽかされたと思いきや、真冬に花火を打ち上げてくれた。
 構図が説明的で、話が猛烈に間延びして感じられる。ラストに花火を持ってくるのも、ただ唐突なだけで必然性がない。
 採点:☆☆☆☆☆
 
・悠妃りゅう『こい・すた』最終回
 あらすじ:彼氏役()に未練のある元カノが陰謀をたくらみ、主人公()への疑惑を空に吹き込もうとするが、空は動じずハッピーエンド。
 棚ボタ(=「彼氏役はいい人でした」)がオチとはあきれた。
 採点:☆☆☆☆☆
 
・千葉コズエ『ぎゅっとしてチュウ』最終回
 あらすじ:一緒に初詣に行く主人公と彼氏役。アクシデントがあって主人公は彼氏役の家に行き、間抜けな下着を見られて恥じる。そのまま彼氏役と結ばれてハッピーエンド。
 前回には「次回最終回」の表示がなかった。
 「彼氏役と結ばれてハッピーエンド」はいつ見ても安易だ。
 採点:★☆☆☆☆
 
第37回につづく

Posted by hajime at 07:45 | Comments (0)

少コミを読む(第35回・2007年第23号)

 一気に追いつく第2弾。第23号。

 
咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第14回
 あらすじ:敵役その2(リカ)が彼氏役(蓮二)につきまとい、さらに主人公()にデザイン盗用の濡れ衣を着せる。
 敵役その1は鉄汰。鉄汰は画面の迫力が魅力的な敵役だったが、リカの魅力のなさ、インパクトのなさはひどい。
 採点:★☆☆☆☆
 
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第6回
・あらすじ:敵役(臣吾)が「自分とつきあえ、でないとお前が弟(彼氏役(千尋))に惚れているとバラす」と主人公(亜美)を脅し、亜美は従う。千尋は亜美の真意を問いただす。
 臣吾にもなにか主人公と似た事情があることが暗示された。臣吾を狂言回しに使うだけでなく捌くつもりらしい。そんな余裕があるなら、千尋の女装設定をもっと活用すべきだろう。
 採点:★★☆☆☆
 
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第5回
 あらすじ:彼氏役(京汰)が学園祭を助ける代償として要求されたデートを実行する主人公(つばき)。京汰の巧みな女あしらいで楽しいデートとなり、つばきは京汰を嫌いながら恋していることを自覚する。
 どうもこの作者は、話を作るときに、登場人物の動機や心理をほとんど気にかけないらしい。デート中にわざと頭からコーラをかけられて、激怒して即座に帰るどころかデートを続けてしまい、さらにその相手を「女あしらいがうまい」と思う人間(つばき)などというものを、よくまあ想像できるものだと心底驚いた。もしかしたらDV夫の妻というのはこういう人なのだろうか。
 採点:☆☆☆☆☆ そろそろRichard McBeefと比較したくなってきた。
 
・市川ショウ『HOBBY☆HOBBY』新連載第1回
 あらすじ:彼氏役(和哉)がつれていってくれるデートはいつもラジコンサーキット。主人公(美名)は不満に思っていたが、和哉の暖かい態度に触れて、自分の思いを主張しなかったことを反省する。
 雰囲気はいいが、話の旋回軸が見えない。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第30回
 あらすじ:当て馬(カズマ)は1点取るものの負傷退場。続いて主人公()も倒れるが、そこで観客席に彼氏役()が現れる。
 読むとMPを吸い取られる、不思議な踊りが続いている。
 採点:☆☆☆☆☆
 
くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第7回
 あらすじ:主人公(夏美)は自分の競技(短距離走)で好結果を出す。彼氏役()の競技(走り高跳び)は、天候の変化でピンチに陥る。
 同じスポーツ物でも、こちらは奇妙な踊りではなく、陸上競技のルールや味を生かしたドラマになっている。
 市川先輩が解説役に終始してしまっているのが惜しい。もう一味出せるポジションのはずだ。
 採点:★★★☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第53回
 あらすじ:が倒れる。
 ナランチャの死亡フラグ(「オ…オレ… 故郷に帰ったら、学校行くよ…」)がオリンピック金メダリスト級だとすると、この死亡フラグは、激安フィットネスクラブで振動ベルトを使っているオバチャン級といったところか。この下には、「TVの健康番組で仕入れた知識を三日だけ実行するオヤジ級」「ジャンクフードをダイエット食品で中和したつもりになっているデブ級」などがある。
 採点:★★☆☆☆
 
・千葉コズエ『ぎゅっとしてチュウ』連載第3回
 あらすじ:彼氏役が疲れ気味と知った主人公は癒し系デートを企画実行する。その最中、塾の急な用事でデートが中断する。彼氏役が用事を済ませて戻ってきて、なんとなく幸せに。
 「次回最終回」の表示がないが、次回で最終回になっている。
 旋回軸がない。少コミ全体でここ何号か、旋回軸のない話が増えてきたような気がする。構成力のある作家が少ないからドラマチック志向はやめよう、という判断でもあったのか。その方針でいい作家も多いが、この作者にそれはもったいないような気がする。
 採点:★★☆☆☆
 
・悠妃りゅう『こい・すた』連載第5回、次回最終回
 あらすじ:お祭りにデートに行く主人公()と彼氏役()。そこへ空の元カノが現れ、空に未練がある様子を見せる。
 ようやく空の元カノが現れたかと思ったら次回最終回。全6回なら、第1回から3回までを2回で済ませる構成にしたほうがよかっただろう。
 3回連載は最初から3回と決まっていると想像がつくが、6回連載はどうなっているのだろう。
 採点:★★★☆☆
 
・織田綺『女王様に命令!』読み切り
 あらすじ:久しぶりに再開した幼馴染(彼氏役)は、皆に愛される俺様男。主人公は彼氏役に命令される日々だが、恋人になりたい。
 彼氏役の傾向(俺様男)が前の連載と同じなのが気になる。
 少コミ作家は全体に、なかなか彼氏役の傾向を変えないような気がする。傍から見るかぎりは有害無益だが、実はなにか統計的な根拠でもあるのだろうか。失われた機会利益を統計的に算出できるほどのデータが集められるとは思えないが。まさか小学館の編集部ともあろうものが、読者からの手紙(「このあいだの××君みたいなキャラを出してください!」)に振り回されて、機会利益の逸失を無視しているとは思いたくない。
 採点:★★★☆☆
 
・ホンゴウランコ『満月の夜に』読み切り
 あらすじ:『銀魂』風の無時代劇(「無国籍料理」の仲間)。主人公は怪盗を追う青年。仮面を剥いでみると、その怪盗は知り合いの少女だった。主人公は怪盗を逃してやり、少女は怪盗をやめる。
 31ページのシリアスで、恋愛要素と無関係な主要要素を入れてきっちりした話に仕上げるのは、無理だと思う。
 採点:★★☆☆☆
 
・水瀬藍『37℃のボーイフレンド』最終回
 あらすじ:友達(奈緒)に自分の思い(千歳が好き)を正面から告げる主人公。奈緒はあっさり身を引くが、「千歳がまた別の女に乗り換えるのでは」という不安にとらわれる。この不安は、これといった理由もなく流されてハッピーエンド。
 「彼氏役がまた別の女に乗り換えるのでは」というネタは少コミ的においしいはずだ。恋愛・ドラマチック・身近な舞台、と条件が揃っている。が、3回連載では消化しきれないだろう。長期連載でもう一度やってほしい。オチは奈緒が「一瞬でも千歳とつきあえてよかった。もし最初からこの結末がわかっていても、きっと同じ選択をしただろうし、きっと幸せだった」と言い、主人公がそれを自分自身のこととして納得する、くらいか。
 採点:★★★☆☆
 
第36回につづく

Posted by hajime at 07:43 | Comments (0)

少コミを読む(第34回・2007年第22号)

 3回分たまった状態で追いかけつづけるのもなんなので、一気に追いつくことにしてみた。
 まずは第22号のレビュー。

 
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第4回
 あらすじ:彼氏役(京汰)の助けもあり、主人公(つばき)は学園祭を成功させる。つばきの妹が京汰と知り合う。
 やっとまともな少女まんがになった。長くは続かないだろうが。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第29回
 あらすじ:主人公()のチームが敵役のチームと試合。翠をかばって当て馬(カズマ)が倒れる。
 「これがサッカーといえるのか」どころではなく、「これがスポーツといえるのか」でさえなく、「これが勝負といえるのか」の域に達している。
 ルールも戦術もない不思議な踊りを見せられて、MPを吸い取られた。
 採点:☆☆☆☆☆
 
・千葉コズエ『ぎゅっとしてチュウ』連載第2回
 あらすじ:彼氏役が試験勉強にかまけて主人公に会ってくれない。「一緒に勉強する」という口実で押しかけてゆくが、まったく勉強する気がないのを見抜かれて衝突、その後仲直り。
 連載全体を通しての旋回軸がない。
 採点:★★☆☆☆
 
・悠妃りゅう『こい・すた』連載第4回
 あらすじ:主人公()と彼氏役()がつきあいはじめる。
 つきあいはじめの距離感の難しさをうまく使っている。
 採点:★★★☆☆
 
・水瀬藍『37℃のボーイフレンド』連載第2回
 あらすじ:友達(奈緒)とその彼氏(千歳)のつきあいは真剣なものではなく、奈緒と別れて主人公(若葉)とつきあいたいと千歳は言う。しかしその意思を察知した奈緒は、千歳を離すまいとする。
 語り口が重々しいわりに動機が軽いので、全体に納得度が低い。
 採点:★☆☆☆☆
 
咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第13回
 あらすじ:日本に帰国し、学校の夏期講習に通う主人公()。新しい友達(リカ)ができるが、リカの不審な行動にとまどう。
 「女の敵は女」イデオロギーの話を2本続けて読むと、気分が暗くなる。
 採点:★☆☆☆☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第52回
 あらすじ:とその恋人のつきあい。
 昴の死亡準備。
 採点:★★☆☆☆
 
・藍川さき『恋してる…。』読み切り
 あらすじ:よくわからない。
 因果関係はわかるが、ただ雑然とつながっているだけで、旋回軸がない。
 採点:★★☆☆☆
 
・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第5回
 あらすじ:学園祭のイベントにかこつけて敵役(臣吾)が主人公(亜美)にキスしようとするが、彼氏役(千尋)がさらってゆく。
 「姉弟だから」だけで引っ張っている。
 採点:★★☆☆☆
 
くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第6回
 あらすじ:市の大会に参加。主人公(夏美)のピンチに彼氏役()が颯爽と登場。
 8ページ目、なにげに「防府市」と書いてある。市章も防府市のものなので、設定で決まっているとみていいだろう。
 丁寧に進めているが、味が薄い。やはり滉士の作り込みの甘さが問題か。
 採点:★★★☆☆
 
・あゆみ凛『未完成ラブソング』読み切り
 あらすじ:彼氏役はバンドのボーカル。新曲を作るたびに女を振るというが、主人公は気にしない。そのあとは意味不明。
 主人公が強烈に「尽くす女」で、そのことになんのオチもつかないのが気味が悪い。
 採点:★☆☆☆☆
 
しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』最終回
 あらすじ:彼氏役(大輔)が新人カメラマンコンテストで1位受賞、二人で海外留学。
 全9回と、連載回数からして猛烈な速攻打ち切り臭さを匂わせる最終回である。作者のやる気のなさはともかく、編集部の決断力は評価したい。次でちゃんと彼氏役の傾向を変えてきたら、もっと評価する。
 前の連載と同じ、投げやりな海外オチだ。
 採点:★☆☆☆☆
 
第35回につづく

Posted by hajime at 07:42 | Comments (0)

2007年11月19日

ラノベのTVアニメ化はどれだけ効くか

 ラノベのTVアニメ化はどれだけ売れ行きに効くか? つまり、TVアニメ化による売れ行きの増大はあるのか? もしあるとしたら、どの程度か?
 結論からいうと、効く場合と効かない場合がある。効いたケースとしては『いぬかみっ!』がある。
 有沢まみずの週間ベストセラーリスト動向をご覧いただきたい。『いぬかみっ!』8巻の時点でR969。このときまでR1200以上の作家に一度も勝っていない。
 『いぬかみっ!』のTVアニメは2006年4月に放映開始した。そして2006/04発売の9巻、まずR1292に1回勝つ。2006/08発売の10巻、R1443に勝つ。2006/11発売の11巻、R1227に勝つ。12・13巻は適当な比較対象がないが、順位は高い。14巻、R1242に勝つ。かくして現在、有沢まみずはR1502をマークしている。
 効かなかったケースとしては、『護くんに女神の祝福を!』がある。
 岩田洋季の週間ベストセラーリスト動向によれば、2006/01/23順位のときR1257。放映半ばの2007/01/15順位でR1126、竹宮ゆゆこ『とらドラ!4』(R1113)に負けている。現在はR1266。まったく効いていない。
 また、これほど明瞭なデータではないが、『スターシップ・オペレーターズ』(水野良)は放映期間中に出た6巻がランク外(2005/05/23順位)に終わっている。この2005/05/23順位は、R700台が二人もランクインしているのだから非常にぬるい条件のはずなのにランク外である。もうひとつ例を挙げると、『住めば都のコスモス荘』(阿智太郎)も効かなかったように見える。
 
 なんらかの結論を引き出すにはあまりにもサンプル数が少ないが、こじつけると以下のとおり。
・WOWOWでは効果がない(『護くん』)
・ギャグでは効果がない(『コスモス荘』)
・出来の悪いアニメでは効果がない(『スターシップ』)
 アニメ化が効くのは、
・萌え系の原作を、
・そこそこ出来のいいアニメにして、
・地上波で流す
 という条件が揃った例外的な場合だけであり、原則としては「ラノベのTVアニメ化は効かない」と結論してよさそうだ。

Posted by hajime at 06:50 | Comments (0)

2007年11月14日

BLバブル

 「BLバブル」という言葉がある。その意味をはっきりと述べた例は、寡聞にして知らない。なのに、「BLバブル」なるものが存在したと信じる人々がいる。過去または近未来に、その「BLバブル」が崩壊した・すると信じる人々がいる。
 意味のはっきりしない言葉では、それが存在したかどうかを論じることもできない。だから仮に「BLバブル」を以下の2つのテーゼで定義してみる。
 
テーゼ1:BLが売れない時期→売れる時期→売れない時期、という歴史的な変遷があった
テーゼ2:売れる時期は、市場のファンダメンタルとは乖離した、一過性の異常な現象だった
 
 人気作家番付のデータをもとに、BLの売れ行きの変遷をみてみよう。BL作家のうち現在のトップ4、斑鳩サハラ・ごとうしのぶ・あさぎり夕・秋月こおの、文庫の年間ベスト順位を2000年から2006年まで列挙してみる。また、年間ベスト順位を記録した時点のRも示す。

 
斑鳩サハラ:
 2000年:R1317 2位 夏の感触
 2001年:R1395 5位 秒殺LOVE
 2002年:R1469 5位 今夜こそ逃げてやる!
 2003年:R1483 8位 蒼穹に銀鱗のウオ
 2004年:R1473 15位 しょせん発情期
 2005年:R1495 20位 花束なんか欲しくない
 2006年:ランクインなし
 
ごとうしのぶ;
 2000年:R1157 11位 花散る夜にきみを想えば
 2001年:R1279 6位 ピュア
 2002年:R1378 5位 フェアリーテイル おとぎ話
 2003年:ランクインなし
 2004年:R1342 1位 夏の残像(シーン)
 2005年:ランクインなし
 2006年:R1485 6位 薔薇の下で 夏の残像 3
 
あさぎり夕:
 2000年:R1717 2位 猫かぶりの君 4
 2001年:R1831 1位 永遠までの二人
 2002年:R1898 2位 無口な夢追い人(ドリーマー)
 2003年:R1972 5位 無口な婚約者(フィアンセ)
 2004年:R1719 15位 貴公子と迷子のウサギ 後編
 2005年:R1758 13位 親猫は恋に落ちる
 2006年:R1484 15位 星降る夜の恋がたり
 
秋月こお:
 2000年:R1157 5位 マエストロエミリオ
 2001年:R1023 4位 バッコスの民
 2002年:R1016 5位 王様な猫の戴冠 王様な猫 5
 2003年:R1317 7位 闘うバイオリニストのための奇想曲(カプリチオ)
 2004年:R1406 5位 その男、指揮者につき...
 2005年:R1388 9位 バイオリン弾きの弟子たち
 2006年:R1424 12位 人騒がせなロメオ
 
 BL作家として史上最高のR2001(文庫 2003/07/14 順位)をマークしたのはあさぎり夕。コバルト文庫という強力なレーベル(後述)で2003年前半まで常勝を誇った。しかし2003年8月を境に急落し、その後も回復していない。
 (強力なレーベル:レーティングシステムの性質上、ベストセラーリスト入りする作家の頭数が多いレーベルで書いている作家のほうが、Rの変動が速い)
 トップ4のうち、BL専門でないレーベルで主に書いていた作家は、あさぎり夕だけだ。ほかの3人は、BL全体が地盤沈下しても、あまりRは下がらない(上がりづらくはなる)。あさぎり夕の急落は、純粋に作家個人の現象なのか、それともBL全体とリンクした現象なのか? それを知る手がかりを順位に求めてみる。
 2000年から2002年までの年間ベスト順位と、2004年から2006年までを比べてみて、後者のほうがいいと言えるのは、ごとうしのぶだけだ。
 とはいえこの順位も注意を要する数字だ。集計期間の先頭が発売日なのと、半ばが発売日なのとでは、順位に大きな差が出る。また人気シリーズと単発では売れ行きが異なる。だから年間ベスト順位を取って変動を抑えているが、年間の作品数が少ないと、変動がより大きく出てしまう。4人とも、2000年から2002年までのほうが作品数が多いので、年間ベスト順位の比較は割り引いて考えるべきだ。それでもやはり、テーゼ1(売れない時期→売れる時期→売れない時期)を支持する結果である。
 
 テーゼ2(市場のファンダメンタルとは乖離した、一過性の異常な現象)を支持する根拠も、番付のなかに探すことができる。
 BLトップ4全員が、1998年、すなわち週間ベストセラーリストの集計・発表が始まった時から週間ベストセラーリスト入りしている。対するに、いま全体トップの時雨沢恵一は2000年から、2位の佐伯泰英は2002年からだ。これは、有力な新人作家の参入(時雨沢恵一)や、無名ロートル作家のブレイク(佐伯泰英)があったことを示している。BLはというと、トップ4以下は吉原理恵子(1998年から)、遠野春日(1999年から)、妃川蛍(2001年から)、金沢有倖(1998年から)、崎谷はるひ(1999年から)と続く。
 以上から、BL市場の過去10年の状態について、以下のように推測することができる:
 
・有力な新人作家が登場しない。たとえ登場しても、人気を得られない
・無名ロートル作家のブレイクを可能にするような、作家側の意欲的な試みがあまり活発でない
 
 BL市場がこのような状態に陥った原因、そして過去10年間にわたってこの状態のままだった原因は、わからない。それを探るには、作家人気番付とは異なるアプローチが必要とされるだろう。
 過去10年間にわたって――そう、バブル崩壊を境にして絶えたのではない。BL市場は、観測しうるかぎり昔(1998年)から、このような状態だったのだ。これでは先細りは避けられない。
 新人作家が現れないかまたは浮かび上がれず、ロートル作家が挑戦できない市場は、ファンダメンタルが弱いと表現していい。「BLバブル崩壊」というのも、雪崩を打つような急激なイメージではなく、なだらかに先細りが生じたというイメージなら、おそらく適切である。
 
 まとめ:
・1998年からの観測によれば、BLの売れ行きは2003年ごろを境に悪化した。
・BLの売れ行き悪化は必然的に生じた。BL市場が長年にわたり挑戦者に冷たかったことが原因である。
・2002年ごろまでのBLの売れ行きは、BL市場の価値創造力に比して過大であり、これは「バブル」と表現してもいい。
・しかし2003年ごろに起きたのは、「崩壊」というような急激なものではなく、なだらかな先細りである。

Posted by hajime at 19:35 | Comments (0)

2007年11月08日

人がスパムボットになるとき

 いわゆるネット右翼の挙動は、人間よりもスパムボットに近い。ネット右翼という現象自体、人間というハードウェアの上でボットネットが動いているかのように思える。
 このスパムボット感が、1992年に予言されていた。
 笙野頼子『レストレス・ドリーム』(河出書房新社)
 主人公の跳蛇が、悪夢のなかでビデオゲームのように戦う、一種の幻想小説である。敵はゾンビだ。跳蛇はゾンビの街スプラッタシティで戦いを開始する。
 シューティングゲームの弾や敵機に相当するのが、ゾンビ達が感染し撒き散らす「言葉」だ。ゾンビ達は、跳蛇のような犠牲者をこの「言葉」でリンチにかけて殺し、感染させ、ゾンビに仕立て上げようとする。現世にいる読者の目にはその「言葉」は、押し付けがましい権力的な言辞や、そのような押し付けに迎合する翼賛的な言辞として読める。

 ――どうか、ボクを守ってください。ボクはナイーブで子供っぽい男だから。(84ページ)

 「あらっ、あたしは政治に関心のない馬鹿女とは違うわっ、同時にいつでも女である事を忘れたくはないし……」(57ページ)

 権力的・翼賛的な言辞が弾幕のようにゾンビ(=感染者)から放たれる――その感触は、ネット右翼の挙動のスパムボット感と、気味が悪いほどそっくりだ。

Posted by hajime at 01:44 | Comments (0)

Open Handset AllianceとAndroidの謎

 サービスやエクスペリエンスとはまったく無関係な、開発コスト削減だけの話なのに、商業ITニュースサイト(@ITなど)や株式市場がこれほど食いつく理由がわからない。
 UNIXとC言語をゾンビのように生き長らえさせることの、いったい何が注目に値するのか。こんな後ろ向きなコストダウンでもGoogleの名前さえつけばニュースになるのか。
 First, we need a big dream. A moonshot.
 『How Microsoft can shut down Mini-Microsoft』が書かれたときにも、Microsoftは静かに月を撃っていた。Windows CEは少なくともUNIXではない。

Posted by hajime at 00:52 | Comments (0)

2007年11月04日

志願を求める

200人の候補者を選定して志願を求めた。健康上の理由などを除き、拒否すれば辞職を求めるという。
 
 それは志願ではない。
 「本を焼く者はやがて人を焼くようになる」というが、人を焼く者はいずれ本(言葉)を焼かざるをえなくなる、ともいえるだろう。

Posted by hajime at 02:33 | Comments (0)

2007年11月02日

警察パワー

 ソ連はあるよ、ここにあるよ。
高知の冤罪事件
 そういえば来週の水曜日は、十月革命90周年記念日だ。

Posted by hajime at 08:45 | Comments (0)

2007年11月01日

少コミを読む(第33回・2007年第21号)

 作家人気番付の仕上げなどにかまけていたら、2号分溜まってしまった。今回は第21号のレビューである。

 
 ・車谷晴子『危険純愛D.N.A.』連載第4回
 あらすじ:彼氏役(千尋)に惹かれながら避ける主人公(亜美)。
 つなぎの回。無難につないでいる。
 採点:★★☆☆☆
 
・水波風南『今日、恋をはじめます』連載第3回
 あらすじ:学園祭の実行委員を押し付けられた主人公(つばき)。うまくいかないので彼氏役(京汰)に頭を下げる。
 表紙の意味がわからない。主人公の衣装はなんなのだろう。
 採点:★★☆☆☆
 
・千葉コズエ『ぎゅっとしてチュウ』新連載第1回、以前の読み切りの続き
 あらすじ:主人公が彼氏役に告白、つきあいはじめる。
 間合いがいい。
 主人公の一人称が自分の名前なのは、さすがにやりすぎだ。 
 採点:★★★★☆
 
・悠妃りゅう『こい・すた』連載第3回
 あらすじ:主人公()が彼氏役()に告白したが、「俺は女を信じねえ」とふられる。それでも空を追いかけていたら、いいところを見せる機会に恵まれて恋仲に。
 展開が直線的すぎる気がする。
 採点:★★☆☆☆
 
池山田剛『うわさの翠くん!!』連載第28回
 あらすじ:当て馬(カズマ)のアピールタイム。敵役のチームとの試合が始まる。
 カズマの扱いを見ていて、ふとあだち充『みゆき』のことを思い出した。冒頭からしばらくは、鹿島みゆきと若松みゆきのどちらと結ばれるのか、ストーリーだけではよくわからないが、コマ数を数えると倍くらい若松みゆきのほうが多い。「本命一直線、当て馬なんか知るか」といわんばかりの態度に男らしさを感じた。
 対してカズマと彼氏役()の扱いには、「彼氏役は彼氏役として、当て馬は当て馬として」という役割の振り分けを感じる。お前(主人公の)は二人の上司のつもりか、と言いたくなる。
 採点:★☆☆☆☆
 
・水瀬藍『37℃のボーイフレンド』新連載第1回
 あらすじ:主人公が通りすがりの男に言い寄られて逃げ出したあと、友達の彼氏を紹介されてみたら、さっきの男だった。そのあと再び言い寄られる。
 故障したエレベーターに閉じ込められている最中に言い寄られたら、相手が何者であれ、怒りしか沸かないような気がする。
 構成がごちゃごちゃしている。鷹臣の位置づけがよくわからない。
 採点:★☆☆☆☆
 
咲坂芽亜『姫系・ドール』連載第12回
 あらすじ:主人公()はデザイナー修行を決心し、そのために日本に戻ると言い出す。彼氏役(蓮二)は戸惑うが、翌日には快く送り出す。
 因果関係だけみれば普通にいい話なのに、余計なものがつきすぎている。
 採点:★★★☆☆
 
くまがい杏子『放課後オレンジ』連載第5回
 あらすじ:主人公(夏美)の弁当をめぐって彼氏役()が微妙な反応。滉士が夏美に告白。
 絵も話も丹念でいい。ただ滉士の作り込みが甘そうなのが気になる。
 採点:★★★★☆
 
青木琴美『僕の初恋をキミに捧ぐ』連載第51回
 あらすじ:心臓移植による人格変化を匂わせた。
 大ゴマを連発して引き伸ばすのと、話を接木して引き伸ばすのと、どちらがマシなのか。
 採点:★★☆☆☆
 
・麻見雅『かけ×おちっ』読み切り
 あらすじ:主人公は、富豪の御曹司である彼氏役に一目ぼれされ、すぐさま駆け落ちにつきあわされ、無人島でサバイバルのあと「駆け落ちサバイバルで君を試した、結婚してください」。
 話はまんが的なスピード感があっていいが、絵とあまり合っていない。もっとスピード感のある構図にできるはずだ。
 採点:★★★☆☆
 
しがの夷織『はなしてなんてあげないよ』連載第8回
 あらすじ:敵役(鳴海)にさらわれた主人公(京華)を彼氏役(大輔)が救出。
 「次回最終回」の予告なしで次回最終回になっている。
 暴力団は完全にギャグでないと少女まんがには出せないような気がする。
 採点:★☆☆☆☆
 
・ナオダツボコ『眠れぬ夜に君を想う』読み切り
 あらすじ:彼氏役に告白めいたことを言われるが、素直に応じられなかった主人公。その後、彼氏役から「あれは忘れてほしい」と言われ、さらに苦悩を深める。
 少コミには珍しい心理まんがだ。少コミ読者がどれくらい理解できるのか。
 採点:★★★☆☆
 
第34回につづく

Posted by hajime at 18:03 | Comments (0)